テニス上達メモ083.書評第4弾『諦める力』勝てないのは、努力が足りないからじゃない
▶ハンカチのどこを持ち上げるか
子育てのテーマとして聞いた話の引用です。
子どもの長所を見て、短所には目をつぶりましょう、という内容でした。
短所に目をつぶるのは、切り捨てるような気がしてなかなかできないけれど、ハンカチの話にたとえて、あえてそうすることが成長を促すと説明しています。
後述する「諦める」ことで、活躍の場が広がるストーリーに通じます。
▶全体が持ち上がる
ハンカチを持ち上げるとき、どこをつまむでしょうか?
真ん中?
端っこ?
どこでもいいですよね。
どこを持ち上げても、「全体は上がる」。
これと同じように人も、どこをつまんでも全体が高く持ち上がるというたとえです。
ですから長所を引っ張り上げてやれば、短所も改善される。
あるいは目につきにくくなるとしています。
▶打つ感覚は「流用」される
テニスの上達も、同じではないでしょうか。
ある得意なショットがひとつ打てるようになると、ほかのショットも少し練習すれば、そこそこ打てるようになる。
体の使い方はまるで違っていようと、ストロークが打てるようになればボレーも打てるし、サーブも打てるようになります。
やることは「ボールに集中する」点で、共通だからです。
つまり、ある1箇所をつまみ上げれば、全体が持ち上がります。
▶「ラクして結果を出す勇気」
それはモチベーションにもつながるでしょう。
短所を伸ばそうとする努力は大変なハードモードですが、長所がラクに伸びるのは楽しいイージーモード。
何も、(確かに日本では美徳と持てはやされがちですが)つらい思いをして結果を出さなければならないわけではありません。
同じ結果が出るなら、ラクに楽しく出ても構わないはずです。
だけどそれだと「やった気がしない」「物足りない」などと思えてしまう?
ですから、「ラクして結果を出す勇気」。
さらに高みへ登っていけばいいのです。
▶あなたのラクが、他人のラクとは限らない
先ほど「流用」という言葉を使いましたが、たまに「横着」と捉えられる節がある。
あるショットの感覚を流用してほかのショットも打てるようになるなら、どんどん流用すれば、またほかのショットにも波及効果がどんどん及びます。
ラクして、というと語弊があるかもしれませんけれども、そうして結果が出るフィールドこそ、その人の長所、強みとは言えないでしょうか。
あなたはラクだとしても、他の人にとっては大変かもしれないのですから。
そして他の人にとってのラクが、あなたにとっての大変かもしれない。
▶「泳ぐ感覚」をマスターする
ある1箇所をつまみ上げれば、全体が持ち上がるハンカチ。
プロでも、「ストローカー」とはいっても、それは打つ頻度に違いがあるだけで、ではラファエル・ナダルがボレーを全然打てないかというと、そうではありません。
戦況や対戦相手との駆け引き、自分らしい戦い方などから傾向として、ボレーを打つ頻度が少なくなっているだけです。
クロールの競泳選手だからといって平泳ぎができないわけではありませんし、平泳ぎの競泳選手だからといってクロールを泳げないわけではありません。
「泳ぐ感覚」をマスターすれば、どんな泳ぎ方もできます。
「全体が持ち上がる」のです。
▶すべてのショットを極める必要はない
また、すべての種目を極める必要もないでしょう。
平泳ぎの選手であれば平泳ぎを極め、クロールの選手であればクロールを極めれば、よいのではないでしょうか?
テニスも同じで、何もすべてのショットを極める必要はありません。
ナダルのようなストローカーもいれば、ジョン・イズナーのようなビッグサーバーもいれば、今はラケットの高性能化に伴い振り回すベースライナーが多く、確かに少数派ではあるけれど、ステファン・エドバーグのようなサーブアンドボレーヤーもいました。
ちなみにプロほど振り回せないアマチュアであれば、むしろ愛好家こそサーブアンドボレーは武器になるという話はこちら。
▶活躍できる「場」を選ぶ
もちろんロジャー・フェデラーのようなオールラウンダーもいるけれど、ナダルのような強烈トップスピンを打つ必要はないし、イズナーのようなビッグサーブを身につけようとすると、やっぱり208センチの上背は持って生まれた資質だから、伸ばせない以上は難しいのです。
陸上競技でいえば、花形の100メートル走で勝てなければ、三種や五種、あるいは七種、十種に活躍の場を移して、すべてを極めなくてもアベレージが高まれば、トップにいける可能性は十分あります。
▶「耐える人生か。選ぶ人生か。」
為末大の『諦める力』(為末大著・プレジデント社刊)は名著だと、主観的に思います。
彼は花形の100メートル走を「諦める力」を行使して、ハードルで成果を残したのでした。
「勝てないのは、努力が足りないからじゃない」のキャッチコピーとともに、「耐える人生か。選ぶ人生か。」を私たちに提供してくれる『諦める力』。
「欧米ではコーチは、日本のように師事する師匠ではなくて、アウトソーシング(外注)」なのだと説明。
日本では、コーチに「従う」、海外では、「雇う」という対比が、日本人の感覚からするとユニークに思えないでしょうか?
▶「従う立場」は自己肯定感をくじかれる
これは何も、プロの世界に限った話ではないでしょう。
テニススクールに通うプレーヤーだって、コーチを「雇っている」ようなものです。
雇用主に、従う感覚は不要。
チェックを依頼する感覚は必要。
テニス界でも、プレーヤーがコーチとの契約を解消する話題はよくあります。
「契約」です。
立場は「対等」です。
日本ではまだ一般的に、「教えてあげる、教えてもらう」の主従・上下・師弟関係が支配的のように感じます。
日本のメディアでは「師弟関係に終止符」などと報道されるのがその証拠。
その内実を端的に言えば、選手がコーチの「首を切った」ニュアンスに近いでしょう。
従う立場のプレーヤーは自分らしく振る舞う「素直(素のまま真っ直ぐ)」「ありのまま」が否定されて、自己肯定感がくじかれます。
▶「もらう」不要論
またスポーツ界に限った話でもありません。
会社と会社員の立場も対等。
フリーランスとクライアントの立場も対等。
先生と生徒の立場も対等。
親と子どもの立場も対等。
銀行の貸し手とローンの借り手も対等。
「教えてあげる」「教えてもらう」のではなくて、単に「教える」「教わる」。
仕事を「もらう」のではなく、仕事を「する」。
そうしてお互いが対等な立場のもと協力して、成果物を分かち合えばいいのだと思います。
▶諦めるとは、「明らかにする」
一般的には「簡単に諦めるな!」などというけれど、諦めるほうがつらくて大変な「諦めきれない」場合もある。
だから諦める「力」です。
とはいえ「諦める」などというと、ネガティブな印象?
為末は仏教にあたって、「諦めるとは明らかにする」と語源を遡りました。
むしろポジティブな意味合いであると説きます。
長所や短所、強みや弱みを明らかにして、自分が勝てるフィールドで戦えば、それでいい。
すなわち「勝てないのは、努力が足りないわけじゃない」。
そのフィールドを「選ぶ人生」か、我慢して努力し「耐える人生」か、という道になるのだと思います。
▶リア充なんて全体の10パーセントもいない
『諦める力』
私が初めて読んだのは、いつくらいのときだったか?
2013年の発刊とあるから、まだ約10年前。
今すぐは手元にないから、アマゾンの目次で確認できる耳目に触れた内容を列挙します(今だと書籍のほか、Audibleもあるから耳でも聞けます)。
「『今の人生』の横に走っている『別の人生』がある」
「論理ではなく勘にゆだねる」
「リア充なんて全体の10パーセントもいない」
「アドバイスはどこまでいってもアドバイス」
「『あなたのためを思って』には要注意」
▶長所を上げれば全体が上がる
ハンカチの話から図らずも、書評第4弾となりました『諦める力』。
他人の長所や強みをうらやむのではなくて、自分の長所を、自分らしく伸ばしていけばいいのではないでしょうか?
そうすれば、ハンカチのたとえのとおり、全体が上がります。
あるひとつの長所がレベルアップすれば、他所も引き上げられてアップする。
ストロークもあればボレーもあればサーブもあればスマッシュもあればといっても、「テニスはテニス」ですからね。
▶「感覚」を身につける
ただし、それを実現するためには、条件がひとつありそうです。
それは、テニスをトータルとして「感覚」で行なうこと。
各ショットのフォームについて、個別に型にはめてプレーしていると、それぞれは「別物」になるから、総合的なレベルアップは生じません。
テニスが1枚のハンカチではなく、ちぎれた「端切れ」になってしまいます。
フォームについて、「クロールはこう」「平泳ぎはこう」の個別対応ではなくて、総合的な「泳ぐ感覚」を身につけるがごとく、「ボールを打つ感覚」を身につけます。
ナダルがボレーを打てないわけでもなければ、イズナーがストロークは下手なわけでもありません。
そこは、他の選手たちとのバランスしだい。
自分が活躍できるフィールドしだい。
▶100メートル走を「花形」と決めたのは誰だ?
「選ぶ人生がある」と為末は提案します。
努力が足りないわけじゃない。
100メートル走が花形と決めつけたのは、世間一般のジャッジメント。
ひらりと舞うハードルだって、花です。
ハンカチのたとえで言えば、短所に目をつぶっても長所を引き上げれば、全体が上がります。
為末が100メートル走を諦めなかったら、もちろんそちらの人生は経験していないからどうなったかは絶対に分からないのだけれど、間違いなく今の為末はいません。
▶「ないものねだり」を諦める力
それでも、やっぱり短所も伸ばしたいでしょうか?
「ないものねだり」をするのが、人の性かもしれませんからね。
中年ゴルファーに、できないからこそこだわる「下手の横好き」は少なくないでしょう。
それが趣味ならもちろん構わないけれど、「勝ちに行く」なら、話は別。
また、自己肯定感が低いと自分の好みを認め難いから、輝ける長所、強みが見つかりにくいことも付け加えます。
「諦める力」を行使すれば、我慢のない人生が、今ある人生の横を走っている。
輝ける長所は、誰にだってあるに違いない。
即効テニス上達のコツ TENNIS ZERO
(テニスゼロ)
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スポーツ教育にはびこる「フォーム指導」のあり方を是正し、「イメージ」と「集中力」を以ってドラマチックな上達を図る情報提供。従来のウェブ版を改め、最新の研究成果を大幅に加筆した「note版アップデートエディション」です 。https://twitter.com/tenniszero