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「ランキング最下位」が不当に思える魅力的な県〜フットボールの白地図【第44回】栃木県

<栃木県>
・総面積
 約6408.平方km
・総人口 約192万人
・都道府県庁所在地 宇都宮市
・隣接する都道府県 福島県、茨城県、群馬県、埼玉県
・主なサッカークラブ 栃木SC、栃木シティFC
・主な出身サッカー選手 松本育夫、原博実、小泉淳嗣、黒崎久志、上野優作、米山篤志、若林学、安藤梢、近藤直也、富田晋伍、鮫島彩、蜂須賀孝治、富山貴光

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「47都道府県のフットボールのある風景」の写真集(タイトル未定)のエスキース版として始まった当プロジェクト。今回で第44回を数えることになり、残すは秋田県、東京都、そして沖縄県のみ。間もなく白地図を塗り尽くすのを記念して、5月10日(月)にハフコミとOWL Magazineの共同で、下記のオンラインイベントを開催することとなった。

 このイベントでは、OWL Magazine編集長の大澤あすかさん、そして副編集長のキャプテンさかまきさんと一緒に、白地図で取り上げてきた中でも、とりわけニッチ度が高い8つの県をピックアップ。その知られざる魅力と「フットボールのある風景」について語っていく。「旅とフットボール」あるいは「フットボールの地域性」に関心のある方は、ぜひともご参加いただければ幸いである。

 さて前回は、2つのJクラブがありながら「最後のダービーは10年前」という、長野県を取り上げた。今回は、未来のダービー実現を予感させる、栃木県にフォーカスする。栃木といえば、現在J2に所属する「栃木SC」をサッカーファンはまず思い浮かべることだろう。県名と県庁所在地の名が異なる場合、後者をクラブ名に採用することが圧倒的に多いのだが、このクラブは宇都宮ではなく栃木を名乗っている(ただしクラブ名を変更する可能性がある)。

 その栃木、昨年に発表された47都道府県の魅力度ランキングにおいて、何と47位(最下位)という結果に終わり、県関係者に衝撃を与えた(それまで7年連続最下位だった茨城県は42位に上昇)。そんなに栃木は、魅力のない県なのだろうか? そういえば私自身、栃木SCのホームゲームを取材する際、新幹線とバスで往復するのみ。取材後は餃子をさくっと食べて、さっさと東京に戻っていた。次に訪れる時は、もっと栃木の奥深さに触れる旅がしたい。そう思っていた。

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 まずは栃木サポにとって聖地といえる「栃木県グリーンスタジアム」から。宇都宮駅からのアクセスには多少の難はあるものの、シャトルバスによるピストン輸送はスムーズなので、それほどストレスを感じることはない。むしろ球技専用の観やすさ、そして夕暮れ時の空の美しさには一見の価値あり。栃木SCがJクラブとなった2009年以降、たびたび改修工事が行われており、3年後の12年にはJ1基準を満たすこととなった。だがここに来て、ホームスタジアム移転のうわさが。

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 こちらは昨年夏にオープンした「カンセキスタジアムとちぎ」。グリスタと同じく宇都宮市内にあるが、最寄り駅は東武鉄道西川田駅で、徒歩15分ほどの好立地にある。2022年に開催される「いちご一会とちぎ国体」のメイン会場として建設されたため、トラック付きではあるものの全席に屋根がめぐらされており、収容人数も2万5244人とグリスタよりも7000人多い。もしも栃木SCがカンセキをメインとした場合、アウェーサポにはどんな影響が考えられるだろうか?

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 グリスタでの試合は、宇都宮駅から新幹線で直帰となりがちだが、これがカンセキになると、東武鉄道を乗りこなして観光を楽しむアウェーサポが増えそうな気がする。東京、埼玉、千葉、群馬、栃木の1都4県をカバーしている東武鉄道は、意外と利用価値が高い。カンセキのある西川田駅からだと、東武宇都宮線と日光線を乗り継げば、2時間弱で東武日光駅に到着。そこからバスに10分乗車すれば、ユネスコ世界遺産にも登録されている「日光東照宮」にアクセスできる。

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 東武日光駅から「特急けごん」に乗車して40分で栃木駅に到着。人口およそ15万人の栃木市は「小江戸」とも呼ばれ、市内を流れる「巴波(うずま)川」を利用した舟運と、日光東照宮に派遣された朝廷からの使者が立ち寄る宿場町として栄えた。戦時中も空襲を免れたため、江戸や明治の時代から続く蔵や商家などが数多く残っており、市の重要な観光資源にもなっている。こどもの日が近かったこともあり、巴波川には色とりどりの鯉のぼりが揺らいでいた。

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 栃木駅からJR両毛線で3つ目の佐野駅で下車。栃木市ほどではないが、佐野市でも古めかしい商家を時おり見かける。こちらの店舗は、明治時代の薬屋を改装したもので、昭和の初めに開業したという和菓子屋が入っていた。とても雰囲気が良かったので、当地の名物である味噌まんじゅうをお土産に購入。帰宅後、家人に大変喜んでもらえた。こうした、ささやかな発見を楽しめるところに、栃木本来の魅力があるのではないだろうか。

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 最後に、フットボールファン向きの新たな観光スポットを紹介しておきたい。最寄り駅は、両毛線で栃木駅と佐野駅の間にある岩舟駅。何とも時代がかった駅舎は、短編アニメ『秒速5センチメートル』の舞台にもなっている。そのすぐそばには、霊山として知られる「岩船山」。独特の切り立った形状は、江戸時代から始まった岩船石の採掘によるものだという。その後、2011年の東日本大震災の影響で山肌が崩れて、現在のような奇観を呈することとなった。

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 栃木シティFCのホームスタジアム「CITY FOOTBALL STATION」は、岩舟駅から車で10分ほどの場所に2021年にオープンした。収容人数は5129人。立派な照明設備と大型スクリーン、よく管理された天然芝、さらにはグッズショップやプレスルームやVIPルームも完備されている。栃木シティは現在、JFLの下の関東リーグ1部所属。この野心的なクラブがJリーグに到達すれば、いずれ栃木でも魅力的なダービーが実現することだろう。

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 栃木県のグルメといえば、餃子をイメージする人が多いかもしれないが、それは宇都宮市限定。ここでは県内のみならず、関東を代表するご当地ラーメン「佐野ラーメン」を紹介することにしたい。青竹に体重をかけて延ばして作られる平麺、そしてコクのあるスープとシンプルな具材が特徴。佐野駅周辺には、ご当地ラーメンを出す店がいくつもあるため、リサーチを怠らなければ失敗することはまずない。ラーメンのためだけに、佐野に1泊するのも悪くない選択だと思う。

<第45回につづく>

宇都宮徹壱(うつのみや・てついち)
写真家・ノンフィクションライター。
1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年に「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」を追い続ける取材活動を展開中。FIFAワールドカップ取材は98年フランス大会から、全国地域リーグ決勝大会(現地域CL)取材は2005年大会から継続中。
2016年7月より『宇都宮徹壱ウェブマガジン』の配信を開始。
著書多数。『フットボールの犬 欧羅巴1999‐2009』で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、『サッカーおくのほそ道 Jリーグを目指すクラブ 目指さないクラブ』でサッカー本大賞2017を受賞。近著『フットボール風土記 Jクラブが「ある土地」と「ない土地」の物語』。
2021年2月より、Jリーグ以外の第1種クラブの当事者のためのコミュニティ『ハフコミ(ハーフウェイオンラインコミュニティ)』を開設。


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