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往復書簡:テラとTERAの音楽をめぐって④(音源付き)グリット・レカクンより最後の手紙

by 田中教順、グリット・レカクン

互いに演奏家であり研究者でもある日本とタイ両バージョンの『TERA』の音楽家、田中教順とグリット・レカクンが、お互いの作曲や音楽観についてオンラインで書簡を交わしました。この記事では、全6通の往復書簡のうち最終便をご紹介します。書簡に寄せたオリジナル音源付きです。

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第六便:グリット・レカクンより

教順さん、こんにちは。 

私の中では、私たちは音楽と仏教や、タイ人と日本人の音楽の違いを議論しているわけではないと思っています。実際、私たちは人間で、人類の創造と発展において、世界の文化の下にいます。ですから、タイの『TERA เถระ』や日本の『テラ』で表現された音楽は、グローバル化した世界における私たちの文化や経験を表しています。ゴージャスな音楽、美しい音楽、はたまたシリアスな音楽というものがあるのではなく、人がそれを受け取る方法や時間が異なるだけです。

例えば、現在、私たちが儀式や式典で演奏しているタイの音楽ですが、私の師匠であるピニージ・チャイスヴァン(1997年に国民芸術家に選ばれました)に尋ねたら、私たちのタイ音楽はシリアスではなく、安易でキャッチーだと言うかもしれません。というのも、彼が生きていた時代のタイの音楽は非常に激しく、今よりもっとシリアスだったからです。

私は20年ほど前から、伝統音楽、現代音楽、実験音楽の分野で経験を積み、多くのタイ、そして西洋の作曲家の仕事に携わってきました。ほとんどの作曲家は、私にタイの楽器を含む複数の楽器を演奏するように求めます。驚いたことに、彼らは私の音楽がシリアスか、聞きやすいかなどは気にしてはおらず、むしろ私が自分の音楽の音的なアイデンティティを作り、表現することを重視していました。質問の答えになったかどうかわかりませんが、私はこのようにして、様々なアートプロジェクトで音楽家や作曲家と仕事をしています。

いずれにしても、この世界的なパフォーマンスに参加する機会を与えてくれた教順さんとTERASIAプロジェクトのすべてのメンバーに感謝しています。近い将来、また一緒に仕事ができることを願っています。

グリット・レカクン

往復書簡.002

追伸

さて、教順さんの音楽に私たちの新曲を録音しました。
レコーディングはトーさん(*タイ版TERAのもう一人の音楽家、トーポン・サメージャイ)と一緒に行いました。今回は、ピン・ピア、スリン、スン、ピーチュムなどの楽器を使用し、この曲の新しいサウンドを作り出しました。ピーチュム(シングル・フリーリードパイプ)の音色はナーガ王を表現しています。
私はTERAの音楽で新しい音の組み合わせを作ろうと試みました。例えば、スリンはインドネシアの竹笛ですが、より陰鬱で、それでいて穏やかな、新しいスリンの音を作り出しました。ナーガ王が到着したときの嵐のサウンドスケープを、スリンで表現したのです。
これはTERAのワールド・ミュージックです。
よかったら、「Reincarnation(輪廻転生)」という題名を使ってください。


関連プログラム

田中教順とグリット・レカクンがそれぞれ音楽を担当した『テラ 京都編』と『TERA เถระ』の公演映像は、2021年11月19日(金)~12月26日(日)まで配信中。詳細・チケット情報はこちらのぺージをご覧ください。
※チケット販売は12月12日(日)まで

筆者プロフィール

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グリット・レカクン
バンコクのマヒドン大学音楽学部卒業後、ロンドン大学SOASで博士課程(民族音楽学)を修了。SOAS音楽学部でタイの伝統音楽を教えたのち、現在はチェンマイ大学芸術学部の音楽講師を務める。専門はタイの木管楽器。実験的な音楽に関心があり、2003年からタイの伝統音楽と現代音楽のバンドKorphaiのメンバーとして活動。2004年にはタイの伝統音楽映画「Home
Rong」のサウンドトラックを担当。2012年にはASEAN・韓国伝統音楽オーケストラと共演し、2019年には現代舞踊劇「Mahajanaka Dance
Drama」英国ツアーで演奏した。

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田中教順
1983年生まれ。ドラマー・パーカッショニスト/作曲家。東京藝術大学在学中より演奏活動を行う。ジャズミュージシャン菊地成孔主宰のdCprG等で活動後、博士号を取得(学術)し、現在「抱きたいリズム」をモットーに世界を旅するリズム大好き大学職員。自身のユニット「未同定」やラテン・ジャズバンド「Septeto Bunga Tropis」などで演奏活動を行っている。近年はミャンマーの打楽器を主体とした伝統音楽「サインワイン」の研究・習得をミャンマーの国立文化芸術大学にて行っている。ミャンマー音楽の研究で令和2年度科研費若手研究にも採択。坂田ゆかり演出作品への参加は「テラ」(2018)が初。2019年には本作でチュニジア公演も経験。

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