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【連載小説】透明な彼女 vol.14「成仏する?」

ユイが成仏する――

つまりはユイが……いなくなる……

そういうことだ。

8ヶ月も一緒に暮らしていれば、いなくなるなんてそんなこと、考えることもなかった。


でも、ユイがここにいるということは、何かしらこの世に未練がある可能性が高い。

未練があるというのは、ユイにとってもいいことではないはずだ。



俺もここから一歩、進まねばならないということだ。


俺はいつもユイに甘えてきた。

生前も、死んだあとも。

ユイに甘えて、自分はそれでいいんだ、と、思い込んできた。


ユイが好きだ。

今でも変わらず好きだ。

でも、だからこそ成仏させてやるべきじゃないのか?


俺の心は揺れた。


今こうして一緒に朝ごはんを食べる、これも幸せ。

一緒の布団に寝る。

これも幸せ。


幸せは数え上げたらキリがないほどたくさんある。


ユイの香りは俺を安心させてくれる。

冷たいけれど、抱き締めたときの感触は今すぐにでもはっきり思い出せる。


男の事情ってやつのときだけ、部屋から出てもらう。

これは生身の人間だから、仕方がない。

生理現象なのだから。


それ以外はユイ・ユイ・ユイ。

俺の全てはユイがいて成り立っていた。


ユイがいなかった二年間を思い出そうとするが、霧がかかったように、思い出せない。


これだけユイに染まっているなら、いっそユイとずっと暮らしていけばいい。

俺はそれも考えた。

でも、ある日突然ユイが成仏したら?

それを考えると怖くなる。

今だって、ユイが描いた絵のおかげで俺は暮らしている。


自分で考えても、そこまでユイに頼ってたら、俺はこのまま何も出来ない人間になるんじゃないか、とも怖くなる。



何日も、眠れぬ夜を過ごした。

ゲームをしているユイにばれないように、寝息をたてるふりまでした。


ある朝起きたら、朝食の支度をしながら、ユイが言った。

「一週間と3日」

「え?」

「もう一週間と3日、まともに寝てないでしょ?」

「えっ……気づいてたの?」

「あったりまえじゃない!すぐにわかるわよ、そんな嘘」

「そっかぁ……ははは」

「ははは、じゃなくて、何をそんなに悩んでるの?」

「いやー、俺まだ内示こないし、教員落ちたかなって!!」

「そんな嘘すぐにわかるんだから。で、何を悩んでいたのよ?」

「……どうしても言わなきゃダメか?」

ユイは後ろから抱き締めてきて呟いた。

「私の……ことなんだよね?」

「!!」

「コウヘイのことは、隠してたってすぐにわかるよ。顔に出るもん」

ユイは食卓を挟んで前に座った。

「もしかして、私が成仏しないかって悩んでるの?ピンポーン図星でーす」

ユイは俺を元気付けようと、おどけて明るくいったけど、俺は明るくなんてなれなかった。

「あたしさ、聞いちゃったんだ。後輩ちゃんがコウヘイのこと好きッて話。」

俺はうつむく。

「付き合うなら、ちゃんと消えるから、安心してね!」

俺の拳はぶるぶると震えた。

「あたしが邪魔だったら、遠慮せず、いつでも言っていいんだよ!」


とうとう我慢ができなくなり、拳で机を殴った。


ユイは怯えるように部屋の隅の方へいく。


「俺は……俺が知りたいのは、いつまでお前といられるかなんだよッ!!」

「あたしと……?」

「そうだよ、だってお前、いつ消えてしまうかわからないじゃないか!」

俺は泣いた。

久しぶりに泣いた。

おいおいと、嗚咽しながら泣いた。

いつしか、ユイが隣に来て俺を抱き締めていた。

ユイの冷たい手で、俺の涙を一滴を拭い去るとユイは言った。


「そうだね……いつかいなくなってしまうかもしれない。でも、その日まで泣いて過ごすより、笑って過ごしたいじゃん?」


「そんなごどっ、わがってるけど、でもッ」

「私は泣いてるコウヘイも好きだけど、笑ってるコウヘイの方が好きだな」


その日は1日なにもできず、ただユイに甘えるように抱かれていた。

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