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【こころ #47】シングルタスクな私を受け止めてほしい


Tさん


 あなたは、一度に複数のタスクを処理できる能力を必要とする「マルチタスク」と、一度に一つのタスクに対して高度な認知や深い集中力を必要とする「シングルタスク」では、どちらが得意だろうか?そして、どちらが得意かで優劣はあるだろうか?


 Tさんは、シングルタスクが得意だ。学生時代にプリントが出されれば、一つひとつ必ず期限を守って提出した。保育士として勤務した際は、画用紙や折り紙などの備品管理をきっちり行い、一人ひとりの園児の好きなものにとことん話を合わせることができた。「男性アーティストが大好きな男の子には、その子からおススメされた曲をたくさん聴いたり」。自宅で洗濯物を干せば、ハンガーにズレなく、ちゃんと乾くように均等な間隔を空け、靴下などは左右のバランスが取れるようにする。

 Tさんは、マルチタスクが得意ではない。「学生時代にはマルチタスクがあまりなかった」が、保育士として保育園で働いていた時は、園児のトイレ対応の最中に洗い物を頼まれたりするとアタフタした。「親御さんや外部からの電話に、話し方は大丈夫か、聞き漏れや聞き間違いはないか、聞いたことをメモできているか」と同時に考える電話対応に不安が尽きなかった。そんな不安が腹痛につながることもあった。自宅で料理を作る際は、一品ずつ順々になり、「炒めながら、一方で野菜を切ってとか、二品同時につくることができない」。


 Tさんをどちらの特性から捉えるかで、風景は大きく変わる。Tさんは、社会に出てマルチタスクに直面することが多くなってから、聞いたことを処理するのが遅かったり、細かいミスが多かったり、「怒られることが増えた」。

 長い通勤時間中に「大人の発達障害セルフチェックをやってみると、結構当てはまって」、病院に行くと、30歳で初めて「軽度のASD(自閉スペクトラム症)と診断された」。障害者手帳をもらう程度ではないが、現在は3カ月おきに通院して、薬の処方を受けている。検査を通じて実は「聴覚情報処理が苦手」だったことも見えてきた。不安になるとお腹が痛くなる理由として『過敏性腸症候群』の診断も受け、仕事の1時間前には服薬して心を落ち着かせて仕事に向かっている。


 Tさんがマルチタスクや不安に直面することは、まだまだある。

 「仕事のための服は買っても、休みの日に出かける服を買いに行けない。メイクも王道のワンパターンしか持っていない」。よそ行きの服を買うにしても、何色を買うのか、持っている服と着回せるのか、イメージできない。試着するのも、お店に行くのにメイクするのも、気を遣ってしまう。女性雑誌を参考にするにも情報量が多すぎるし、店員さんにうまく説明もできないため、結局「また同じものを買って~」と言われるか、買わないで終わるのが、いつものパターンだ。Tさんは「服装やメイクに興味がないわけじゃない」。でも、それは、Tさんにとって「まさにマルチタスク」なのだ。



 外食という”環境“にも不安を感じる。同じ食べ物でも「外では少ししか食べられないけれど、家では多く食べられる」。初めて行く場所、「例えば結婚式場」なんて全然食べられず、子供の頃に戻したトラウマからトイレを必ず確認する。会社の飲み会や食事会も嫌いなわけではなく、「行きたいけど、食べれないだけ」なのだ。


 自分自身の苦手なことを周囲に話しても、「わかる~あるあるだよね~」や「直さないと」と安易に返ってくる。ただ、当事者からすれば、「一般の方の“わかる”とは、その度合いが違う」。もちろんその違いを「理解してもらえなかったとしても、“あーそうなんだね”と受け止めてほしい」。それが、Tさんの願いだ。

 現在Tさんが勤める放課後デイサービスには、「自閉症やLD(学習障害)や知的障害など多様な子が来る」。Tさんは障害自体を理解するに留まらず、一人ひとりの子の好きなことまで受け止めてあげている。それこそが、Tさんの素晴らしい特性なのだ。


 最後に、こう話してくれた。「自分と同じ(特性をもった)人に出会ったことがない。出会ってみたいし、どう対処しているのか聞いてみたい」。そして、障害の有無に関わらず、そういった困難を抱えている人を支援することもしてみたい。

 Tさんがインタビューに応じてくれた最大の理由は、ここかもしれない。なかなか理解されない自身の特性やそれに基づく経験を発信することで、同じ特性や経験のある人に出会い、日々をより良くするヒントを得て、それをまた同じ別の人にも還元していきたい。

 そんな当事者同士が知り合い、そこから新しいものが生まれていくお手伝いができるなら、こんな嬉しいことはない。




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