Nyori

週一回程度、美術展や博物館の感想、読書レビューなどをゆるく投稿しています。中の人は色々…

Nyori

週一回程度、美術展や博物館の感想、読書レビューなどをゆるく投稿しています。中の人は色々とエンジョイしてる字書きのオタク。

マガジン

  • 考古学いろいろ

    主に古墳時代を中心に、実際に訪れた遺跡や考古学書の感想をまとめています。

最近の記事

極彩色の黄泉の国 -『シリーズ遺跡を学ぶ010 王塚古墳』感想-

概要 日本全国津々浦々、コンビニよりも数多い人工建造物・古墳。 古代人のお墓のうち、主に三から六世紀にかけて築造されたものを「古墳」と呼ぶようで、後の時代のものは塚とか墓と書くのが一般的ですね(何でだろう?) そんな古墳ですが、内部装飾付き物件は驚くほど少ないことをご存知でしょうか? 古墳時代の人は墳丘本体を埴輪や葺石で飾ったり、棺の内部に装飾品を収めたりはしたのですが、棺を安置する玄室はシンプル設計でした。古代エジプト人のお墓が壁画でみっちり埋め尽くされているのとは対照

    • 書泉の陰謀にハマり中世への旅 三部作を読んだ話

      ザ・趣味の本屋書泉グランデなる本屋をご存じでしょうか? 東京近郊のオタクであれば「あぁ~w」となるかもしれません。 古本の都 神保町の一隅に佇む、公式自ら 頭おかしい を標榜するステキな本屋・書泉グランデは、マニアックな欲望と愛に満ちた本棚作りで有名です。各階ごとにテーマがあり、TRPGコーナーやらクトゥルフエリアやら、挙句の果てには中世ヨーロッパの本格的な甲冑まで展示されています。何屋さんだよここ そんな書泉グランデ(の甲冑担当店員)が、老舗 西洋文化・文学専門出版社

      • 【アーティゾン美術館】コレクション展が凄い通り越してやばい!

        先日、20世紀を代表する彫刻家ブランクーシの展覧会(@京橋のアーティゾン美術館)に行ってきました。 ブランクーシ展の会場は6階。出口から退出すると下の階へ続くエスカレーターが現れます。5階と4階では石橋コレクション展を開催しているとのことで、美術館出口(3階)まで歩きながらお楽しみくださいといったところでしょうか。 ほほー、国立西洋美術館と似たスタイルですな。西洋美術館は企画展に入ると常設展も入場させてくれるので、モネの睡蓮眺めて帰るのがけっこう好き。アーティゾン美術館も似

        • 【ブランクーシ展】ポスト・ロダンへの飛翔【アーティゾン美術館】

          彫刻家オーギュスト・ロダンの名を聞いたことはなくとも、『考える人』や『地獄門』の作者だと言われれば「あの難しい顔して顎に拳当てて座ってる銅像作った人ね」となる方は少なくないでしょう。 おそらく世界で一番有名な近代彫刻家・ロダン。 その名声は生前からきわめて高く、1900年頃のパリでは彫刻といえばロダン、彫刻技法もロダン風だったとか。私生活では優柔不断だったと言われる彼ですが(詳しくはカミーユ・クローデルの生涯を見てね)、本業では皇帝のように君臨していたようです。 そんなロダ

        極彩色の黄泉の国 -『シリーズ遺跡を学ぶ010 王塚古墳』感想-

        • 書泉の陰謀にハマり中世への旅 三部作を読んだ話

        • 【アーティゾン美術館】コレクション展が凄い通り越してやばい!

        • 【ブランクーシ展】ポスト・ロダンへの飛翔【アーティゾン美術館】

        マガジン

        • 考古学いろいろ
          11本

        記事

          【宇野亞喜良展】90歳現役イラストレーターの軌跡【東京オペラシティアートギャラリー】

          もう終了してしまいましたが、デザイナー・イラストレーター宇野亞喜良氏の大規模展覧会に行ってきました。 「そこまで混まないだろう」と最終日の午後のんびり行ったら、入場待ち列まで出来ており現場は大混乱。完全に油断してました。宇野先生、ファン多いんだな…! 事前にチケットを用意していたのに、何故かチケットの有無に関わらず同じ行列に一律で並びます。なんでだ? そのまま特に前売りチケットを買った利点を感じぬまま、周囲の人と同じペースで入場しました。 東京オペラシティアートギャラリー

          【宇野亞喜良展】90歳現役イラストレーターの軌跡【東京オペラシティアートギャラリー】

          DALL-E3・デ・キリコ

          先日、20世紀を代表する画家ジョルジョ・デ・キリコの大規模展覧会に行ってきました。 デ・キリコ良いですよね。大好きです。あんな雰囲気の絵をもっとたくさん見たいなー そんな個人的ドリームを叶えようと、ChatGPTくんと作業してみました。 純アート系はStable DiffusionよりもDALL-E3(ChatGPT)を使った方がプロンプトの反応が良く、出しやすいイメージ。(もっとも、SD3ではまた違うかも。要検証) 気軽に始めたものの、思ったより試行錯誤する羽目になりま

          DALL-E3・デ・キリコ

          昭和モダンの階段を登ろう【雅叙園 百段階段】

          百段階段で遊んできました。 何それ?という方のために解説しておくと、東京都目黒の高級ホテル雅叙園東京の一画にある、東京都指定文化財建築のことです。 むかしむかし、雅叙園がまだ料亭だった時代に建てられたもので、傾斜地に九十九段の階段と7つの座敷棟宴会場がセットで貼り付いています。 内装は豪華絢爛。当時の錚々たる日本画壇の重鎮たちが手掛けた天井・壁画は部屋ごとに異なるテーマで統一され、色とりどりの美の世界を演出。太宰治曰く『昭和の竜宮城』だそうですが、ほんとこれ。ただ珍しく面白

          昭和モダンの階段を登ろう【雅叙園 百段階段】

          播磨国風土記で探る、兵庫県の古代【書籍レビュー】

          最近、風土記の解説本をちまちま読んでます。 各地で伝承されてきた神話の欠片が保存された貴重な記録なので、眺めていると味わい深いです。ただ、個人的に馴染みのある地名が出てこないのはツラいところ。(うちの国はどうして風土記ないんだ…) さて、今回レビューするのは、風土記のなかでも現在の兵庫県エリアの逸話を集めた『播磨国風土記』にフォーカスした一冊です。 ちなみに前回読んだ風土記本のレビュー記事はコチラ↓ 書誌情報 編者 播磨学研究所は兵庫県立大学に設置されている、兵庫の兵

          播磨国風土記で探る、兵庫県の古代【書籍レビュー】

          日本神話は記紀だけじゃない。風土記に残る神話世界【書籍レビュー】

          日本神話を深く知るのは難しい。 日本神話=記紀……で済めば簡単だったんですけど、現実ははるかに複雑です。 例えば、最寄りの神社の祭神を確認してみてください。記紀に一言言及されていれば良い方で、掲載すらされていないことも多いんですよね。 日本神話を構成するはずの神々。記紀にないなら、その神話はどこにあったんでしょうか? 日本神話を眺める。 どこもそんなものかも知れませんが、日本神話は「故意に作り上げた」神話と「仏教や道教と合体した」神話、そして「各地で伝承されてきた」神話

          日本神話は記紀だけじゃない。風土記に残る神話世界【書籍レビュー】

          月岡芳年 百の月をめぐる物語【太田記念美術館】

          月には不思議な魔力がある。 基本的に人類は太陽の子だ。朝日とともに起き、日没とともに眠る。太陽の巡りを一年とし、光を擬人化して神を見出す。 ……ところが、月光愛好者の派閥というのも太古の昔から脈々と途切れず存続しているんですよね。 20世紀の日本だと小説家・稲垣足穂が月光愛好者の頂点になるのでしょうか。彼は何度もエッセイにつづっています。太陽光ではなく、夜のネオンに彩られた菫色の六月の空の下、ダイヤよりガラスを、自然物よりメカニクスを、宇宙的郷愁をかきたてる月の光を。 足

          月岡芳年 百の月をめぐる物語【太田記念美術館】

          キトラ古墳から高松塚古墳まで徒歩観光した話(後編)

          (前編のあらすじ) 2024年1月、キトラ・高松塚古墳の壁画見学のため明日香村に向かった作者。キトラ古墳壁画を堪能するも、高松塚古墳へ歩いていく道の途中で方向を見失ってしまう。果たして、無事に辿り着けるのか!? …とまぁ、茶番はここまでにしまして高松塚古墳を見学する後半パートです。それでは、キトラ古墳周辺地区で迷子になっているところからスタート。 北に向かって歩く。迷う。 キトラ古墳の周辺は国営飛鳥歴史公園 キトラ古墳周辺地区として保護されており、古墳本体のほか、壁画保

          キトラ古墳から高松塚古墳まで徒歩観光した話(後編)

          REALFORCEがUSB3ポートで認識されない話

          普段はアートと古墳と読書の話をしている当アカウントですが、中の人はテック系のはしくれの端くれ。たまにはテクノロジー記事も書こうじゃないか! ということで、先日悩まされたキーボードがPCに認識されない問題とその解決法のメモです。 問題となった機器たち REALFORCE SJ38D0モデル: 東プレが誇るタイピング感抜群の高級キーボードREALFORCEシリーズの第一世代。日本語配列108キー、USB有線接続、カラーはホワイト。 すべてのキーが押下げ圧30gという驚異の軽さ

          REALFORCEがUSB3ポートで認識されない話

          自由研究を極めたら ~ぼくが選んだ最強の岡山古墳【同人誌レビュー】

          自由研究。 それは夏休み最終日の小学生を悩ませ、家族保護者を混沌と寝不足の淵へ落とす恐るべき刺客… ではなく。 本来は子供が自分の趣味や嗜好に従って、自由な発想で行う研究のことですね。 夏休みの宿題の代名詞になったのは、長期休暇で時間が余っているので自由研究させやすいと学校が判断した古の伝統が生き残ってしまったからでしょう。主旨通りならもっと楽しいもので良いはず。 先日、そんな自由研究本来の姿を思い出させてくれる同人誌(個人誌?)を読みました。面白いのもそうですが、普通

          自由研究を極めたら ~ぼくが選んだ最強の岡山古墳【同人誌レビュー】

          キトラ古墳から高松塚古墳まで徒歩観光した話(前編)

          これは奈良県明日香村の名所キトラ古墳と高松塚古墳の墳形と壁画を連続で見学した体験まとめnoteです。経路は  近鉄吉野線 壺阪山駅 → キトラ古墳 → 高松塚古墳 → 近鉄吉野線 飛鳥駅 電車と徒歩、のんびりぶらついて4時間のコース。 【感想】 ・どちらの古墳も本体は意外とシンプル&小サイズ ・キトラ古墳は壁画公開期間の訪問がオススメ! ・キトラ古墳から高松塚古墳は歩ける。でもちょっと迷う。 旅に出た理由~まずは地図を確認 奈良県明日香村の古墳といえば、やっぱりキトラ

          キトラ古墳から高松塚古墳まで徒歩観光した話(前編)

          デ・キリコ展、行きつ戻りつの絵画世界【東京都美術館】

          不思議と懐かしく、郷愁をかき立てられる絵に出会ったことはありますか? 幼い頃住んでいた町に戻ってきたような、昔見た夢の景色に再会したようなノスタルジア。 私にとってはジョルジョ・デ・キリコの絵がそうです。 デ・キリコが描く憂いに満ちた街の風景には、自分でも不思議なくらい惹き込まれます。 一番好きな絵は『都市の神秘と憂愁(別名:通りの神秘と憂愁)』。輪を回す少女とアーチのある都市、向こう側から伸びる人影。それらが現実にはあり得ない角度で交差しつつも一枚の絵の中で調和する、何と

          デ・キリコ展、行きつ戻りつの絵画世界【東京都美術館】

          法然上人と浄土宗の宝物大集合【国立博物館】

          現代を生きる我々にとって、仏教とは人々を救う仏様に導かれて極楽往生出来るように願う宗教です。よほどの極悪人はともかく、基本的に人は極楽に行くものというイメージがありますよね。 でも歴史を紐解けば、選ばれた人しか救われないとされていた時代もありました。例えば平安時代の仏教(密教メイン)は国家鎮護および財力を持ち教義を知る貴族層のための宗教であって、無知な民衆に救いはありませんでした。 「それはおかしい!」と訴えた改革者たちが現代に続く仏教観を作っていったのですが、その中に源空

          法然上人と浄土宗の宝物大集合【国立博物館】