スクリーンショット_2018-10-10_22

デザイナー・エンジニア・マーケターのコラボレーション。アールト・デザインファクトリーで行われている授業とは?

こんにちは、Terryです。
前回の記事では多くのアクセスをもらいました。思いがけないことだったのでびっくりしました。ありがとうございます。
この記事は前回の続きなので、前回をお読みでない方はそちらからどうぞ。

そんなわけで今回は、デザインファクトリーで行われている授業についてです。ただ、僕が参加していたのはそのうちの一つ(後述)に過ぎないので、他に関しては友人の話や発表会の説明を聞いたものまとめています。あしからずご了承ください。
また、今回の記事は概要を説明するものです。僕が参加していた授業については、今後より細かい記事をアップします。


デザインファクトリーで展開される授業

画像1

デザインファクトリーを拠点に展開されている教育プログラムは、2つの種類にわかれます。

1. メジャー・またはマイナーのコース。日本語で言うところの学科や専攻科にあたります。
2. 普通の授業扱いのプロジェクト。通年で■単位もらえる、という形の授業形式です。

1に当てはまるコースには、以下の2つがあります。

・Aaltonaut学部生向けのマイナーコース(副専攻)。日本人が参加するのは難しいと思うので、割愛(アールト大学の学部授業はほぼフィンランド語のため)。
・IDBM(国際デザイン・ビジネスマネジメントコース):大学院向けのメジャー・マイナーコース(主専攻・副専攻どちらとしても取れる)。アールト大学の主要学部、ART, BIZ, ENGのそれぞれを専門とする人がミックスされており、世界中の諸問題を解決するプロジェクトを行う。

2に当てはまるコースには、以下の2つがあります。

・PdP:Product Development Project(製品開発プロジェクト)の略。通年授業、10単位。企業がスポンサーとしてつき、企業側からのお題に答える製品を作る。基本的には、デザイナー1-2名、ビジネスマン1-2名、エンジニア6−8名程度で構成。交換留学生も多い。僕はこれに参加していました。
・ME310:Mechanical Engineering 310(機械工学310、数字は授業コード)の略。通年授業、30単位。もともとは米国スタンフォード大学との共同授業で、PdPと似たプロジェクトだが、イノベーションに力点がある。交換留学生は参加できない。

上記の他にも、様々な小プロジェクトが動いていますが、取り上げるとキリがないほどです。今回は、上記4つのうちAaltonaut以外の主要3プログラムを紹介します。


IDBM(国際デザイン・ビジネスマネジメントコース)

The Master's Programme in International Design Business Management helps you become a future creative professional in integrating design and technology with global business development through transdisciplinary teamwork and real-life challenges provided by our renowned industry partners. (From offcial website of IDBM Aalto)
大学院プログラム、国際デザイン・ビジネスマネジメントコースは、企業・組織から与えられるリアルな問題の解決や、学部の垣根を超えたチームワークを通して技術・デザインを統合し、未来に通用するクリエイティブでグローバルなビジネス開発を行う。(IDBMの公式ウェブサイトより)

IDBMは、おそらくデザインファクトリーで行われるプログラムの中で最も大規模で高度なものです。プロジェクトは、「製品を作る」ということより「仕組みを作る」というものが多く、社会基盤の整備コミュニティの形成など、従来の「ものづくり」の枠組みでは捉えきれない複雑な問題を扱っています。

…といってもどういったものはわかりにくいと思うので、プロジェクトの一例をご紹介しましょう。

画像2

公式ウェブサイトより

<スタートアップの成功率を上げるには(スポンサー:ヘルシンキ市)>
デザイン学部から2名、ビジネス学部から2名、工学部から1名が参加したこのプロジェクトは、「スタートアップの街ヘルシンキ」キャンペーンの一貫として、どのような仕組みを作ればスタートアップの成功率が上がるのか、というお題でした。

これに対してプロジェクトメンバーは、ヘルシンキ、シリコンバレー、コペンハーゲンの3都市で起業家、投資家など44人にインタビューを実施。それらの考察に基づき、スタートアップ育成のエコシステム作成に関する今後3年間のロードマップを作成しました。以下の動画は、ヘルシンキ市公式の発表動画です。

では、これらのプロジェクトがどう進行していくのか??これについては、僕は体験していないのでわかりませんが、現在IDBMで留学されている方のブログをリンクしておきますので、そちらを是非参考にしてみてください。毎回非常に面白い記事で、長い記事でもあっという間に読み切ってしまいます。


PdP(製品開発プロジェクト)

画像3

こちらはIDBMとはうって変わって、物理的な製品の開発が主となるプログラムです。僕Terryはこのプログラムに参加していました。工学部の授業の一部として扱われており、印象としても工学部生がメインストリームとなっています。9月に始まり、5月に終わる通年プログラムです。

この授業でも、1チーム6−8名程度で、スポンサー企業が付きます。基本的にはデザイナー1名、ビジネス系1名、残りはエンジニア・プログラマです。スポンサー企業は、1チーム1企業で、それぞれ1万ユーロ(130万円程度)を拠出してくれます。このお金を使って、研究開発、製品設計、プロトタイプの作成までを行うことになります。

また、このプログラムの大きな目玉は、デザインファクトリーネットワークに加盟する他国の大学とのコラボレーションです。中国、ポルトガル、アメリカ、ブラジル、韓国、オーストラリアなどに協定校が存在し、そこからも3名程度がチームメンバーとなります。これは、グローバル化が進む現在、会社では国際的に製品を開発することも多いだろう、ということで、時差、文化の違いなどを乗り越えて一つの製品を作るという試練を課しているのです。

画像4

壁の地図は、デザインファクトリーネットワークを示している

僕のチームの場合、アールト大学生が6名、ニューヨークのペース大学生が3名の合計9名でした。実際のところ、フィンランド人は誰も含まれておらず、中国人2名、アメリカ人2名、ポルトガル人1名、ブラジル人1名、ネパール人1名、パキスタン人1名、日本人1名とかなり多国籍に富んだチームとなっていました。専門も、製品デザイン、化学、プログラミング、UI、経営、土木、マーケティング、工学とかなりバラバラでした。

僕たちのお題は、先進的な火災報知器(火が出る前に火を遮断する)を作っている会社から「スマートキッチンデバイスを作れ」というものでした。「スマート」って何?「キッチンデバイス」って広すぎない?スポンサーの強みを生かして何が作れるの?など数ヶ月に及ぶ討論・研究を行い、更には、最新の技術を学ぶため、スポンサー会社の社員としてラスベガスで開かれた世界最大の家電見本市、CESにも視察に行きました。

画像5

CES. Hey, Googleというと抽選でGoogle Home Miniが当たった

最終的には、5月の製品発表会(GALA)で完成品を展示・発表しました。ほぼ毎日午前3時に車で帰り、午前9時に登校する、というのを繰り返していたので、その時期の写真はほとんどありませんがいい思い出です…。

画像6

アールト大学駅やその周辺のバス停には大きな広告が出ていた

このプログラムでは、製品製作の過程を擬似体験できました(量産化以外)。文系大学生にこんな機会はまずなかったので、全てが刺激的でした。ときには…というかほぼ毎日チームメイトと討論し、意見の隔たりを埋める作業を繰り返していましたが、バックグラウンド(専門分野、国籍等)の違いがここまで考えの違いにつながるのか、ということを実感できたことも本当に良い経験でした。

僕が参加したプロジェクトの詳細については、また後日別の記事でご紹介します。


ME310(機械工学310)

画像7

正直に行って、プロジェクト自体をみるとME310とPdPの違いはよくわかりません。しかしながら、ウェブサイトを見るとより「イノベーション」に力点が置かれていることがわかります。PdPの目的は製品開発、ME310はイノベーションを起こすこと。

大きな違いは、交換留学生は参加できないことと、単位数がPdPの3倍ということ。こちらのプロジェクトの方が進捗報告などの発表などが多いと感じました。

現在はスタンフォード大学だけではなく様々な大学と提携してプロジェクトが行われているのですが、なんと2017年度から、日本の京都工芸繊維大学が提携校に加わりました。それもあってか、スポンサー企業にはANAも

ANAのプロジェクトでは、高齢者が飛行機を利用するように空港での体験を改善せよ、というお題が与えられていました。いかにも日本の航空会社が抱えている問題、という感じで、とてもリアルなお題でした。日本人の見学者にデザインファクトリーを案内していたところ、プロジェクトのメンバーから「彼らは日本人か?ヘルシンキ空港使ったか?インタビューさせてほしい」と突然言われてびっくりしました。

結果的には、ヘルシンキ空港の屋内マップを作り、乗客を、効率的に保安検査場からゲートに案内する仕組みなどが作られていました(ヘルシンキ空港にANAは来ていないのが残念です…)。



以上です。いかがだったでしょうか。デザインファクトリーでは、様々なこと・ものを開発することを目的とした教育プログラムが行われています。もはやデザインはデザイナーのものだけではないし、マーケティングはマーケターのものではない。全てが融合して初めて世に役に立つ製品・サービスになる、ということを実感させられました。

以降しばらく卒論執筆のため更新を休止しますが、次回はPdPで行った僕たちのプロジェクトについて、どのような経過をたどったのか投稿します。


この記事が参加している募集

フィンランドのこと、アールト大学のことをより知ってもらうために書いてます。応援していただけるととても嬉しいです。