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【こころ #3】ご家族の関係で3年間米国の現地校に通い、中学で日本に帰国した。「自己表現の仕方が強めの」米国の学校から「田舎の」九州の学校へ。周囲に「ちょっと驚かれ、イジメられた…

猪島 章子さん


 猪島さんは、ご家族の関係で3年間米国の現地校に通い、中学で日本に帰国した。「自己表現の仕方が強めの」米国の学校から「田舎の」九州の学校へ。周囲に「ちょっと驚かれ、イジメられた」。

 その後、高校1年生で自傷が始まる。入院を必要とする精神障害者本人に代わって家族等の同意によって始まる入院治療である『医療保護入院』の措置が取られ、断続的に入院。「勉強自体が遅れていたわけじゃなかった」から、入院しても「オンラインで勉強できたらよかった」。しかし、公立高校でそういったサポートが充実しているわけもなく、出席日数が足りないままに進級できず、高1にして学校を退学した。


 そこから闘病と自宅生活が始まる。地方の田舎で高校に行っていないなんて「他に誰もいない」。ご近所の知り合いも「あそこの子、高校辞めたんだって」とささやく。さらに「精神科入院なんて言えばどんな反応されるかもわからない」。「家の外に出たくないわけじゃなく、退学した理由も言えずに」引きこもるようになった。外出して「同年代の子の制服姿を見ることも劣等感を感じた」。

 住む場所を変えたりできなかったのか?と安易に聞いたことを恥じる。苦笑いしながら「片親で経済的に余裕がなくて、そういう風に環境を変えることはできなかったです」と答えてくれた。


 退院して1年後に病状が回復すると、以前の学校の先生から教科書を譲り受けて自宅で本格的に勉強を再開し、週に1回だけ学校の自習室を使わせてもらって勉強を教えてもらうことができた。その結果、高卒認定を取得して東京の大学に進学し、一人暮らしも始めた。「やっと自分が社会に出て恥ずかしい存在じゃないと思えるようになったんです」と添えた言葉が印象に残る。今、猪島さんは東京大学大学院で精神保健を学んでいる。


 東京に出てきたらすぐに精神が安定するものでもない。自分の状態のせいで「コミュニケーション面で周囲に負担をかけている」とカウンセラーに相談しながら、「主観的な感覚だけではなく周囲から自分がどう見えるのかを知り、自分で自分の状態を把握できるようにする」努力をした。さらにそれらを「どう互いに傷つけることなく伝えられるか」を彼氏にも協力してもらいながら、自分なりに状態を表現する言葉や尺度を培ってこられた。

 それは、自身がそれまでに受けた医療が「服薬だけに頼る治療」だったせいもあるかもしれない。当然、心には色々なものが影響する。しかし、患者も周囲も医師もそれを共通言語として把握し伝え合う手段がなく、「(患者の)気持ちよりも薬の判断だけ」になっている精神医療の現状がある。

 高校を退学した頃の話の中で「多くの人が高校を卒業して、大学も増え続ける日本において、学校制度という“メイントラック”から外れたときにどれだけ不安になるか」と振り返られた。 

 しかし、それは学校制度が終わっても付きまとう。アルバイトの面接で履歴書を出せば「空白期間がある」。どうしたの?と聞かれ「病気です」と答えれば、何の病気?と聞かれ「精神病です」と答えて、断られたこともある。

 就職活動を始めるにあたって各社のサイトにマイページをつくろうとすると、在学期間の始終で同じ年を選ぶとエラーメッセージが出る。外国の高校卒業を記載する欄はあっても、高卒認定を記載する欄はない。それらの会社には「個別に連絡してどうすればいいか確認している」状況だ。「そこまでダメージを受けるわけじゃないけれど」と言いつつ「エントリーするのを辞めたいと思ってしまう」と残念そうに微笑まれた。


 メイントラックを外れて不安になった頃の自分は「自分の人生を諦めようとしていた」。今でも一度外れたことによる理不尽なダメージはある。それでも、当時の自分には「(思いつめ過ぎず)適当に生きればいいんじゃない」と言ってあげたい。

 最後に、この記事の公開を実名にするか匿名にするか確認した。「実名で構いません」と即答だった。「何か塗って後で剝がれてバレるより、自分から塗り替えに行きたいので」。

 何かを塗り替えるべきは環境や社会側にこそあるのではないか。



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