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てまきねこ 670文字のエッセイ

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相生ライフというミニコミ紙に毎月一回連載しているエッセイです。670文字のなかで、読者が少し知識を得て、私が少し自己主張をして、そして、できたら少し共感しあえたら・・・
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記事一覧

学校とテレワーク  てまきねこ2004

学校とテレワーク  てまきねこ2004

コロナウィルスで学校が臨時休校になった。突然のことで先生たちは困惑していることだろう。企業はテレワークを活用している。学校の授業もテレワークでできるが、先生たちに経験者が少ない。実は、私は授業でウェブ会議を使う実験をしたことがある。生徒のモニターに教科書とプリントを映して解説しチャットで質問を受けつける。生徒の評判は上々だった。

高校を退職してから高齢者大学で教えることになった。教える私もレベル

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貧乏舌のかぶとむし  てまきねこ1909

貧乏舌のかぶとむし  てまきねこ1909

お宝鑑定団や芸能人格付けチェックの魅力は、値段の高い方をあてる面白さにある。値段と価値はイコールではない。お宝鑑定団の場合、工芸品の品質の良さは誰が見てもわかるし価格は品質に比例するが、コレクターアイテムは違う。

世の中には電池を集めるコレクターが存在する。東京オリンピックの頃に十万円していたソニーのテープレコーダーは、今ではヤフオクでも買い手がおらずゴミ同然。しかし、そのテレコに付属していたS

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ネットで古文書講座  てまきねこ1908

ネットで古文書講座  てまきねこ1908

数年前からインターネットを使った学習会を開いてみたいと思っていた。歴史研究会の関連団体が運営していた古文書を読む会が解散したので、歴史研究会直営の古文書学習会を立ち上げることにした。

講師は立命館大学の秦野先生。先生は後花園上皇の研究者で「鎌倉時代か室町時代の文書なら」という条件で引き受けていただいた。奇数月の第三金曜日、京都にある先生の自宅と相生の文化会館会議室をWEB会議システムでつないで学

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スカッとさわやか  てまきねこ1905

スカッとさわやか  てまきねこ1905

「スカッとさわやか」に続いてコカ・コーラと口にしてしまう、そういう人は日本人を年齢で二分したとき年長組に入ります。このCМ、1980年代前半まで使われていたもので、平成生まれの人は知りません。先生と生徒が同じ体験を共有しているかどうかは大切なことで、生徒が知っている言葉を使って説明してあげないと理解してもらえないからです。

「この木なんの木、気になる木」という日立のCМ、1972年の曲ですが私に

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春は出会いの季節  てまきねこ1904

春は出会いの季節  てまきねこ1904

四月になるとクラス替え、担任は誰かと生徒はワクワクドキドキ。教師も最初の授業ではどんな生徒がいるのかとワクワクする。

映像が創り出す教師像は時代とともに変わってきた。1960年代は「キューポラのある街」で加藤武が演じた、中学校の野田先生だろうか。生徒役は吉永小百合。家が貧しいために修学旅行にも行けず高校進学を迷う。先生は彼女を励まし、定時制高校に進学させる。

1980年代には荒れる学校が話題に

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塾と学校の未来  てまきねこ1812

塾と学校の未来  てまきねこ1812

新聞に「塾が大連合」という大きな見出し。IT化の波で中規模塾が立ち行かなくなっているのだろう。大手が三グループに統合されるのは学習塾市場の成熟化を示す。メガバンク・コンビニ・携帯電話がその典型。

思い起こすのは、商店街がスーパーに変わっていった頃。店の個性がなくなり、全国チェーンのスーパーで同じ商品を安く買えるようになった。学習塾が同じデジタル教材を使うようになると、どの塾を選んでも差がなくなる

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青信号は緑色 てまきねこ18.10

青信号は緑色 てまきねこ18.10

青信号は緑色に見える。何故?と思うが、当初は緑信号と呼んでいた。英語ではGreen Light。日本語は青と緑を曖昧に使う。人間が色を発見したのは、最初に白と黒、続いて赤と青で、ここまでは万国共通。その次の色は日本では黄色と茶色。日本語の形容詞で色に関係するのは、白い・黒い・赤い・青い、そして、黄色い・茶色いということから日本人が色を発見した順序がわかると説明する。

色を認識した理由は何だろう?

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40年ぶりの時計台  てまきねこ1801

40年ぶりの時計台  てまきねこ1801

文学部の学生だった頃、教室には行かず図書館で好きな本を読んでいた。それでも「就職が決まったのなら卒業させてあげた方が世の中のためでしょう」と卒業を認めてくれた。良い時代だった。「母校に足を踏み入れることはありません」と誓い、高校では政治経済を主に担当、今年三月で宮仕えから解放される。

国公立の大学や高校に勤める友人も一斉に退職する。これを機会に母校の教授になった級友の退官記念講演を皆で聴こうとい

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ソクラテスの弁明  てまきねこ1708

ソクラテスの弁明  てまきねこ1708

『ソクラテスの弁明』はソクラテスが話した言葉を弟子のプラトンが文字にした。ソクラテスは多くの人と対話したが一冊の著作も残していない。釈迦・孔子・イエスも書こうとはしなかった。話す人は聞く人の反応によって続く言葉を変化させる。話し手を離れて真意は存在しないと彼らは考えたのである。

プラトンは書き手という人間と真意は別々であるから真意は文字で記録できると考えた。学校は文字で書かれた教科書と話しかける

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仰げば尊しは二番が大切 てまきねこ1603

仰げば尊しは二番が大切 てまきねこ1603

一昔前、卒業式の式歌は「仰げば尊し」と決まっていたが、近年は「贈る言葉」や「旅立ちの日に」が増えているようだ。

高校で学年主任をしていたとき、「仰げば尊し」を式歌にしようと思い立ち、歌詞や歌い方を調べてみたことがある。この曲は三コーラスで、一番は卒業生の師への感謝、二番は師の卒業生への説諭、三番は両者が一緒に過ごした学校での生活を振り返り「今こそ分かれ目いざさらば」で終わる。一番は卒業生、二番は

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蜘蛛の糸 仏に地獄  てまきねこ 1602

蜘蛛の糸 仏に地獄  てまきねこ 1602

お釈迦様が地獄におちたカンダタのために蜘蛛の糸を垂らしてやる。カンダタは蜘蛛の糸を登っていくが、あとに続く亡者たちに「お前たち、ついてくるな」と言ったので蜘蛛の糸は切れてしまい、お釈迦様はさびしい顔で立ち去った。

芥川龍之介の「蜘蛛の糸」は、地獄に仏となるはずであった盗賊が品性卑しさのために地獄に逆戻りする話とされています。しかし、お釈迦様の行動はこれでよいのでしょうか。「元の地獄へ落ちてしまっ

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「転」がすべて てまきねこ1601

「転」がすべて てまきねこ1601

てまきねこを書くために「エッセイの書き方」を研究した。エッセイスト曰く「アマは自分が書きたいことを書くが、プロは読者が読みたいことを書く」。テーマの選択・論旨の展開において読者の好奇心を満たすような工夫をするらしい。別のエッセイストは「起承転結の転から考える、転がすべて」。

私もプロとして文章を作ることがある。授業のプリントは、私の書きたいことではなくて生徒に教えなければならないことを書く。時間

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お正月の原風景  てまきねこ1512

お正月の原風景  てまきねこ1512

子供の頃、師走は一年で最もワクワクする月であった。ジングルベルが流れ、パン屋にケーキが並ぶ。福引きが始まり、景品の凧(たこ)をもって山に登る。

大晦日は人で溢れ、紅白が始まる頃に大掃除が始まる。年越しそばの出前が来て、子供たちはうどんを食べ、行く年来る年の鐘の音を聞きながら眠りにつく。翌日から商店街は長いお休み。おもちゃ屋さんだけが店を開いていた。それがお正月の原風景。

1970年代もそんな感

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眠くなる本 詩と哲学 てまきねこ15.10

眠くなる本 詩と哲学 てまきねこ15.10

自分の理解できない本を読もうとすると眠くなる。若い頃、読みかけては睡魔に襲われた本がハイデッガーの『存在と時間』、書いてあることがまったく理解できないのである。

理解できない本には二種類あって、一つは、執筆動機はわかるが内容が理解できない本。航空機を設計するための技術書は、私の学力では理解できないけれども著者の意図はわかる。もう一つは、この本は何のために書かれたのかと不思議に思う本である。『存在

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