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煙草の匂いと君とだらしない日常

あれだけだめだって言った煙草の箱の山は日に日に積もっていく。

軽い気持ちで始まったこの関係だったけれど、

いつの間にかなくてはならないものになってしまった。

君が煙草に縋りつくように、

私は君にやるせなく身を任せ、命を削る。

君の吐いた煙草の煙は狭い狭い六畳間のアパートをゆったりと循環して、

やがて私の鼻を通り、肺を満たす。

最初は本当に嫌いだった煙草の匂いもいつの間にか、

すんなりと受け入れられるものになっていって、

最近はひどくて、この匂いが無性に私を安心させる。

ついにニコチンというものにやられてしまったのか。

はたまた煙草の中毒性に負かされたのか。

否、私は君の吸う煙草だけを受け付けているみたいだ。

一度血迷った私はコンビニに駆け込んで、

銘柄なんてわからないから君がいつも吸ってるアレを必死に思い出して、

指さしで精いっぱい伝えた。

さすがに煙草を買うには若々しすぎるこの動作は高校生アルバイトにとって、

かなり不審に見えたようで久しぶりに年齢確認というものをされた。

久しく見ていなかった免許証の中の私はなんだかすごく若く見えて、

だけど少し寂しそうだった。

ファストフードのショーケースに映る私は少しやつれていたけれど、

なんか幸せそうだった。

素っ気なく支払いを済ませ、

そそくさと店を後にし、煙草に手をかけたが

ライターがなかったら何も始まらないじゃないか。

恥ずかしながら急いで店内に戻って、

ライターを握りしめ、小走りで店から飛び出す。

夜ももう深く、コンビニの煌々と輝くうっとおしい光から少し離れると、

正真正銘の暗闇が広がっていた。

煙草に火を付ける。

途端、私の周りが目まぐるしく明るくなって、

でもコンビニのソレとはまるで違って、

私だけを優しく照らす灯のようなものだった。

けれど実際吸ってみると、

苦く、のどにへばりつくようなものが口の中に充満し、

耐えきれなくなって咳き込んでしまった。

なんだか君を受け入れられなかったような気がして、

少し一人寂しい気持ちになったけれど、

もう二度と吸おうと思うことはなかった。

その次の日の夜、

君の家に行くとやっぱり嫌な煙草の匂いがするんだけれど、

でもなんか違う。

君の香水、柔軟剤、シャンプーの匂い、と煙草。

色んな匂いが六畳間を満たす。

この不安定な匂いがたまらなく好きなんだ。

いつ煙草のように捨てられるわからないこの関係も、

君の性格故、一層切なく、愛おしく思えるのだ。

煙草じゃあなくて、

君にとってライターのような存在になれていたらいいな。


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