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【小説de短歌】梁塵秘抄

はからずも塵となりにし院のこゑ積みかさなりて暁を待つ

 今回は小説ではありませんが……

梁塵秘抄りょうじんひしょうと名づくる事。
虞公ぐこう韓蛾かんがといひけり。声よく妙にして、他人の声及ばざりけり。聞く者で感じて、涙おさへぬばかりなり。歌ひける声の響きに、うつばりちりたちて、三日ざりければ、梁の塵の秘抄とはいふなるべしと、云々うんぬん

 梁塵秘抄りょうじんひしょうと名付けたのは、昔、虞公ぐこう韓蛾かんがという、とても声のよい人がいて、他のいかなる人の声も及ばないほどであり、その声を聴く者たちは、みんな感動し、涙をおさえることができなかったという(故事からである)。うたっている声の響きに、うつばりちりが舞い上がり、三日間、下に落ちてこなかったということから、梁の塵の秘抄ということにしたのである。
『梁塵秘抄』後白河法皇編纂 川村湊訳
(光文社古典新訳文庫)
後白河院の選述に成る『梁塵秘抄』は、もと歌集十巻、口伝集十巻、計二十巻の大著だったと推定されるのに、早い時代に散逸(中略)
ところが、明治四十四年の秋、歴史学者和田英松が東京下谷したやの古本屋で『梁塵秘抄巻二』の写本を発見し、歌人にして国文学者なる佐佐木信綱がこれを研究した結果、かの幻の大著の一部分に相違ないことが判明した。
『新潮日本古典集成 梁塵秘抄』「解説」より 
榎克朗校注(新潮文庫)

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