本田哲也
どこよりもはやいカンヌライオンズ2022 PR部門受賞作品レビュー!「PRの6ルール」で解説します
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どこよりもはやいカンヌライオンズ2022 PR部門受賞作品レビュー!「PRの6ルール」で解説します

本田哲也

カンヌライオンズが、3年ぶりの現地開催!

世界最高峰のPR作品が一堂に会するカンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル(以下、カンヌライオンズ)がついに今年、リアルでの開催となった。

87カ国から合計25,464点の応募があり、PR部門には1,488点がエントリー。2022年6月23日の夜に49作品の受賞が発表された。

今回は(おそらく)どこよりもはやく、Cannes Lion 2022 PR部門の中から、特に僕が面白いと感じた作品を、PRの6つのルールに沿ってレビューしよう。

戦略PR6つの法則とは

その前にPRの6ルールについて簡単に説明しよう。
ご存じの方は読み飛ばしても構わない。

6ルールとは、拙著『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)で解説した戦略PRの6つの要素のこと。

多くのPRの国際的アワードにおいては、エントリー作品の評価基準は「ビヘイビアチェンジ(行動変容)が起こったか?」だ。6ルールは、ビヘイビアチェンジを起こさせるためのフレームワークというわけだ。

 おおやけ——「社会性」の担保:世の中のニーズや社会課題と自社や商品を結びつける視点。「ソーシャルグッド」。

2 ばったり——「偶然性」の演出:情報洪水の中で偶然に出会う(出会ったと思える)情報。コンテンツが演出する偶発的な「セレンディピティ」。

3 おすみつき——「信頼性」の確保:インフルエンサーなどの「第三者発信」によって得られる信頼性。

4 そもそも——「普遍性」の視座:「よくぞ言ってくれた」を引き出す本質的な価値転換。

5 しみじみ——「当事者性」の醸成:「自分ゴト化」させ感情に訴えるストーリーテリング。

6 かけてとく——「機智性」の発揮:PRクリエイティビティの真髄は「とんち」。機智とリアルタイム性に富んだコミュニケーション。

では順番に受賞作品をレビューしていこう。

【おおやけ】
THE BREAKAWAY: THE FIRST E-CYCLING TEAM FOR PRISONERS

PR Lion 2022 Grand Prix
実施国:ベルギー
実施主体:デカトロン(フランススポーツブランド)

世界初の囚人によるeSportsサイクリングチームを結成
スポーツが社会性を取り戻すきっかけに

スポーツブランド「デカトロン」のブランドパーパスは「全ての人にスポーツとその恩恵を享受できるようにすること (to make sport and its benefits accessible to all)」。これを刑務所内の囚人も対象とすることでブランドのビジョンを示したのがこの作品だ。

 動画ではひとりの屈強な男性が自転車競技用のユニフォームを身につけ、自転車に乗り込む。彼が向かったのは、バーチャルプラットフォーム「Zwift」。これはバーチャルサイクリングサービスで、世界中の人と自転車を楽しむことができる。

ここを舞台に、6人の囚人によるeSportsサイクリングチーム「BREAK AWAY」が、法務大臣ら法執行者のチーム「チームジャスティス」と対決。Facebook上で実況と共にライブ配信され注目を集めることに成功した。

これだけ書くと、近年注目を集めるメタバースの潮流に乗っかり、囚人v.s.法務大臣という対決を見せることで話題性を高めただけに見えるが、本当の狙いは、「囚人の社会復帰」という「おおやけ」ごとがテーマ。

この試合までの半年間にわたる囚人のインタビューがポッドキャストで配信され、人々の関心を呼ぶとともに、スポーツが社会性を取り戻すきっかけになることを証明した。なお、法務大臣はこのプロジェクトをベルギーの全刑務所に拡大することを決定。見事に今年のPR部門のグランプリを獲得した。

【ばったり】
THE LOST CLASS

PR Lion 2022 Gold
実施国:アメリカ
実施主体:CHANGE THE REF INC. (銃規制団体)

全米ライフル協会元会長を騙した
銃の犠牲者への卒業スピーチ

アメリカで、2021年に卒業を迎えるはずだった、銃の犠牲で命を落とした高校生はなんと3044名にものぼる。その高校生のための卒業セレモニーがこの「The Lost Class」だ。

実はこれ、かなりスレスレのPRスタント施策だ。というのも、別の学校の卒業スピーチのリハーサルであると偽り、全米ライフル協会(NRA)の元会長デビッド・キーン氏に「夢を追い、実現させよ」とスピーチさせ、即座にその映像をオンラインに公開したから。

この残酷で皮肉な映像はSNSで爆発的に拡散され、一夜にしてCNN、The Washington Post、The Guardian、The Hillなどメディアでも報じられることになった。最終的に一切広告に頼ることなく合計14億インプレッションを達成する。

銃を推奨するライフル協会元会長による、銃の犠牲により卒業できなかった学生に向けた卒業スピーチ。普通では起こり得ない衝撃的な映像に触れた人の目撃体験が拡散の原動力になった。卒業シーズンというシーズナリティも作用した。

なお実施主体は、2018年のフロリダ州パークランドの高校での銃乱射事件の犠牲になった学生の両親によって設立された銃規制団体だ。

【おすみつき】
DYSLEXIC THINKING

PR Lion 2022 Silver & Bronze
実施国:グローバル
実施主体:VIRGIN

「失読症」を障がいではなく
ビジネス上有益なスキルに変える

会話能力や視力に異常がないにもかかわらず、書かれた文字を正しく読めない失読症(ディスレクシア)。実は5人に1人が当事者とも言われているそうだ。そして、97%の人が、ディスレクシアを障がいとして捉えている。

その一方で、創造性、共感性、リーダーシップ、既成概念にとらわれない思考などのビジネススキルが他の人より優れていることが、最近の研究で明らかになっている。

このことを示すため、自身もディスレクシアである英Virginグループ代表のリチャード・ブランソン卿は、LinkedInでキャンペーンを開始。プロフィールのスキル欄に「ディスレクティック・シンキング」を追加するよう世界のセレブに呼びかけ、辞書にも能力を示す言葉として掲載させた。

さらに、人事担当者向けにターゲットを絞ったメッセージを発信し、プロフィールにこのスキルを記載している候補者を積極的に探すことを呼びかけた。

実はブランソン卿の他、動画に出てくる教育論者、企業経営者、有名セレブ(オーランド・ブルームやキーラ・ナイトレイも!)もディスレクシア。彼らを巻き込み、失読症固有の考え方のスキルで成功したことを「おすみつき」化させた。「ロジカル・シンキング」を想起させる言葉選びもパーセプションに寄与している。

【そもそも】
HEINZ HOT DOG PACT

PR Lion 2022 Silver
実施国:アメリカ、カナダ
実施主体:ハインツ(KEAFT社のケチャップブランド)

ウィンナーとバンズの数が違う!
この気づきに全米が賛同

北米に暮らす人々にとってホットドックは最も象徴的な国民食のひとつ。もちろんトマトケチャップは必須アイテムだ。

しかしホットドックには、誰もが不便を感じながら、誰も声を上げなかった問題があった。それは一般的に販売されているウィンナーは10個入りで、バンズは8個入りであること。つまり、ホットドックをつくるとウィンナーが2本余ってしまうのだ。

ここに目をつけたハインツは人気TikTokerを火付け役に、数を合わせることを世に問う投げかけを敢行。全米中が議論を始め、SNSフィードのトレンドとなった。

なんだそれだけか、と思うなかれ。

結果として、パンとウィンナーの比率が夕方のニュースのトップ・ストーリーとなり、3万人の署名を集め、パン・ソーセージメーカーが対応を迫られる一大論争を巻き起こす。

誰も話題にしたことがない、でも言われてみれば誰もが「よくぞ言ってくれた」と感じる気づき。これをケチャップがオーセンティシティを発揮できるホットドックというフィールドで発見できたことと、実際にメーカーが対応したことが成功の要因だ。ケチャップは、「とにかくホットドッグをより良くするために存在している」というわけだ。

シンプルで普遍的な気づきには世の中を動かすチカラがある、という好事例だろう。

【しみじみ】
#FLUTWEIN - OUR WORST VINTAGE

PR Lion 2022 Gold
実施国:ドイツ
実施主体:AHR - A WINEREGION NEEDS HELP FOR REBUILDING E.V.

ストーリーテリングのチカラが
洪水の被害に遭ったワインを救う

アールバレーは、「赤ワインの楽園」と呼ばれるドイツでも有数の赤ワイン生産地。 2021年の夏、このアールバレーは壊滅的な洪水の被災地となり、46以上のワイナリーが甚大な被害を受けた。

しかし幸いなことに20万本のワインは、瓶が泥と土で汚れただけで、中見は無事だった。通常であれば販売不可能な外観のワインを「FLUTWEIN(Flood Wines)」と名付け、芸術的なクリエイティブと生産者の想いと自然への畏怖を伝えるストーリーテリングと共にブランド化する。

大規模なPR露出の助けもあり、クラウドファンディングで販売を開始したところ、結果的に通常の45倍の高値で完売した。ワイナリーはその年の売上で翌年の生産準備を行う予定だ。クリエイティブ&ストーリーテリングがこの地の産業を壊滅の危機から救ったのだ。

災害が起きた時、PRはどんな支援ができるだろう?
泥にまみれたワインボトルを洗浄して復元させるのではなく、あえてそのままの姿で販売をしたことがストーリーテリングにチカラを与えた。感情に訴え、当事者意識を持たせることでビヘイビアチェンジに成功。なお、本エントリーは今年の審査員長イチ押しだったようだ。

【かけてとく】
THE NIGHT IS YOUNG

PR Lion 2022 Gold
実施国:グローバル
実施主体:ハイネケン

ワクチン接種の賛否論争に
ビールブランドがとんちを効かせたメッセージを発信

世界各国でも日本と同じようにコロナワクチンの接種に関して世論が二分している。政府の推進メッセージはうまく機能せず、接種反対派の呼びかけにより接種をためらう若い世代が多かった。

そこにハイネケンは優先的にワクチン接種を終わらせた老人たちが夜を謳歌する挑発的な動画を展開。「ワクチンを接種した人だけが楽しめる」というメッセージに反対派は激昂。#BoycottHeineken のハッシュタグで不買運動を開始した。

ところがこの不買運動が火付け役となり、映像はさらにシェアされ、ナイトライフを楽しみたい若者たちにワクチン接種を促す結果につながった。最終的にハッシュタグはそのままにハイネケンを称賛する声が過半数を超え、オーストラリア、南アフリカ、オランダの各政府は、この勇気あるキャンペーンを表彰したのだ。

「The Night is Young」というタイトルで年寄りだけがナイトライフを楽しむ映像、ボイコット運動すらを拡散の追い風に使うコミュニケーション戦略には複層的なとんちが埋め込まれ「やられた感エフェクト」を産む。なによりも、シリアスなワクチン論争に介入するブランドの勇気は称賛に値するだろう。

【番外編】
BACKUP UKRAINE

PR Lion 2022 Silver / Bronze
実施国:グローバル
実施主体:POLYCAM (3Dスタートアップ)× ユネスコ

最先端のテクノロジーで
ウクライナのアイデンティティを支援

今年のカンヌではウクライナの作品は無料で受け入れられ、実際に402件が戦禍の中で応募された。ゼレンスキー大統領のビデオ登壇や大型ポスター掲示など、カンヌ全体でウクライナ支援を印象づけたかたちだ。中でも本作は、海外からでも出来る支援をテクノロジーにより生み出し、他部門含め10つのLionを受賞した。

2月20日に始まったウクライナ侵攻が始まって1カ月で191の文化財が破壊された。国民の命を守ることが最優先のウクライナには、文化財を守るような余力は残されていなかった。

しかし、文化遺産の破壊はその国のアイデンティティを消滅させることにつながる。

文化財を守ることはその国の民族のアイデンティティを守ること。そこで、ユネスコは3DスタートアップのPOLYCAMと提携し、クラウド上に文化財のデジタル・バックアップを取ることを開始。文化財が撮影された画像や映像を機械学習を通じて3Dデジタル設計図に変換するプラットフォーム「BACKUP UKRAINE」を公開。世界中の人のスマホの中にある画像の募集を始める。賛同者は増え続け、2022年9月までには全ての文化財を収集できる予定だ。

・・・

「パブリシティは歯磨きをするのと一緒」。

これは2011年のカンヌPR部門の審査員長をつとめた、フライシュマン・ヒラードCEO(当時)のデイブ・セネイが記者会見後に記者の質問に答えた言葉だ。

ニュースをつくることはPRパーソンにとって歯磨きのように当たり前のこと。重要なのは、そのパブリシティで何を起こすか。そこで生み出されたのが「PRのピラミッド」であり、これがカンヌにおける正式な評価基準だ。

PRのピラミッド
PRのピラミッド

「ビヘイビアチェンジが起こったか?」=「人の行動を変えることができたのか?」が重要で、今回のカンヌの受賞作品のどれもが、鮮やかな発想とクリエイティブジャンプで、ビヘイビアチェンジを起こしている事例ばかりだ。ぜひみなさんも受賞作品を鑑賞してほしい。

今回紹介したPRの6つのルールについて詳しく知りたい人は、拙著『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』をぜひ読んでみてほしい。

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本田哲也
PR専門家。本田事務所代表。カンヌライオンズ公式スピーカー/審査員。ブルーカレント・ジャパン創業者。得意領域は戦略PR/広報、ブランドマーケティング、ナラティブ戦略。『戦略PR』『ナラティブカンパニー』など著作10冊以上。80年代洋楽と乱読とウイスキーとキャンプが好き。