【連載小説】平々凡々な会社員が女子高生に!? vol.38 「佐藤」
それからというもの、俺は何度も坂井とキスを交わした。まるで、なにかを覚えたてのサルのように。
学校でみんなが見ていない隙に。帰りの駅で。帰りの道の途中で。
ホントにサルみたいだった。
回数をこなせばこなすほど、シたくなる。
学校では普通に接していたけど、考えてることは多分、同じだろう。
シたい。シてみたい。
それはほんの小さな出来心のような、でも大きく心の場所を占めた。
坂井には言えない。多分同じことを考えているだろう、だからこそ言えないのだ。
こんな大事なことを誰に相談しよう? ミキちゃん? ミユキちゃん?
俺は迷った挙げ句、二人に同じことを言うはめになった。
ミキちゃんは、
「付き合ってるんだし、自然な気持ちだと思うし、シてもいいんじゃない?」
と言った。
ミユキちゃんは
「だめだめ、まだ早いよ! 付き合いだしてまだ2ヶ月だよ? どう考えてもまだ早いよ!」
と言う。
どちらの意見もごもっともで、俺は最後の一線を越えきれなかった。
そんな折、クラスの中である噂が流れた。飯田と仲がよかった佐藤が妊娠したという噂話だった。
飯田は一生懸命に否定していたが、佐藤は休み始めて3日経っており、本人への確認はとれていないようだった。
あるクラスメイトは、ラインで佐藤に聞いてみたが、全く返事が来ないと言う。
みんなが興味半分であるのに対して、俺は真剣だった。
ヤればできる、その可能性がゼロではない。避妊したとしてもゼロにはならないからだ。
ヤればできる、そんな単純なこと、考えればわかりそうなものだけど、目の前に据え膳置かれてしまえば、だれにだって可能性はあることなのだ。
俺は坂井と少し距離を置いて接するようになってしまった。
佐藤の休みはまだ続いている。これで一週間まるまる休んだことになってしまう。
こんなに長く休むと、余計出てきにくくなるのではないか、と俺は心配した。
まさか、ホントに中絶で休んでいるのか……?
翌朝、佐藤は登校してきた。
みんなが距離を置いているのがわかる。
そんな中で、飯田だけはいつも通りに挨拶をして接していた。俺も飯田にならう。佐藤は少し驚いていたが、にっこり微笑むと言った。
「おはよう」
佐藤は結局重たい沈黙に耐えられずに、重たい口を開いた。
「みんなが思ってること、当たりだから」
それを聞いて女子の大半がざわめいた。
俺は何とも言えない、切ない気持ちになった。言いたくないことだったんだろう、しかしそれを押し退けて発言した勇気は尊敬に値する。俺は佐藤に、
「辛かったね」
とだけ声をかけた。
すると、堰を切ったかのように佐藤は泣き出した。俺は俺が泣かせたみたいで焦ったが、周りみんなが優しい声をかけ始めて、あぁ、これでよかったんだな。と思った。
帰宅してまず最初に、ユキノに声をかけた。
「あんた、スルとき、ちゃんと着けてるんだよね?」
「あ?あぁ……まぁ、着けたり着けなかったりかな」
「絶対着けなさいよ!」
と言って今日の話をよく言って聞かせた。
よし、今日はお姉ちゃんらしいことを一つしたぞ!そんな気持ちになりつつ、その日は床に就いた。
坂井がヤりたがっている。直接は言わないけど、態度や目線でわかる。まだ3ヶ月しか経ってないけど、一番興味がいくのはそれは当たり前のことだろう。
俺は佐藤のときのショックからまだ抜けきれずにいた。
でも、もう3ヶ月……バレンタインもあることだし、ちょっと誘ってみようかな、なんて気分にもなったりして、浮いたり沈んだりを繰り返していた。