本雑綱目 37 書道研究1988-12(特集:「甲骨文」の研究)
これは乱数メーカーを用いて手元にある約5000冊の本から1冊を選んで読んでみる、ついでに小説に使えるかとか考えてみようという雑な企画です。
今回は書道研究1988年12月号、特集:「甲骨文」の研究、です。
NDC分類では雑誌は雑誌一択です。分類したいんだけど一冊の中でテーマが分かれるから難しい。
1.読前印象
書道は小学校でやった程度で、知識として王羲之とか有名な書家の名前や一大ジャンルを築いている、のは知っているのだけれど、書の良し悪しはよくわからない。だからあまり良く知らないジャンルではある。
一方で甲骨文は殷を書きたいのでそれなりに知識はある。甲骨文が現れるのは殷中期以降から周までで、亀の甲羅や牛の骨を焼いたときの占い結果を記すのに用いられた。当時はこれらの甲骨のみではなく木簡等も存在したようだが、いかんせんそれは数千年前の話なわけで現存していない。他に当時の状況を知れるのは青銅器等に残された金文だが、いずれにしても祭器としての側面が強い。
殷墟から大量の甲骨文が発掘され現在でも研究解読されているため、古典籍とあわせて殷中期以降のおおよその歴史がわかりはじめているものの、それでも生活や習俗といった面では未だ不明な部分が多い。
とまあ僕は歴史マターなのだけど、甲骨文字に書という発想がなかったので、どういう切り口かちょっと気になっている。
2.目次と前書きチェック
巻頭にない巻頭随筆は、随分ふわふわとしたエッセイだった。詩人ともまた違う浮遊感がある。書家カルチャーショック。
さて、特集の甲骨文の研究以外にも書法史や書写教科教育入門など、書道研究だなっていう連載が並んでいるけれど、今回読みたいのは甲骨文だ。
特集の構成は『前説』、『甲骨文における書体とは何か』、『甲骨文概説ー発見・占卜・書体』、『甲骨文の時代区分とその書蹟について』、『甲骨文と殷墟』となっている。当然といえば当然なんだけど書道寄り。甲骨文の書体とか、考えたことがなかった。殷周だけでも長いから、変遷はあるだろう。
『前説』、『甲骨文概説ー発見・占卜・書体』、『甲骨文と殷墟』を読むことにします。書体とか書蹟はちょっとハードルが高い……。
3.中身
『前説』について。
初めて八卦を作ったのは伏羲、初めて文字を作ったのは倉頡というこれまで見たことない語り始めに衝撃。確かにそうだけど! それでいて殷では複雑な青銅器や玉器を作っていたらしいと断定していない部分で著者が考古学や歴史にあまり詳しくないことがわかる。本当に書道マター。
そして甲骨文の書体分析が年代特定に大きく寄与しているそうだ。董作賓が5つに分けた時代区分って記載された王や貞人(記した人)の名前じゃなくて、書体でわけたのか?
この前説は甲骨文字についてざっくりと書かれているけれど、視点が全然違うところが興味深い。
『甲骨文概説ー発見・占卜・書体』について。
よく知られた甲骨文字の発見経緯から始まり、発見者のその後の人生が書かれている(劉鶚が公米の闇売買で流罪になってウルムチで死んだとか初めて知ったよ。)。
それから占卜のやり方がわりと詳細に記載されている。例えば通常の篆刻が一画を往復して刻するのと違い一画を一刀で刻していると思われるとか、一期の文字には刻線の中に朱を塗り込んだものが多く見られるといった記載からも、やはり内容よりどうやって書いたかというところに興味の主眼があるのだろう。また、同じ文字についても複数の表記が見られ(日本における変態仮名のようなものか)、貞人名の記載がないものにおいては確かに区別に役立つと思った。
占った王の予知能力とか、甲骨文字の文体が芸術的な観点からの分類とは言い難いとかの表記がとても新鮮な気持ちです。文字の挿絵(?)がたくさんあって、並ぶととてもかわいいと思いました(そういう話ではない。)。
『甲骨文と殷墟』について。
殷墟が殷墟であることの同定や各種構造物の配置などを史記や竹書紀年をベースに検討し、甲骨文や古典に記載される『河』がどの河かや、殷、大邑商、商、小屯の関係といった地勢的な検討を行っていて、興味深い。
殷虚殷代後期都城説についての論考なのだが、他の記述を見れば一般的な書家は殷の位置に興味があるのだろうかといささか不安になってくるほど歴史、というよりは地勢学や考古学マターのお話。
全体的に小説に使えるかと言うと、甲骨文字分析をする人間の話を書くには参考になるかもしれないが、そんな話を書く人はほとんどいないだろうなあと思う。
4.結び
書家からみた甲骨文字という本で、書体の変遷などのこれまであまり考えたことのない視点は僕としては面白かったんだけど、甲骨文字好きな人(今回様々な観点があることを理解)でないと読んでも面白くはない気がする(つまりあまりいない)。
次回は池田弥三郎著『日本の幽霊』です。
ではまた明日! 多分!
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