見出し画像

医療・介護の内容や費用について確認

 在宅医が決まり、介護保険の申請やケアマネージャーの選定が済んだら、在宅で行う具体的な医療・介護の内容についても医師やケアマネージャーと順次話し合いを進めていきます。

 ここで大事になるのは、本人やご家族が「在宅でどういう医療を受けたいか、どういう生活をしたいか」という希望を、医師やケアマネージャーに伝えることです。
 入院している間は、医師が指示をして患者が従うというスタイルだったかもしれませんが、在宅療養ではあくまでも「本人が主役」です。本人の希望をもとに、安心して在宅療養ができるので、遠慮せずに本人の意思を伝えましょう。
 在宅医療・介護の方針をめぐっては、「家に居られればそれでいい、治療はしたくない」という高齢者と、「リハビリをもう少し頑張ってほしい」といった家族との間で、意見が食い違うこともあります。また本人の希望ではなくても、高齢者の体力や生活能力を維持するために、医師やケアマネージャーから提案をすることもあります。
 そうしたときには本人・家族と医療・介護関係者で話し合いを重ね、納得のできる着地点を探っていきます。
 そして方針が定まったところで、利用者は、在宅医療クリニックや介護サービス事業所とそれぞれ契約書を交わします。これにより、在宅療養生活が本格的にスタートします。

 在宅療養を初めて導入するときには、多くの人が「これでいいのか」「やっていけるのか」と不安を感じます。
 ですが、在宅療養を始めたあとでも、うまくいかないところや変更したいと思うことがあれば、いつでも方針を変えることは可能なので、まずは始めてみることをおすすめします。
 実際に在宅で療養を始めてみて、わからないところや不安なところは、在宅医や介護スタッフに何でも相談してください。そうして情報交換を重ねて、「わが家にとって最適な在宅療養スタイル」をつくり上げていきましょう。


どのような医療を受けたいかを主治医と相談して確認

 在宅療養の医療の方針については、在宅医と話し合いをします。
 通院していた人の場合は、元の主治医に紹介状(診療情報提供書)を用意してもらい、面談の際にそれを在宅医に渡してください。
 治療の経過や緊急時の対応などについて、病院の意志と在宅医とで共有しておくことも、在宅医療ではとても重要です。
 また、入院していた高齢者が退院して在宅療養をするときは、病院の退院時カンファレンスに在宅医が同席することも多くあります。
 退院時カンファレンスとは、患者さんと家族、医師、看護師、ケアマネージャー、医療ソーシャルワーカーらが集まって実施する、退院後の療養や介護についての話し合いのことです。
 こういう場があると、在宅医が病院の主治医と直接会ってそれまでの経過や治療について聞くことができるので大変有意義です、退院前に在宅医が決まっているときは、病院の医療ソーシャルワーカーに伝えておきましょう。
 在宅医との面談では、在宅医が高齢者の現在の病状や要介護度、生活自立度などについて診察や質問をしていきます。併せて、在宅で受けたい医療内容についても尋ねてくるので、率直に希望を伝えましょう。
 在宅医は高齢者の状態や希望を総合的に検討し、在宅医療の方針を決めます。そして方針を記した「在宅医療計画書(訪問診療同意書)」を作成し、本人とご家族に提示するのが一般的です。
 計画書の内容を見て同意できると判断したら、本人が同意書にサインしてください。高齢の患者さん本人がサインできないときは、ご家族が代理でサインすることもできます。


在宅医療の費用の目安

 契約にあたって、医療の内容と併せて、支払うべき医療費についてもよく確認しておいてください。在宅医療で、保険診療の基本医療費としてかかるのは、次の4つです。

・定期訪問診療
・訪問看護
・往診
・訪問服薬指導

 このうち、定期訪問診療と訪問看護は月単位で医療費が設定されていますが、往診や訪問服薬指導は回数によって医療費が変わります。ほかに在宅時医学総合管理料、病状に合わせた各種医療の管理料などが加算されることもあります。
 利用者の自己負担額はかかった医療費の1~3割になります。
 例えば、月2回の定期訪問診療と週1回の訪問看護(24時間対応を追加)、月1回の訪問服薬指導を受けている人の場合、1カ月の医療費は1割負担で約1万1,000円になります(東京都練馬区の場合)。
 一般には、病状が重くなるほど在宅医療でかかる医療費も高くなりますが、月々の医療費の自己負担額が高額になったときは、一定の限度額を超えた分が、高額療養費として支給されます。
 自己負担の限度額は加入している健康保険によって変わりますが、後期高齢者医療制度の被保険者になっている人の場合、1カ月の自己負担限度額は、1割の人で1万4,000円、3割の人で5万7,600円(非課税世帯はいずれも8,000円)です。在宅医療の医療費がこの金額を超えたときは、役所の窓口や地域包括支援センターなどで高額療養費の申請をしてください。


介護サービス利用計画(ケアプラン)検討する

 一方、在宅療養の介護については、ケアマネージャーが介護サービス利用計画(ケアプラン)を立てます。
 ケアプランを立てるあたり、ケアマネージャーはまずアセスメント(課題の分析)を行います。具体的には、次のような項目について本人や家族への聞き取り、情報収集を行います。

・生活状況、生活歴
・健康状態(既往歴など)
・認知力(意思決定)
・社会との関わり
・褥瘡の有無、程度
・食事摂取(栄養、水分摂取)
・介護力(介護者の有無、介護者の情報、介護の希望)
・居住環境(住宅改修の必要性等)
・介護認定情報
・日常生活動作(歩行、着脱衣など)
・コミュニケーション能力(意思伝達)
・排尿、排便(失禁の有無等)
・口腔衛生(歯、口腔の状態)
・問題行動の有無、内容

 ケアマネージャーはこうした情報を踏まえ、どのような介護が必要かを考えます。そして該当する要介護区分の利用限度額の範囲で、介護サービス計画を作成し、提示します。
 示された計画に本人・家族が同意すれば、介護サービスの利用開始となります。
 在宅での介護が始まったあとも、ケアマネージャーは月1回以上、利用者の自宅を訪問し、プランがうまく機能しているかという評価を行います。そしてプランに無理があるとき、また病状や家族の状況などが変化したときは、そのつど計画の見直しを行います。


介護保険サービスの費用の目安

 介護保険サービスの費用は、要介護の区分によって利用限度額が決まっています。利用者の自己負担は、利用料の1割、または2割です(所得によって異なる)。
 例えば、要介護3の人が利用限度額いっぱいに介護サービスを利用したときは、月の自己負担額は1割負担の場合で約2万7,000円です。
 ただし、介護サービスの自己負担額が高額になったときは、限度額を超える分が支給される高額介護サービス費という制度があります。これに該当する人は、住んでいる地域の自治体から案内が届くので、必要事項を記入して申請してください。こうした制度を活用すれば、介護にかかる費用を抑えられます。

引用:
『1時間でわかる! 家族のための「在宅医療」読本』
著者:内田貞輔(医療法人社団貞栄会 理事長)
発売日:2017年11月2日
出版社:幻冬舎