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昭和モダンの階段を登ろう【雅叙園 百段階段】

百段階段で遊んできました。
何それ?という方のために解説しておくと、東京都目黒の高級ホテル雅叙園東京の一画にある、東京都指定文化財建築のことです。

むかしむかし、雅叙園がまだ料亭だった時代に建てられたもので、傾斜地に九十九段の階段と7つの座敷棟宴会場がセットで貼り付いています。
内装は豪華絢爛。当時の錚々そうそうたる日本画壇の重鎮たちが手掛けた天井・壁画は部屋ごとに異なるテーマで統一され、色とりどりの美の世界を演出。太宰治曰く『昭和の竜宮城』だそうですが、ほんとこれ。ただ珍しく面白いレトロ建築なのでした。

宴会場のひとつ漁樵ぎょしょうの間、立体彫刻に漂う竜宮城感


さて、そんな百段階段では頻繁にイベントが開催されており、宿泊客以外でも観覧料(1600円)を支払えば内部を自由に見学可能。例外を除いて写真撮影もOKなので、モダン着物でめかしこんで訪れるのも楽しそうです。ばえ。

私が行ってきたのはこちらの昭和モダンを楽しむ展示イベント。

本展のテーマは大正ロマン~昭和モダンだそうで、あの時代にちなんだ女性のファッションアイテムを多数展示。また、100年前の女子学生に大人気だった竹久夢二小林かいちの絵も見ることが出来ました。

余談ですが、雅叙園開業は1931年つまり昭和6年。ということで、大正ロマンの時代に雅叙園は存在してないのです。意外と新しいのね…!


百段階段風景

それでは、百段階段と七つの間を下から眺めていきましょう。斜面に沿った形状なので、最下部から一番上まですっきり見通すことは出来ません。

百段階段下部。天井の扇子柄はかなりビッグ
昭和初期の窓ガラス。ここも『千と千尋の神隠し』のモデルとなった建物と言われる。


十畝じっぽの間

階段の途中にある宴会場は室内装飾を担当した画家の名前で呼ばれます。
まずは一番最初の十畝の間。

十畝の間を入口付近から見たところ

荒木十畝は美麗な花鳥画で知られる、大正期の日本画家のひとり。ここでは展示なしですが、山種美術館が収蔵している『四季花鳥図』は圧巻です。

室内のいたるところに壁画があり、大家の筆の冴えを堪能できます。無数の花鳥を詰め込んだ豪華絢爛な格天井が注目ポイント。華やかな図像がランプの明かりに浮かび上がり、何とも風流な気分。

格天井のひとつひとつの区画にゴージャスな日本画

ここにはモダンガールたちの服装を再現したマネキンが佇んでいます。モガというとワンピースのイメージですが、実際には洒落た模様の着物を着ることも多かったそうで、現代では見かけないようなアールデコ柄着物にびっくり。着物ファッション、奥が深い。


漁樵ぎょしょうの間

「○○の間」の名は絵を提供した画家の雅号にちなむものですが、漁樵の間は例外。この部屋の壁と天井を飾るのは絵ではなく、絵っぽい木工彫刻です。天井の紅梅もこの通り、凹凸が分かるでしょうか?

平安絵巻(立体)と格天井(やはり立体)

ゴテゴテした印象の彫刻は、間違いなく超絶技巧作品ではあるのですが、資本主義の香りが漂っていて他の部屋と比べるとちょっぴり俗っぽい気も。でもアトラクション的楽しさは随一です。

漁樵の間では昭和モダンのころ流行した白粉と香水瓶が展示されています。SF作家・星新一の生家である星製薬が発売していた白粉も出ていたりして、思わぬ巡り合わせに驚き。

どっちが展示で装飾なのか

展示を見ていても、周囲をぎっちり囲む彫刻が気になりすぎていまいち身が入りませんでしたwww 


草丘そうきゅうの間

ここは日本画家・磯部草丘の作品まで飾った部屋。ところで草丘さんってどなた?

Wikipedia記事が見つからなかったので別のデータベースのリンクをば。日本画家は主流から外れてると凄い人でも忘れ去られてることが多いですね(昨今再評価が進みつつあるようですが、まだまだ研究は道半ばみたいだなぁ…)

天井も壁もゴージャス

草丘さんの壁絵は端正な風景画。近景と遠景を欄干に、雄大な風景の広がりを生み出していました。天井画は細かな描き込みが豪華絢爛。

なお、展示は昭和モダンのバーをイメージしたカウンターや、ステンドグラスのパネルやランプ。アジサイ型ランプがおしゃれすぎてちょっと欲しい。

昭和初期のバーカウンターを偲ぶ
アジサイ型ステンドグラスランプ。ほしい


静水せいすいの間

最上階が見え始める場所にある静水の間星光の間はちょっと特殊な配置。他は一階層一室ですが、星光の間は静水の間の奥に隣接しているのです。

ここでは竹久夢二の作品を展示。数は多くありませんが、タイポグラフィ&レタリングの才能を発揮した代表作『セノオ楽譜』シリーズが出ています。レトロロマンな時代の東京で奏で歌われた音楽を、昭和モダンな雰囲気のお部屋で眺めるのは乙な感じ。歌の内容に合わせて絵の雰囲気もフォントデザインも大きく変えており、装丁デザイナーとしての才能を見せつけてきます。すごいや

静水の間。手前にセノオ楽譜

夢二の描く少女は細くて白くて潤んだ眼が大きい。この方、神経の糸が震えるような、多感で繊細な乙女を実に巧みに描くんですよね…。彼の画風の記憶が遠く戦後の少女漫画へ続いていったのかな、どうなのかな。

ちなみに、『静水の間』の名称は日本画家・橋本静水にちなむようですが、実際には壁天井画を描くにあたり、五人の著名な画家が関わっているそうです。私イチ押しの池上秀畝も天井画で参加。そういえば、雅叙園には秀畝の間があると聞いたけど、百段階段にはないな…今はもうなくなったのかな(注:本館にあるそうです)

※春に池上秀畝の展覧会に行ってきました。いいよ!


星光せいこうの間

静水の間の奥は日本画家・板倉星光プロデュースの星光の間。名前こそスターリーですが、飾られているのは春夏秋冬の花・実・果実。しっとり艶やかで美味しそう

イベント期間中は大正期の謎の版画家・小林かいちの絵ハガキセットが飾られています。かいちの再発見に至る流れはリアルタイムに体感したこともあり、ちょっと親近感がある作家です。かいちの記事もいずれ書きたいところ。

小林かいちの絵ハガキは画集で散々眺めていたのですが、実物を見るのは初めて。画集で灰色や金茶色になっていた部分がラメインクでキラキラしていたことを初めて知りました。凄く綺麗。
かいちの抒情作品で特に好きなのが『ベツレヘムの星』なのですが、青い背景に浮かぶ金の星が美しく、思わずため息が。これは復刻版絵ハガキも買わねばなるまい…

かいち絵葉書セット。抒情性メランコリア
『ベツレヘムの星』金ラメがきれい


清方の間

最上階近くには、日本画の大家・鏑木清方の美人画に彩られた素敵ルームもあります。照明が暗くて良い写真が撮れなかったのが残念。
覗いてみたら、たまたま私の好きなイラストレーター・夜汽車さんの江戸川乱歩コラボ展示を開催してました。この方の絵も竹久夢二の遠い子孫かもしれないなぁ…


頂上の間

百段階段と言いつつ実は九十九段のステップを登ると、最後は頂上の間。天井が高く、開放感のあるお部屋です。窓からの景色は緑滴る良い感じ。

緑の美しい窓外風景

この部屋、設えの立派さの割に絵が少なくてシンプルだなぁと思って解説を読んだら、もとは京都の日本画の大家・西村五雲に絵を依頼していたものの、本人他界により完成しなかった逸話があるそうです。あらら。


ということで百段マイナス一段、昭和モダンの旅でした。お帰りの際は足元に気をつけてどうぞ

頑張って降りるぞー

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