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謎の労働運動家・藤井悌の文藝と酒

 以前、以下の記事で『随筆』第2巻 第6号(人文会出版部発行, 1927年)に拙noteでも度々取り上げている謎の労働運動家・藤井悌に対して経済学研究者・福田徳三が文章を寄せていることを紹介した。この雑誌の「藤井悌氏の印象」では、福田以外にも文章を寄せている人物がいる。

文章を寄せている人物と職業、その文章の表題を以下にリスト化したい。(注1)

「風味掬(きく)すべき人物」澤田謙(作家)
「酒と離されぬ」石橋四郎(不明。『和漢酒文献類聚』の著者)
「篤学の士」福田徳三(経済学研究者)
「ある時の印象」青野季吉(作家)
「熱情ある講義ぶり」小野武夫(農学研究者)
「珍しい型の新人」川原次吉郎(政治学研究者)
「歌になる男」森本富士雄(歌人)
「酒の藤井氏」太田利一(労働運動家?『農村社会に於ける主要問題』などの著書あり)

上記の人物は、①研究者・労働運動関係、②文藝関係の2つに分類することができるだろう。藤井の①の面は拙noteでも度々紹介してきたが、②の面は取り上げられていなかった。以下の記事の中で、藤井が西田天香の設立した一燈園の機関誌『光』に投稿していたということを紹介したが、これは例外である。

 ②に分類される人物は、藤井の文藝に対する面をどのように評価していたのだろうか?「風味掬すべき人物」澤田謙を以下に引用してみたい。

藤井悌君は酒▢飲みます。飲むと梯です。だから悌は梯の誤植だなといふ人もあります。風味掬すべき人物。弱いやうな強い人です。理屈は好きだし、上手だけれど、理屈で動く人でないと思ひます。情味の豊かな、東洋的な、話はくどいが面白い。天成の詩人といふのか、短歌はいいのが多い。文章もあく抜けがしていて、感心します。(▢は私では判別できなかった部分。また、一部を現代仮名遣いにあらためた。)

上記の澤田の文章によると、藤井は詩、短歌、エッセイなども執筆していたであろうことが推測できる。以前「ざっさくプラス」で調べた、藤井の著作リストを確認してみると、藤井はこの文章が投稿された『随筆』という雑誌に度々詩、短歌、エッセイを投稿していたようだ。

 また、他の投稿者の藤井の印象で共通しているのは、酒が好きという評価である。藤井という人物を語るのに、酒は欠かせないものであったようだ。たとえば、以下に「酒の藤井氏」太田利一を引用してみたい。

北国育ちのジメジメしたところはあるが、一度酒杯を手にすれば、頗るたあいのないものである。酔ざめの水をさぐつて夜遅く台所にもぐり込み、泥棒と間違へられて大騒ぎをされた話、親類の家で酔ひつぶれて酔眼朦朧「おい会計だツ」と威勢よくそこの奥さんをおどかした話等々々、「酔ふて件の如し・・・」とは、どうも特に藤井氏のために作られた言葉でもあるかのやう・・・酒のうへの逸話は頗る多い。酒の藤井氏!金ツボまなこで肩をいからせ、風貌の甚だいかめしい割合に妙に人なつこく感じられるのは、こんな反面があるからだろう。(一部を現代仮名遣いにあらためた。)

 最後に、以下にこの雑誌の裏に掲載されている藤井の著書である『ナポリの浮浪児』(人文会出版部, 1927年)の広告を紹介したい。以下の広告でも藤井の文才が強調されており、仲間の間では評判ではあったことが分かるだろう。

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(注1)職業は国会図書館の所蔵資料の検索を利用して推定した。


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