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民俗学雑誌『はやと』を発行していた金海堂書店

 昭和前期に鹿児島で発行されていた民俗学研究の雑誌『はやと』が以下のWATANABEさんの記事で紹介されている。この雑誌は、『民俗学関係雑誌文献総覧』竹田旦編(国書刊行会、1978年)によると、鹿児島民俗研究会から1936~1938年に第1号から第6号が発行され、2巻から『はやひと』と改題され第2巻第3号まで発行されたようである。

WATANABEさんの記事にはデジタル化したこの雑誌も紹介されているが、私が以下の記事で紹介した雑誌『雉子馬』のようなタブロイド判で印刷された薄い雑誌であるようにみえる。

編集は九州の民藝運動にも関係した野間吉夫で、発行所は金海堂という場所になっている。金海堂は鹿児島県で当時から有名であった書店で、国会図書館デジコレで閲覧できる『日本出版大観』(出版タイムス社、1931年)によれば、坂口松枝が創業したとして以下のように紹介されている。

金海堂 坂口松枝氏 明治26年(1893年)4月3日生 鹿児島市天文館通 君は福岡県三池郡二川村に生る。一六歳の春久留米金文堂本店に入り在店する事十五年、大正十年十一月独立して鹿児島に到り、金海堂と號して書店の経営に着手するや自ら先頭に立て店員を督し縦横の奇才を発揮して新地盤の開拓に猛進した。戸別訪問、鐘、太鼓の宣伝、中等教科書の指定獲得運動等々、機に臨み時に応じて右に左に相手を薙ぎ倒してゆつた。其の凄い手腕、猪突的な果敢な行動は当市同業者の斎しく畏怖するところとなつた。かくて君は創業未だ十年を出でずして今や新刊書籍及中等教科書の年商額二十万円を称へ吉田書店に次ぐ県下第二位の書店として世に其の名を知らるるに至つた。(後略)

金海堂が当時鹿児島でも有数の大規模な書店であったことが分かる。『日本出版大観』によると、創業者である坂口が在籍していた金文堂は福岡県に本社があり当時九州最大規模であった書店で、10年勤続した者には支店開業の特典と与えていたという。金海堂もこの特典を得て1921年11月に鹿児島に創業したようである。

 重要なのは、鹿児島の金海堂のような各地域の民俗学や郷土研究を支えた各地の書店や出版関係者がいたという点であると考えている。私が最近紹介している雑誌『土の香』のように個人で編集・発行していた雑誌もあったが、『はやと』のように地域の出版社や書店が支援していた雑誌もあったようなのでそのような雑誌の周辺も調べてみたい。


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