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山下俊男の『郷土趣味』別冊「白水荘だより」

 先日、山下俊男の発行していた『郷土趣味』を紹介したが、この雑誌の第2輯によれば、「白水荘だより」という別冊子があったようだ。第2輯の「白水荘より」では、この「白水荘だより」について以下のように紹介されている。

(前略)この機関誌「郷土趣味」は研究論文の発表機関となる気味があり、民間の一寸とした民俗学的な風習の報告がやや出来難いと云った様な話があるので本月より御覧の通り別附録として「白水荘だより」を附す事とし、本誌に掲載出来なかった分とか簡単な年中行事の報告ニュース、其の他を通常に発表しようと思ふ。よろしくお願ひする次第である。/ 本誌の発行出来ない月でも「白水荘だより」丈は必ず出して行きたいと思っている。/ 尚「白水荘だより」は毎号千部宛印刷し各方面に広く配布し郷土研究に便ならしめたいと思っている。御希望の方には何部でもお分けする故、お申込頂きたい。(後略)

「白水荘だより」は、『郷土趣味』に掲載しなかった簡単な文章を投稿するための冊子であったことがわかる。特に初期の民俗学関連雑誌に多く投稿されていた資料紹介や報告は「白水荘だより」に掲載されていたようである。

 「白水荘だより」が何号まで出ていたかどうかは不明だが、私の方で九・十月号の1冊を確認することができたので、以下に書誌情報を紹介しておきたい。発行日から上記の記事で紹介した第3輯の後に発行されたことがわかる。

発行:昭和十一年十月十五日
編集発行人:山下俊男
印刷人:酒井泰三
印刷所:酒井印刷所
編集発行事務所:白水荘 ※山下の自宅と思われる。
「郷土趣味」第三輯所載小稿「解剖記事」に就て 吉川生
むかしばなし 森眞水
入鹿池略年表
予告 第4輯

予告では第4輯の目次は以下のようになっている。

小野木鉦三翁覚書―軽輩の見たる幕末挿話― 市橋鐸
高野長英と名古屋の人々 吉川芳秋
常安寺のお釈迦様(補遺) 森眞水
尾張と倭建尊伝説分布の関係(三) 安藤直太朗
大蒲八景 森一夫
全指班田の遺址 富田寛
盆踊研究(分献考) 服部鉦太郎

予告が出ているので第4輯も発行されたようにみえるが、実際は発行されていないと考えられる。以下の記事で紹介したように、後に『郷土趣味』は、加賀紫水の発行していた『土の香』と合同したが、『土の香』第19巻第1号には、上記の予告に登場した市橋鐸「小野木鉦三翁覚書―軽輩の見たる幕末挿話―」、吉川芳秋「高野長英と名古屋の人々」が掲載されている。また、第19巻第5号に安藤直太朗「尾張に於ける日本武尊に関する伝説(補遺)」が掲載されており、上記の予告中の安藤の文章と標題は異なっているが、同じテーマの文章である。

 したがって、『土の香』が『郷土趣味』第4輯に掲載されるはずであった原稿を引き継いでいるため、『郷土趣味』第4輯は発行されなかったと言えるだろう。そして、最初に引用した記事の中で推測したように、『郷土趣味』は第3輯まで発行された後に『土の香』に合同したということになる。

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