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「地下2階」に行くために、僕は2人に逢いにいく〜僕の文学的啓発書「みみずくは黄昏に飛びたつ―川上未映子訊く 村上春樹語る―」

村上春樹と川上未映子の対談なんて……。

なんて魅力的なネームが並んでいるのだろう。

憧れというより心の奥底がキュンとくるようなタッグ。

村上春樹の創作の秘密を川上未映子があらゆる角度から深く深く掘り下げて
聴いていく。それも徹底的に。そこまで聴くの!? っていうくらい何度でも。

最初から最後まで心震える名言の宝庫だった。

この本は小説のみならず、文章を書くすべての人にとって究極の自己啓発書だと思った。

ただ正直、2回通しで読んだけれど、語りの内容が深くて咀嚼しきれない。

驚いたのは、川上さんが全然読者のレベルに合わそうとしていない。自身が聴きたい質問を畳みかけるように、次から次へと繰り出して、完全に作家としての欲望が迸っちゃってる。

この本は生半可な気持ちじゃ読めないと思った。

平日に仕事帰りに読むのではなく、休日にどっぷり2人の語りにハマろうと、日曜日の晴れた日に近所のスタバの窓際の席に陣取り、私は2人の対談に耳を澄ませた。

すると、私はこの本で繰り返し語られるキーワードに心を奪われた。

この本で村上さんが何度も語る言葉。

それは「地下2階」というワードだ。

彼が創作するにあたり、地上1階でもなく、地下1階でもなく、地下2階のスペースにある空間があるというのだ。

そもそも地下2階とは何を指すのだろう。

村上さんが川上さんに語るその場所は、私のような凡人にも行ける場所なのだろうか。読み進めると彼が語る「地下2階」の実像がぼんやり見えてくる。

私も神々のいる「地下2階」へ行きたい……。
どうしたらそこに行けるのだろう。

一言でいうと地下2階とは、あっち側の世界らしい。

意識の下部に自ら下ること。心の闇の底に下降していくこと。日常的な葛藤よりも深く、自我レベルより深い無意識の層。そこに静かなスペースがあるらしい。

「地下2階」ってそんなとこなのか……、では「地下1階」は?

川上さんは地下1階を「くよくよ室」と呼んでいた。ここを徹底的に文学にしたのは太宰治だろうか。みんな大好きなところであり、多くの作家やライターはこの辺りをぐりぐりやるのだと思う。でも確かに私が村上春樹の作品に魅かれるのは地下1階の雰囲気じゃない。

村上春樹は、この地下1階にあまり近寄らないらしい。その階をあっさり通り抜けると言っている。

業や因縁のドロドロした部分に満ちた地下1階ではなくて、地下2階はもっと深い静かな場所。まるで自分の心の奥深くと繋がるような感覚。

そこで語られた言葉は一つのボイスとなって、読み手のボイスと響き合う。心理学的には集合的無意識と言うらしい。村上春樹は洞窟のような場所とも表現している。そこでは生と死がシームレスに行き来するような感覚が流れているらしい。

さて、地下2階に行くとどんな良いことがあるのだろう。
村上春樹が語る幾つかの言葉を並べてみる。

・暗がりの中で話が自然に伸びていく。
・必要な時に必要な記憶の抽斗がぱっと勝手に開いてくれる。
・比喩やアイデアの一番適当なものを呼び寄せられる。
・物語の中の人物が自然に動き出していく。
・リアリティを超えたもう一段差し込みのあるリアリティが生まれる。
・そこで生まれた言葉がボイスとなって、読み手のボイスと響き合う。
・「マジックタッチ」が生まれる。
・そこで書かれたものは国や民族を超えていく。
・今ある自分では無い、そうであったかもしれないもう一人の自分になれる。
・自身の中の解消しきれない何かが癒される。

すごい……。

地下2階の世界は誰の心にもあるらしい。私も私の心の地下2階に降りて行って創作活動をしたい。

でもどうしたら地下2階という深い層に行くことができるのだろう。

ヒントになりそうな言葉を拾い集めると、

・絶対に一日十枚書く。何があっても、とにかく十枚書く。
・フィジカルを鍛える。
・時間をたっぷりおく。
・文体は心の窓。
・「今が時だ」をつかむ、
・リズムを大切にする。
・目で響きを聴きとれないとダメ
・「善き物語」を信じている。

何だか、つかめるようでつかめない。

最後に村上春樹が語っている言葉から「地下2階」のイメージをつかみたい。

『何もかも忘れて神経を文章に集中していると、厚い雲間から太陽の光がこぼれるみたいな感じで、自分の意識の情景がさっと俯瞰できる瞬間がある』

『僕はまだまだ自分の物語を大きな声で語り続けたいと思います。もしよかったら僕の洞窟に寄ってみてください。焚火の炎もしっかり燃えています』

ここまで書いて、休日が終わってしまった。
この文章を書きながらも、結局、今日は地下2階には辿りつけなかった。

私もいつか、私の心の奥に潜む「地下2階」で自分なりに言葉を紡ぎたい。

そして多くの方の心の深層と共鳴するようなボイスを届けるようになりたい。

だから、その場所に辿り着けるまで書き続けようと心に誓った。

大丈夫。必ず行けるはずだ。

羅針盤はすべて、この本の中にある。

皆さんも、皆さん自身の「地下2階」に行ってみたいと思いませんか?

村上さんと川上さんがスリリングに誘(いざな)ってくれますよ。

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