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『ゴヤの名画と優しい泥棒』見た直後の雑記

TOHOシネマズ流山おおたかの森にて、ロジャー・ミッシェル監督作品『ゴヤの名画と優しい泥棒』を見てきました。

『ノッティングヒルの恋人』や『恋とニュースのつくり方』など、いわゆるロマコメの名作を作ってきたロジャー・ミッシェル監督の遺作に当たる作品で、実際にあった、1961年にロンドンのナショナル・ギャラリーからゴヤの「ウェリントン公爵」の盗難事件をモチーフにした作品で、製作総指揮の一人に今回の主人公ケンプトンの孫に当たるクリストファー・バントンが携わっている。

非常にサラリと、上品で、時代考証と社会派的視点、イギリスの階級社会をくっきりと出したイギリス映画。「クライム・サスペンス」という言葉があるが、この作品は「社会派クライム・コメディ」と言える名匠ロジャー・ミッシェル監督らしい作品だった。

タクシー運転手のケンプトンは妻ドロシー、息子ジャッキーと小さなアパートで年金暮らしをする一方で、公共放送BBCの無料放送化など社会の不満を常に人々に訴えたり、戯曲にしてテレビ局や新聞社へ持ち込みをするが成果はなかった。そこで、ケンプトンがある大胆な行動にでる、というもの。

主人公のバントン夫妻はケンプトンの稼ぎと妻ドロシーのメイドのパートと二人の年金でぎりぎりの生活という、いわば労働者階級。このドロシーが働く議員の家のシーンで中流階級をチラリと見せるので、バントン一家の下流階級っぷりな生活がくっきりと出ている。その上、ケンプトンは一癖ある初老の男なので、職場でも問題を起こしたりする問題児。このタクシー会社やその次の職場のパン工場のシーンも実に良く下層労働者らしいシーンに仕上がり、丁寧。

このメインになるBBCの無料化云々って日本で言えばNHKの受信料に当たるものだし、設定年の1961年といえば『ウエスト・サイド物語』が公開された年で、この『ウエスト・サイド物語』についてもサラリと触れている。

この他、かかる音楽やニューカッスルの街並み、ロンドンのシーンなど時代考証がしっかりしている辺りは、1956年生まれのロジャー・ミッシェル監督の記憶…かと思いきや、ロジャー・ミッシェルは南アフリカ共和国出身で、外交官の父の関係でベイルートやダマスカス、プラハで育っているので、そこの辺りは他の製作陣や製作総指揮の一人クリストファー・バントンが父親のジャッキーから聞いたかと考えられる。この映画のバントン家周辺の空気感は『ナック』や『さらば青春の光』にも通じるが、それ以前、つまりビートルズ登場以前のイギリスなので、ロネ・シェルフィグ監督作品『17歳の肖像』とぴったり同じ時代で、これと比べても勝るとも劣らない。

また、中流家庭を描いた『17歳の肖像』とは違って下層階級・労働者階級を描いていて、ケンプトンの政治に対する心持ちや妙な“粋”さなどはどことなくケン・ローチ監督作品っぽさも持ち合わせている。さらに単なる社会派で終わらせず、息子ジャッキーも巻き込み、彼の恋愛模様を入れたあたりにロマコメの名匠らしさも忘れない。

肝心の名画泥棒のシーンは非常にあっけらかんと、その後の隠し通すドタバタぶりと裁判のシーンにさき、ちょっとハラハラさもあるクライム・コメディに仕上がる。終盤が若干緩やかも、遺作に飾るに相応しいが、生きていれば名匠の健在を示した秀作である。

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