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【書評】 あらゆる仕事はLong Term Greedyで

ゴールドマン・サックスM&A戦記 伝説のアドバイザーが見た企業再編の舞台裏

読後感

  • 投資銀行の仕事はこんなにも地味で、それでいて派手なものだとは知らなかった。M&Aの場合であれば買い手側と売り手側、それぞれの国の会社法や税制に照らし、顧客にとって最適なスキームを考案。そしてスキームが決まれば、あとはひたすらデスクワークをしているのだろう。

  • ただ、やはり投資銀行、中でもM&A部門は花形だ。何千億円というお金が動く。案件にもよるだろうが、メディアでも大々的に取り上げられる。ただ筆者も指摘している通り、何十年も続けるような仕事ではない。かっこよくも儚い。

Key Takeaways

Long Term Greedy

  • 本書で特に印象的なのはLong Term Greedyという言葉だ。筆者の言葉を引用しよう。

ゴールドマン・サックスには、「Long Term Greedy」(長期的にがめつくなれ)という言葉がある。
M&Aの仕事は成功報酬なので、案件が成就しないと報酬の大半をもらえない。したがって…時として顧客の利益を顧みず、とにかく案件を成就させる方向に話を持っていきがち…だ。
しかし、それは目の前の成功報酬に目が眩んで、長期的には顧客の信頼を失って、次の仕事が来なくなる態度だ。ゴールドマンでは「顧客のためにベストのアドバイスをせよ。そのほうが結果的に顧客の信頼を得て、長期的には会社も儲かる」という考え方があった。

P .263-264
  • 私は社会人3年目の若造だが、この一節には痛く共感した。2年半強のビジネス経験によって、仕事は決して「一回きりゲーム」ではないと学んだ。行動経済学における囚人のジレンマでは、プレーヤーが一度きりのゲームを実行するならば、確実に自分だけが利益を独占し相手を出し抜こうとする。しかし「繰り返しゲーム」の場合は違う。自分が相手を出し抜くと、次回は相手が自分を出し抜こうとしてくる。両者がそのような態度をとっていては、ビジネスは成立しない。人と人で成り立つのがビジネスだ。常に繰り返しゲームを実行しているという意識を持ち、カウンターパートとの信頼関係の構築を第一に考えるべきだ。

大同小異でロシュグループに

  • もしかすると本書の主眼とはズレるのかもしれないが、図らずも会社経営のあり方を学んだ気がする。筆者がアドバイザーを務めた、スイスの製薬会社ロッシュによる中外製薬の買収案件からのテイクアウェイだ。

  • M&Aとしては珍しく、売り手側が50.1%の株式を買い取る会社を探したという本案件。当時の中外製薬は連結売上高約2000億円、同営業利益が利益が300億円というから財務成績は申し分ない。それでも買収候補を探したのは永山治社長の英断にあったようだ。

国内トップ・テンの一角にある中外を武田薬品工業と国内首位を争うような会社に脱皮させたいという野心を隠さない、アグレッシブな経営者だった。
目標達成には中外単独では不可能だから[ロシュと]資本提携して、その潤沢な研究開発日から生まれる豊富な新薬群を中外の強いMR…体制を使って国内市場で売りまくり、加えて中外の研究開発から生まれる新薬も世界市場で売れば、互いにウイン・ウインの関係を構築できる

P.219
  • ここまで自社が持つアセットの強みを客観的に分析し、経営権を握られてでも長期目線で会社の成長にコミットできる経営者はなかなかいないだろう。ここでもやはり、永山社長はLong Term Greedyだったのかもしれない。

See you next time…


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