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風俗研究者・平井蒼太と共同で『麻尼亜』を編集していた山本定一は何者?

 江戸川乱歩の弟にして風俗・民俗研究者であった平井蒼太(本名:平井通)が発行していた『麻尼亜』について拙noteで何度か紹介しているが、この雑誌は平井と山本定一(桃源堂主人)の2名で発行されていた。平井については、Wikipediaにも立項されているが、山本の経歴はよく分からない。桃源堂主人名義で『日本性語大辞典』(文藝資料研究会編輯部、1928年)を出版しているが、Web NDL Authoritiesにも登録されていない。

 山本の経歴の手がかりを探していた時に、以下の記事で『談奇党』という雑誌(注1)の第3号(1931年)に「現代猟奇作家版元人名録」が収録されていることを知った。この人名録には平井も載っているようなので、もしかしたら山本のことも載っているかもしれないと思って実際に雑誌を購入して確認してみると、山本の簡単な経歴も載っていた。『談奇党』第3号の書影とともに引用してみたい。

表紙
奥付
第3号目次
番附表に桃源堂主人の本も入っている。
山本定一
彼れは京都の産。若き薬剤師であるが、なんの因果かこの方面の研究者では、隠れたる逸物である。殊に性的廃語及び隠語などに趣味を有し、在学中からリトマス・ペーパーの代りにワ印本に沈溺して単語を拾つてゐたといふのだから、とても笑へない。現在では彼れは数万に渉る語彙を究め盡して、尚ほ綽々として次から次へとヤチ語を漁つてゐる。その傍ら、若返り薬なんかを創製して専門家振りを発揮してゐるが、この和製「ユベニン」がどしどし売れたか―それは筆者は聞き洩らした。兎に角、彼れはあまりに自己を売りたがらない篤学の―うれしい存在である。従つて、先手上梓した「日本性語大辞典」があるだけで、其他にこれといふほどの発表したものが見当たらない。(一部を現代仮名遣いにあらためた。)

生年や詳しい経歴は記載されていないが、山本が京都の出身で長年にわたって性に関することばや隠語を蒐集していたということがわかった。人名録に載っていることから山本は軟派出版関係者の間では、当時それなりに知られていた人物であったように思われる。山本の平井をはじめとする他の軟派関係者との交友関係が気になるところである。ちなみに、平井はこの人名録で以下のように紹介されている。

平井通(別名耽好洞人)
彼はかの探偵小説の鬼才江戸川乱歩の次弟である。彼れの本業は大阪市伝記局吏員であるが、令兄とはちがつて若い頃から変態文献の研究に興味を持つて、旺んに古書を漁つてはノートしてゐるといふ変り者である。元の乱歩もこの節では、探偵小説から怪奇小説に転換して来たところ、一味やはり兄弟争はねぬ血のつながりがある。勿論、乱歩ほどの流麗たる文は書けないが、彼れの文も亦頗るのびのびとした味のあるものである。(一部を現代仮名遣いにあらためた。)

(注1)『談奇党』については、閑話休題XX文学館様の以下の記事が詳しい。全号の書誌情報が掲載されている。

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