青江
記事一覧
「光る君へ」第39回 「とだえぬ絆」 ままならぬ人生の幸せとは
はじめに
宿世…第39回のアバンタイトルで、まひろが書きつけ呟いた一言です。この一言の後にオープニングが始まることもあり、印象深い言葉になりました。宿世とは、前世からの因縁。宿命という仏教的な観念です。宿世は、「源氏物語」にもよく出てくる文言で、「源氏物語」の文学研究、あるいは思想研究などでしばしばテーマとして取り上げられます。
現実は、予想外の連続で、ままならないことが圧倒的に多いでしょう
「光る君へ」第38回 「まぶしき闇」 最早、後戻りできないまひろと道長
はじめに
若い頃、30代とは随分、大人に思えたものですが、実際に20代から30代になってみると、三十路に突入した感慨はあるものの、そんなに年寄りになってしまった気はしないという経験はあるでしょうか。30歳は人生の転機、修正する最後の機会ではあるのですが、一方で体力はまだありますし、また経験を積み、物事がある程度見えるようになってきた頃でもあります。
ある種の自信がありますから、お肌について以外
「光る君へ」第37回 「波紋」 まひろの栄華とその代償の大きさ
はじめに
現在はそうとは言い切れませんが、少なくとも一昔前のサラリーマンにとって大切なことは、出世だとされていました。特に「24時間働けますか」と今ならブラック企業全開のキャッチフレーズが栄養ドリンクに採用されていた昭和期であれば、なおさらだったでしょう。まず出世は、給料に直結します。自分の生活の豊かさの実現には不可欠です。また、やりがいのある仕事をするには、会社内で認められ、出世することが近道
「光る君へ」第36回 「待ち望まれた日」 無私の道長に野心家への道が開けた日
はじめに
好時魔多し…よいことにはとかく邪魔が入り、とんでもないことが起こるものだという慣用句です。とかく物事が上手くいっているときほど、人の心は緩みやすく、油断も多いものです。だから、気をつけなければならない。この慣用句は、戒めの言葉として使われます。
とはいえ、願いが叶っているとき、充実しているときというのは、どうしてもそのことに心が囚われる、あるいは根拠のない自信や心が大きくなることが
「光る君へ」第35回 「中宮の涙」 過去を昇華していくこと
はじめに
「覆水盆に返らず」…「封神演義」で知られる周の太公望の逸話が元になったこの諺は、一度起きてしまったことは二度と元には戻らないという意味で使われます。言い換えれば、過去とは動かしようのないものということです。したがって、美しい思い出であれば、人はそれに囚われ、取り返しがつかない後悔であれば、人はそのトラウマに延々と苛まれます。その過去の善し悪しにかかわらず、人の生き方は過去に縛られ、左右
「光る君へ」第34回 「目覚め」 人を癒す「物語」の力
はじめに
物語の面白さとは何でしょうか。「面白さ」という言葉自体、かなり曖昧で大雑把、そして主観的なものですから、この問いの答えはかなりたくさんにはなりそうです。
ただ、大きく分けると二つの観点はありそうです。
一つは、論理性です。一貫性のない支離滅裂な作品は、たまにありますが、狙ってそうした作品でもない限り、疲れます。人は、わかりやすさをまず求めます。そして、もう一方で意外性も求めてい
「光る君へ」第33回 「式部誕生」 その2 まひろの「物語」執筆の原動力とは
※ 本記事は第33回note記事「その1」と合わせてお読みいただけると、より楽しめます。
はじめに
人間誰でも、一つは長編小説を書けるのだそうです。その題材は、自分の人生です。人生は山あり、谷ありです。ですから、その人生を筋道立てて、組み立てていけば長編小説になるというのですね。勿論、それが面白くなるかどうかは、腕次第ということになるでしょう。この話は、一人一人の人生には、それだけの価値
「光る君へ」第33回 「式部誕生」 その1 道長の考えるこの国の未来への射程とは
はじめに
「知に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかく人の世は住みにくい」ということわざは、かの夏目漱石「草枕」の冒頭の一文「山路を登りながら、こう考えた」に続く冒頭部分から来たものです。「草枕」は明治期の作品ですが、この一節に書かれた人間関係の難しさは、2020年代を生きる私たちにとっても経験済みの「あるある」ではないでしょうか。会社、学校、地域といった他人との関係
「光る君へ」第32回 「誰がために書く」 道長にとって必要な「光」とは何か
はじめに
意外に思われる方もいるかもしれませんが、作品とは書きあがった瞬間から作家から独立した存在になります。言い換えるならば、作品とは完成した時点で、読者や観客といった受け手に委ねられるものなのです。
なるほど、著作権的には作品は作家に帰属していますし、その作家が書かなければ作品は存在し得ません。作品にとって、作家は神のごときものと思う人もいるでしょう。その典型が、神の言葉を記した聖典と
「光る君へ」第31回 「月の下で」 すべてがまひろのもとへ…そして、「源氏物語」が始まる
はじめに
ここまで長かった…しみじみ思う視聴者も少なくないでしょう。紫式部と言えば、「源氏物語」であり、中宮彰子付の女官という印象が一般的です。彼女が主役の大河ドラマの製作が発表されたとき、華やかでゆるふわ、乙女な貴族社会が描かれると期待、あるいは逆に不安を募らせた方々もいらっしゃったでしょう。
しかし、蓋を開けてみれば、初回から紫式部の母親が惨殺されるわ、華やかからほど遠い貧困と身分差の苦
「光る君へ」第30回 「つながる言の葉」 「源氏物語」へ向かうそれぞれの助走と足踏み
はじめに
劇中の時間は、前回から3年の時が経ちました。3年間というのは、中高生であれば、入学して卒業するまでの時間です。そう考えると、3年間はあっという間に見えますが、物事が芽吹いて、ある程度、熟成するには十分な期間だと言えるかもしれません。また、卒業という言葉に注目するならば、3年目は転機になるときだとも言えますね。
勿論、一方で、3年間では結果が出ない。停滞しているように見えるものもあ
「光る君へ」第29回 「母として」 諦めのボーダーラインはどこにある?
はじめに
処世術として「諦めが肝心」とはよく言われます。世の中には悩んでも自力ではどうにもならないものがたくさんあります。こうした困難や厳しい状況を受け入れるとき、あるいは失敗や不運を嘆いても仕方がない場合、時には「諦めが肝心」というのです。「諦める」とは、ある物事への執着、固執を捨てることです。
執着心が、他人の意見を退ける、あるいは視野狭窄を生み、人を苦しめることは、誰もが知るところでし
「光る君へ」第28回 「一帝二后」 光る君への強すぎる思いが招く不穏な空気
はじめに
「気持ちを強く持つ」…この言葉は、メンタルの強さ、意思の強さ、不屈の精神などポジティブな意味合いで持っています。何事かを成そうとする目標、目的を持つ人であれば、不可欠のものと考えるのが一般的です。「強く思い続ければ夢は叶う」…という表現も使い古された感がありますが、未だに人気の高い言葉と思われます。
たしかに夢を常に意識する人は、自分が何をすべきかが明白です。また、夢に向けてどう順
「光る君へ」第27回 「宿縁の命」 一方通行の愛の身勝手が招く人間模様
はじめに
「愛し合う」…この言葉にどんなイメージを持つでしょうか。そこに理想を見る人は、美しいものを感じ取るでしょう。出来ればそういう相手と出会いたいものだと思うのも自然なことです。あるいは、今まさに愛し合っていると実感している人は、この言葉に自分たちを重ねて満足を覚えるのではないでしょうか。あるいは、この言葉が含んでいる性的なニュアンスに思い当たってしまった人は、なんだか気恥ずかしい気持ちにな