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【連載小説】透明な彼女 vol.15「どうすれば・・・」

疲れた。

何もする気が起きない。


本当は疲れたなんて言ってないで、ユイが成仏出来る方法を、探さないといけないのに。


ユイがしたかったこと……

それって何だろう?


この世に留まってまでしたかったこと……


一つ一つを確かめていくより他ない。



一つ目。

親孝行をする。

俺は少しだけ無理をして、旅行のチケットを手配する。

ユイのご両親にいってもらうためだ。

当然ながらご両親は遠慮する。

しかし、俺がユイがしたかったことをしたい、と涙ながらに言うと、了解してくれる。

それでも遠慮がちに、チケットを受け取ってくれる。

この旅行には、ユイも同行するようにと伝えてある。

夢枕にでも立って、ご両親に伝えたいことを伝えればいいだろう。


ユイはなんだか寂しそうに旅行へ出発する。


俺はなんだか複雑な気分で絵を描いている。


結局教職は定員オーバーで入れなかった。

俺はバイト代と、ユイの描いた絵でほそぼそと暮らしている。

何をすることもなく、ただひたすら絵筆を握った。


いつかユイを越えたい。越えて認められたい。

そういう思いもあったし、自立したいという気持ちもある。

絵を描いているときしか、自分が自分じゃなくなる気がしていた。



旅行からユイが帰ってきた。

と、同時に俺の携帯が鳴る。

「もしもし?」『もしもし?コウヘイくん?』

ユイの母親からだった。

『実はね、夕べもその前の日も、夢にユイが出てきたの!』

「あいつ親孝行したいって言ってたから……」

少々語尾を濁す。

『それでね、夢の中でしばらく話をしていたんだけど、コウヘイくんをよろしくって何度も頼まれたのよ』

「そうなんですか」

あいつめ……なんのための親孝行だよ!

『自分のことは、今幸せだから心配ないよって……』

おばさんが涙声になる。

『それがね、不思議なことに、お父さんも同じ夢を見たらしくて。コウヘイくんのおかげでもう一度ユイに会えたって、大喜びで。』

「それはよかった。ユイの最後の願いを叶えてあげたくて、俺、頑張っちゃいました!」

『ありがとうねぇ、お父さんにも今代わるからね』

すると、お父さんはもうすでに泣いているのか、鼻をすすりながら電話に出た。

『コウヘイくん、ホントにありがとう。ユイの最期の言葉が聞けてよかったよ』

俺も思わずもらい泣きしてしまった。

ユイ本人は目の前にいるのに。


一通りお礼を言われると、電話を切った。


目の前にいるユイに

「なんともない?」

と聞くと

「なんともない」

と返す。



2つ目。

今度は姉妹に一言ずつ、言いたいこと、言ってこいよ。

とユイを促す。

「あんまりしゃべるネタ、ないんだけどなぁ」

と言いつつ消えるユイ。

翌日帰ってきたユイにどうだったかを聞くと、

「一応生きてたときのお礼は行ってきた。あと、文句も少々。」

「文句もってなんだよ?」

「今は死んじゃってるからいいけど、人の靴とか服とか使いすぎって。反省してくださいって言ってきた」

それは、余計な一言ではないかい、ユイくん。

それで……

「身体も心も異常なし」

これじゃなかったのか……


3つ目。

あとはペット?

いつも可愛がっていたウィルシュコーギーの桃ちゃん。

夜中にこっそり散歩に連れ出した。

それでもユイは成仏しなかった。


4つ目。

友達を一巡りしてもらうが、これも効果なし。


あとは、絵か俺が、だ。


5つ目。

「いちど思い切り描きたかったものを描いてみなよ」

さらに大きなカンバスを用意する。

ユイは水を得た魚のように、大きなカンバスに絵を描いていく。


うちに持って帰るのにギリギリな大きなカンバス。

しかし、ユイは怯むことなく、下書きをしていく。

ユイより大きなカンバスに、飛び出してきそうなほどリアルな下書きができる。

それは、手と手を結びあった絵だ。


下書きをすませると、今日はここまで、と鉛筆を置いた。

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