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在宅医療を始めるための準備をする

 担当のケアマネージャーが決まったら、在宅療養を始めるための準備をしましょう。
 在宅療養は文字どおり、自宅で行うものです。ですから、要介護になった人が落ちついて過ごせる空間があれば、基本的にはそれでOKです。
 しかし、病気やけがで要介護になると、元気なときには何でもなかった自宅内の環境が、生活上の障害になったり、転倒のリスクになったりすることがよくあります。また入院前は自分の足で歩いていた人が、退院後には車椅子での生活になるという例も珍しくありません。
 在宅療養を始める前に、要介護の高齢者にとって生活しやすい環境か、安全な環境下、介護をしやすい環境かという視点で、自宅内を再点検してみてください。


介護保険で、小規模な住宅改修に補助が出る

 介護保険申請をして要介護認定を受けると、在宅療養のための小規模な住宅改修にも、介護保険サービスが使えるようになります。
 介護保険の適用になる改修は、次のようなものです。

・手すりの取り付け(玄関、廊下、階段、トイレ、浴室など)
・建物内の段差の解消(バリアフリー化)
・床材の変更(滑って転倒するのを防止、移動の円滑化)
・扉の取り換え(玄関、建物内の建具を引き戸にするなど)
・引き戸の新設、撤去
・洋式便器などへの便器の取り換え
・その他、各工事に付帯して必要な工事

 介護保険を使ってこうした改修工事をする場合、工事費用の8~9割が支給されます(1~2割は自己負担)。
 支給額は1人当たり20万円を限度とし、同じ住宅について原則1回、使えることになっています。要介護度が3段階以上悪化したときや転居をしたときは、再度20万円まで利用可能になります。
 ただし、住宅全体の回収や、ホームエレベーターの設置といった大規模な住宅改修は対象になりません。


在宅療養を始める前にチェックしたいポイント

 在宅療養を始めるにあたって、必ずチェックしておきたい住環境のポイントは、移動のための動線です。
 特に歩行が不安定になっている人や車椅子の人の場合は、日常生活において自宅内を安全に移動できるかを、よく考えてみましょう。
 例えば、戸建て住宅では、玄関の土間自体が地面より高くなっている、あるいは玄関から室内に上がるときにも段差がある、というケースが多いでしょう。
 こうした場所は、足が弱くなっている人の場合は転倒防止のため手すりを設置すべきでしょうしh、車椅子の人であればスロープを設けるか、移動時にだけ可動式のスロープを使用することになります。
 また屋内でもリビング・ダイニング、トイレ、浴室、洗面所などは、日常生活を送るうえで必ず使う場所です。寝室に使っている部屋からそうした場所へスムーズかつ安全に移動できるか、チェックしてみてください。
 こうした住環境の整備については、家族だけではわからないことも多いので、ケアマネージャーに一度自宅を見てもらって相談するのが確実です。ケアマネージャーの事業所に福祉住環境コーディネーターという、要介護者の住環境に詳しい専門家がいるときは、一緒に見てもらってアドバイスをもらうのも良い方法です。


「介護用ベッド」を用意する

 住宅療養を始めるにあたり、寝具として介護用ベッドを用意することをおすすめします。
 布団の場合は高さがないため、起き上がるときや寝るとき、足腰に大きな負荷がかかります。寝起きのときにバランスを崩して転倒する恐れもあり、要介護者の身体を支えて介助をする家族の負担も少なくありません。
 その点、介護用ベッドであれば、上体を起こして足を下ろせば、腰掛けた姿勢から立つことができます。立ち上がりの補助になる手すりも付けられるので、ベッドから車椅子、ポータブルトイレなどへの移乗も楽になります。
 要介護度が上がってくると、寝具の上で横になって過ごす時間が長くなりますが、介護用ベッドならば、食事などの際にスイッチ操作で上体を起こし、姿勢を変えることもできます。
 介護用ベッドは希望のものを購入してももちろんかまいませんが、介護保険でレンタルすることもできます。レンタルを希望するときはケアマネージャーに相談してくださSい。
 利用可能なメーカーや機種、月々のレンタル料は事業者によって異なりますが、月の貸出料の1割または2割の自己負担で利用できます。ベッドのサイドレールや褥瘡防止クッションといった寝具まわりの付属品も、併せてレンタルできます。

 介護用ベッド以外にも、介護保険でレンタルできる福祉用具として、車椅子(付属品含む)、歩行器、歩行補助づえ、手すり(工事を伴わないもの)、スロープ(工事を伴わないもの)、移動用リフト(つり具を除く)、離床センサーなどがあります(次の図参照)。


トイレ、浴室の環境にも目配りを

 在宅療養では、トイレ=排泄の問題も大切です。
 自分でトイレに移動して座ることができる人の場合、一日に何度も行き来することになるので、トイレ内に手すりを付けて、立ち座りを補助できるようにしておくと安心です。
 トイレまで移動するのが難しくなってきたとき、あるいは、夜間だけでも移動を少なくしたいというときは、ベッドの近くにポータブルトイレを置き、そこで済ませるという方法もあります。
 またトイレと併せて浴室も、転倒などのリスクの高い場所です。要介護度に合わせて浴室内に手すりを設置するほか、入浴用椅子、浴槽内椅子を用意するなどして、安全に入浴できる環境を整えましょう。
 ポータブルトイレをはじめとした排泄・入浴に関わる福祉用具(特定福祉用具の指定5品目)は介護保険サービスで入手できます。ただし、レンタルにはなじまないため購入費が支給されます。支給額の限度は年度(4月~翌年3月)ごとに10万円で、一つの品目につき原則1回です。

 このほか入浴については、高齢者一人での入浴や家族による解除が不安になってきたときは、介護保険の訪問看護・介護で看護師やホームヘルパーに介助を依頼することもできます。またデイサービスなどでの施設入浴や、移動入浴車による訪問入浴を利用することもできます。
 排泄・入浴の環境整備やケアをどのようにするかは、やはりケアマネージャーに相談して決めていきましょう。


室内は整理して「安全な環境」に

 そのほかの準備としては、室内、特に移動の経路となる場所を整理しておくことが大事です。
 高齢者の一人暮らしや高齢夫婦の世帯では、体力が低下して部屋の片付けまで手が回らなくなりがちで、部屋の出入り口付近や廊下などにいろいろな物が置かれていることがよくあります。
 そういう状況だと、物をよけて通ろうとしてバランスを崩し、転倒につながることがあります。特にベッドからリビング、トイレ、浴室への導線には余計なものを置かず、すっきりした状態にしておくべきです。
 また、移動中によろけたとき、家具につかまろうとして家具ごと転倒する例もあるので、移動の途中にある家具類は固定しておくと安心です。厚手の敷物や滑りやすいマット、廊下を横切るコード類も危険なので、片付けておきましょう。
 こういったところを点検し、安全な環境で在宅療養を始めてください。

引用:
『1時間でわかる! 家族のための「在宅医療」読本』
著者:内田貞輔(医療法人社団貞栄会 理事長)
発売日:2017年11月2日
出版社:幻冬舎