マガジンのカバー画像

脳内フィクション

14
頭の中に数多く思い浮かんだ「小説ほど長くないけどちょっとしたお話」を紹介していきます。 ちなみに全てフィクションです。 面白いかもしれないし面白くないかもしれないけど 読んでいた…
運営しているクリエイター

#ショートストーリー

レ点の前みたいに

ショーケースの前で、2人の女の子が楽しそうに次々とケーキを選んでいく。

「うち、チョコのやつがいい!」

黒髪のボブヘアで活発そうな方が元気よく言う。もう1人は茶髪のロングヘアで、いかにも「女の子」な雰囲気だ。

「私はモンブラン!先輩もモンブラン好きって言ってたから、2個かな」

「舞子は絶対フルーツ乗ってるやつにしないとね」

何の集まりをするのかは知らないが、お互いのケーキの好みを把握して

もっとみる

ケーキを食べればいいじゃない。

土曜日の朝、始発で帰宅した私は世界中を嫌ってしまいそうなほど疲弊していた。

全ての原因は昨日の金曜日にある。恋人の裕也と食事の約束をしていたので、定時で上がれるように上手く計画して仕事を片付けていた私に、16時50分に上司の羽成さんが仕事を持ってきた。

「舞子ちゃん、この資料悪いんだけど、修正書いてあるところ直して先方にメールしておいてもらえる?」

羽成さんは他の社員が近くにいない時、私のこ

もっとみる

傘とサンセット

18時を過ぎ、いつもなら空が赤く染まる頃、会社を出るとひどく曇っていた。SF映画だと、何かが起きる直前だ。浩太は公開日をかなり過ぎて最近初めてDVDで観た映画を思い出していた。
「天気、やばいっすね。」
一緒に出てきた後輩の仁志が言う。彼のボキャブラリーに浩太は時々ため息が出そうになる。"やばい"と"マジで"を多用する仁志は26歳だが、見た目はどこからみても大学生だ。年齢だけが前に出すぎたのだろう

もっとみる

ちゃんとさよならして

インクを刷り込む音が一定のテンポで流れていく。職員室のコピー機は調子が悪くて、1枚印刷するのに1分くらいかかってしまうらしい。そのリズムはだんだんと僕の身体に入り込み、僕は慣れ、そして目を閉じた。思い出すのは、あの何もない、ただ白いだけの寂しい世界だ。

狂ってしまいそうになる、エタノールの臭い。エタノールという言葉は、最近覚えた。今まではずっと、病院の臭いだった。3人で、怒られるまで夜更かしして

もっとみる

ぶどうを描くなら

母は、真剣な表情でクレヨンを走らせる次女に訊ねる。
「何を描いているの?」
次女は母の方を向かず、クレヨンを走らせながら答える。
「ぶどうだよ。昨日の夜、食べたでしょう。」
5歳になった次女は、昨夜初めてぶどうを食べた。小粒のぶどうを一生懸命剥いて何粒も食べていた。そのまま食べて皮だけ吐き出すのだと長女が説明しても、目をキラキラさせてぶどうを剥いていた。
「そうね、美味しかったね。」
母は歩み寄っ

もっとみる