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私の読書日記~今年読んだ本の総括③:2021/12/12

私の読書日記~今年読んだ本の総括:2021/12/07|水石鉄二|note
私の読書日記~今年読んだ本の総括②:2021/12/08|水石鉄二|note

今回の記事は上のものの続きである。この記事でも、2021年に読んだ本の中で面白かったものを挙げていきたい。

パール・バック『大地』

家族と土地の物語からひとつ選んでみた。”家族と土地の物語”といっても、決して心温まる筋とは限らない。時には家族内での裏切りやいさかいもある。土地の閉塞感へいそくかんや排他性も描かれる。また、住人との争議や災害の発生に悩まされることもある。時代によって価値観も変遷するものだ。

パール・バック『大地』もそのような傑作である。貧農から刻苦して富豪となったが、子孫に土地の売却を目論まれてしまう王龍ワンロン。軍閥に所属し、野望を遂げようとする王龍の息子・王虎ワンフー。軍人である父を憎み、革命党に入り運動に参加する王虎の息子・王淵ワンユァン

家族の歴史から中国社会が激変していく様が思い起こされる。衰弱していく清、半植民地化される大地、新思想の流入に革命の機運。東洋の歴史に詳しくない私にも、激動の歴史状況に思いをはせずにはいられない。議論はあるかもしれない。が、私にとっては素晴らしい小説であったように思う。

ドストエフスキー『死の家の記録』など

監獄や収容所を舞台とした作品も、好んで集めてしまう。ドストエフスキー『死の家の記録』、井上ひさし『一週間』、吉村昭『破獄』、フランツ・カフカ『ある流刑地にて』など。それぞれが目指している方向性は異なれど、やはり舞台は監獄である。

しかし、なぜ私はそういった”監獄の小説”を好んでしまうのか? リアルな人間性や人間社会の過酷さがき出しになっているから、かもしれない。人間社会の暗い部分・覆い隠したくなる部分を見ることで、そこから人間を考えてみたいという思考が働いているのだろう。

自然描写の美しい小説

今年読んだ中で、最も自然描写が美しかった小説として、森敦『月山・鳥海山』を挙げておく。以前から読んでいた島崎藤村『千曲川のスケッチ』にも負けず劣らず、豊かな自然の風景を読者にもたらしてくれる。

また、両作品で描かれる自然は動的だ。雪山で徐々に沈んでいく夕日などは、現地で生活をした人でないとリアルに描けない。普段は都市で生活している作家が自然を書こうとすると、どうしても静的になってしまう。そう感じてしまうのだ。だが、両作品はそれを感じさせない。しっかりと自然が時間とともに動いている。不思議なことである。

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