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郷土趣味社・田中緑紅が編集していた謎の雑誌『奇習と土俗』

 田中緑紅(田中俊次)は京都を拠点として活動していた郷土史の研究者として知られており、雑誌『郷土趣味』を編集していた。この雑誌は、『民俗学関係雑誌文献総覧』竹田旦編(国書刊行会、1978年)にも目録が収録されており、雑誌記事索引集成データベース「ざっさくプラス」にも登録されている。そのため、『郷土趣味』は比較的知られていると思われるが、この雑誌以外に田中が編集していた『奇習と土俗』という雑誌があったことを最近知った。この雑誌の実物をみてみたいと思ってヤフオクで出品されていた「その七」を1冊購入したので、以下に何枚か写真を掲載しておきたい。写真をみていただけると分かるように和本の小冊子である。

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 国会図書館サーチやCiNii Booksで調べてみると、国会図書館を含む公共図書館や研究機関にほとんど所蔵がないようである。これらの書誌情報によると、その1からその8まで出版されていたようである。その1は1921年もしくは1922年に発行されたようだが、各館の書誌情報によって異なるので実物をみてみないと分からない。その8は1930年に発行されたので、『郷土趣味』が終刊になった1925年以降も継続していた。

 雑誌の内容は上記に掲載した写真のように各地に当時めずらしいと考えられていた習慣、行事、建築などが簡単な文章と写真によって紹介されている。個人的には写真で掲載したような「迷子しるべ」という習慣がおもしろいと思った。もうひとつ例を挙げると、飛騨の大家族とその住居が以下のように紹介されている。

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 以下のテキストによると、柳田国男と田中はめずらしい習慣や民俗をめぐって対立があったようである。柳田は一見するとめずらしい習慣や民俗の変遷をたどりかつては平凡なものであったことを実証しようとしていたが、田中はこれらをめずらしいものとしてそのまま捉えようとした立場の違いがあったように思われる。


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