マガジンのカバー画像

駆け抜ける狂騒と一条の郷愁

30
運営しているクリエイター

2023年10月の記事一覧

駆け抜ける狂騒と一条の郷愁 第26話

「そこから先は、私が説明します」
 と魔王。
「Bさんは決して騙していたわけではありません。物語を管理するための、登場人物型エージェントです」
「より分からないのですが」
「物語を内側から管理するために、便宜的に登場人物としての外形を持ち合わせた、いわば物語の一部とも、そのものとも言えます」
 魔王の説明を聞くほど藪に踏み込むようで、Aは見失う一方だった。
「そうですか…その辺りはやはり分かりませ

もっとみる

駆け抜ける狂騒と一条の郷愁 第25話

驚くほど穏やかな草原。確かに屋敷の背後にあった山は抉れ、色々散らかってはいる。しかし意外にも自然のほとんどが形を残し、あの騒動を飲み込んでしまったかのようだった。   

ただ一つ違和感があるとすれば、亀裂だった。

「あれは」
とA。
「ええ、亀裂ですね。巨人の拳が衝突した時に入りました」
「どうなっているんですか、あれは」
「さあ」
 と魔王は、そもそも説明責任は自分にないと言わんばかりに放り

もっとみる

駆け抜ける狂騒と一条の郷愁 第24話

【前回の話】
第23話 https://note.com/teepei/n/nac66892f6e15

***

 いつか、こんな物語を書きたい。

 作者が、我が主がそう言って、私は生まれた。
 私は物語で、まだ始まっていない。
 しかし私は、我が主の思いを受けて生まれたのだった。

 我が主は物語が好きで、あらゆる物語を読んでは心をときめかせ、その思いを私に注いだ。
 私はその愛情を十分に浴

もっとみる

駆け抜ける狂騒と一条の郷愁 第23話

【前回の話】
第22話 https://note.com/teepei/n/n3dc918df07d7

 巨人同士の拮抗が崩れた。

 掴み合いを弾いたBが、相手に右拳の一撃を入れたのだ。
 後ろへ吹き飛んだ屋敷の巨人が、その身を起こそうとゆっくり動き始める。倒れていた場所には山があったはずで、それはA達が越えてきたものだった。起こされた上半身へ目掛け、巨人Bが拳を振り下ろす。挙動のすべてに強大

もっとみる