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『土の香』を発行していた加賀紫水の謄写印刷サービス酷評される!

 拙noteでも度々取り上げている橘正一は以下の記事でも紹介したように彼の批評は時として辛口になる場合もある。彼の発行していた『方言と土俗』第2巻第1号(1931年5月)の「編集室だより」にも次のような辛辣なコメントがある。

前号は素人にやらせたために筆耕印刷とも不出来で、おまけに、誤植が非常に多かった。之にこりて、今度から別のところでやらせる。

「編集室だより」『方言と土俗』第2巻第1号

『方言と土俗』は謄写版印刷だが、ここで橘は前号の印刷の完成度に対して苦言を呈している。この号の奥付を確認すると、廣文社であるが、前号である『方言と土俗』第1巻第12号(1931年4月)の奥付を確認すると、印刷人が加賀治雄、印刷所が愛知土俗趣味社となっている。

 拙noteをご覧になっている方々には、おなじみ(?)かもしれないが、加賀治雄は『土の香』を発行していた加賀紫水土俗趣味社は『土の香』の発行元である。『土の香』第4巻第3号(1931年3月)の編集後記には、印刷を請け負うサービスを開始したことが述べられている。この印刷サービスの広告は『方言と土俗』第1巻第12号にも掲載されている。よって、上記に引用した橘の批判は、『方言と土俗』第1巻第12号の印刷に加賀の印刷サービスを使ったが、その印刷がよくなかったということである。『土の香』第4巻第4号の編集後記には、加賀の印刷サービスが好評であるということが述べられているが、橘のように不満に思っていた者もいたようだ。他にも加賀の印刷品質の悪さは、以下の記事で紹介したように本山桂川によっても指摘されている。

 余談だが、ここで橘は加賀の印刷の悪さを指摘したが、加賀との交流は継続しており、その後も『土の香』に多くの文章を投稿している。『土の香』や加賀の印刷をよくないと考えていたが、橘はこの雑誌のことを高く評価していたようである。橘の『方言と土俗』と同じように『土の香』が方言のことを取り上げているというだけでなく、個人出版であったということも評価の高い理由であったのだろうか。

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