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五十嵐大介「SARU」を読んで

今回はマンガの事。五十嵐大介。「SARU」。

ぼくは読書が好きだが、本もマンガも好きだ。特にその世界観に入り込めるような作品が。

ぼくが五十嵐大介のことを知ったのは、数年前、たまに行くカフェの店主がそのカフェに置いてあった「海獣の子供」(昨年、映画化された)と「ディザインズ」の二冊とともに教えてくれたことがきっかけだった。生命の誕生、星の誕生の秘密に「海」を通して切りこむ「海獣の子供」。科学の力で改造された人型生物、いるか、かえる、チーターなどが巨大企業、科学者の思惑に翻弄されながら生き抜く生命のかたちを描いたディザインズ。そのようにして、ぼくは五十嵐大介作品と出会った。

さて、「SARU」という作品。地球規模的なエネルギーの爆走と歴史上、人類はどう向き合ってきたか、各民族はどのようにしてそれを封じ、そして、作品中の現代においてどのようにして登場人物たちは、それを治めるのか。治めることはできるのか。

「SARU」というのは、皆様ご存知だと思うけど、西遊記の孫悟空、それが自分の髪の毛から作る身外身、孫悟空の分身からできたものなのだ。ある時孫悟空が作った身外身のうち二つの身外身が元に戻らなかった。本来ただの分身は元に戻らなければ、消滅してしまうのだが、その二つの身外身はやがて自我を持つようになり、一つは元の孫悟空の巨大なエネルギーを収められるよう自らの肉体を進化させ、一つは肉体を隠し精神を分散化させたくさんの人間を器として、そこに存在することとなった。

孫悟空とは何か。中国の伝承、西遊記において天上界で神々を相手に暴れまくる猿なのだが、そのような伝承は中国だけでなく、他の地域にも見られる伝承なのだ。超常の猿の伝説、アステカ文明の雨と雷の神「トラロック」英国・マン島の天気の精霊「ドゥナエー」インドの「ハヌマーン」、チベットの「ハルマンタ」、錬金術の父にしてキリスト密教の創始者ヘルメス。日本の猿田彦。世界各地で人々が目にした超常的な現象を、猿の形をまとった神々に置き換かえるという説が作品では取られている。

物語の中で、二つの身外身は肉体を進化させた方を「SARU」、精神を進化させた方を「猿」と呼ばれることになるのだが、「SARU」の巨大な力を黒魔術的な存在が復活させ利用しようとし、「猿」はその器としての人間の姿で「SARU」を鎮めようとする勢力と協力していく。ここで五十嵐大介的な思想が出てくるのであるが、「SARU」という超常の力が起こす地球規模の破壊は善でも悪でもない。そして、その黒魔術の勢力も悪ではない。地球というエネルギー体が存在するにあたり常に相反するエネルギーの拮抗がこの星のしくみとして取り込まれている。秩序とバランスが崩れた時にSARU、猿的なものが現れる。

ぼくはこのような世界観が好きだ。地球、宇宙はただの物質ではない。人間の言う意思というものではないけれど、はかり知れないようなものがあるとぼくは直感的に思う。

封魔のための民族的な呪術も出てくる。アフリカに伝わるシンギングウェル。圧倒的に暴力的な歌の力で流星を呼ぶロマ(ジプシー)の唄者。「SARU」と「猿」の行方はどうなるのか。物語の決着をつける存在は、東勝神州傲来国は花果山の生まれ、水廉洞主人たる天生聖人にして美候王・・・斉天大聖、孫悟空、その体から生まれた「第三の身外身」だった。



今回もご一読ありがとうございます。暑い日が続きますが、読書の秋が恋しいですね。また、面白い本やマンガに出会う旅を続けていきたいと思います。

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