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全社員が完全リモートワーク、その時サイボウズはどう乗り越えた?

コロナ禍、働く現場に大きな混乱が生じなかったサイボウズ。リモートワークの裏でマネージャーはどんな動きをしたのでしょうか。

こんにちは。サイボウズチームワーク総研アナリストの三宅です。サイボウズは情報共有ツールであるグループウェアの開発・販売をしている会社ですが、ここ数年は、社員一人ひとりが働く時間や場所を選べる「働き方宣言制度」など、ワークスタイルでの注目を頂いています。そしてチームワーク総研では、サイボウズがこれまでに経験したワークスタイル変革でのノウハウを元に、組織やチームづくりのコンサルティングや研修を行っています。

前回、寺輪さんの note では、「メンバーの進捗状況を把握しづらい」など、コロナ禍リモートワークでの、マネージャーのリアルなお悩みが綴られました。サイボウズではどうだったのでしょうか。

サイボウズは約10年前からリモートワークを積極的に取り入れてきました。平時から、業務をオンライン上のグループウェアベースで行っているため、職種を問わずリモートワーク環境への慣れはありました。

しかし、今回のように1000人近い従業員が完全にリモートワーク下になるというのは初めての経験でした。ITツールの使い方といったオンラインスキルとは別の要素ーー自宅の通信環境や子どもの在宅、逆に終日誰にも会わない等の状況に影響を受け、苦労した社員が多いのは事実です。

今振り返ると、マネジメントにおいて大きな混乱は無かったように見受けられます。様々な状況におかれた社員に対し行われたマネジメントは、どのようなものだったのでしょうか。いくつかの事象を書いてみます。

トップからのメッセージで、社内に変化

4月上旬、社長である青野が、社内グループウェアにこんな投稿をしました。

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完全リモートワークの中、コロナ・仕事・生活への不安が漂っていた社内は、「今は無理せず、やれる範囲でしていこう」と、いう雰囲気になりました。非常時だからこそ「何とかがんばってこれまで通りに」ではなく「現実を直視しつつも、柔軟に対応」して良いのだという点に、社員からは、救われたといった声が上がりました。

早い段階でこうしたメッセージが送られたことで、多くの社員が励まされています。

では、社長のメッセージのもと、マネージャーはどう行動したのでしょうか。

“社員同士がつながる場”の活用

コロナ禍の完全リモートワーク以前から、サイボウズの多くの部署では、実務会議の他に“社員同士がつながる場”を設けてきました。ここで言う“つながる場”とは、話のテーマを問わず、仕事の話であっても個人的な話であっても、社員同士が自由にコミュニケーションを取るための接点を指します。

① オンラインでの分報
「日報」は一日の最後に書くことが多いと思いますが、「分報」は勤務中いつでも発信するものです。社内ツイッターのようなもので、各自が自由に書き込みます。マネージャーだけが見えるものではありません。社員誰でも閲覧とコメントができるため、ヨコのつながりを持つことができます。

これは私のある日の分報です。マスクだらけで失礼します💦

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一日の初めに「これから仕事を始めます。今日は〇〇を進めます。」といった具合に、チームに自分の状況を共有します。終了時にも「今日は××をした。」などと書きこみます。「報告」的な使い方です。

「報告」以外には、「気軽な会話の場」としても活用します。
以下はイメージ画像です。安達さんの分報に大脇さんが投稿し、オンライン上で会話をしています。

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このように「分報」はメンバーの状況や考えを共有したり、お互いが発言をしコミュニケーションをする場として機能しています。

② 「ざつだん」という1on1
マネージャーとメンバー1対1のミーティングです。話のオーナーはメンバー側で、個人的なこと、チームの気になること、仕事の悩みなど自由に雑談をして良い場です。特に話がなければ、メンバー側からスキップしても問題ありません。

「分報」と「ざつだん」は、コロナ禍以前からも行われていました。しかし、全員が完全リモートワークという環境になってからは、オフィスにいた時のような席での自然な会話や、耳から入る情報などが無くなり、従来の“社員同士がつながる場”では、賄いきれない部分が出てきました。

そこで3つ目の場として「バーチャルラウンジ」が自然発生的に作られました。

③ 完全リモートワークで発生した新たな場「バーチャルラウンジ」
オンライン上の常設スペースで、オフィスの席環境に近いイメージです。仕事の相談や世間話をしてもいいし、雰囲気を感じながら黙々と作業をしてもいい。完全リモートワークであってもゆるくつながろうという場で、行くのも行かないのも自由です。

ここまで、“社員同士がつながる場”を3つ紹介しました。マネージャー陣は平時から利用していた場を活用しながら、不足と思えば新たな場を取り入れ、完全リモートワークに適応した形を自主的に模索していきました。

メンバーの「分報」を見て今までより多めにコンタクトを取る、「バーチャルラウンジ」にちょこちょこ顔を出す等々。自分から部門メンバーの情報を取りに行き、一人ひとりのコンディションや、変化を見守っていたようです。そして、必要に応じて声かけや対策を行いました。

またマネージャー自身、あえて自分からの情報発信を増やし「マネージャーの見える化」を意識していました。いつ何をしてどんなことを考えているか…自分からの発信を増やすことで、メンバーが話しかけやすい環境をつくりました。

“社員同士がつながる場”を活用し、メンバーの状況をつかみフォローしていたのです。

コロナ禍でのオンボーディング(新入社員の受け入れ・サポート)

緊急事態宣言下の4月は、新入社員が多い時期でもありました。サイボウズにも多くの新卒・中途社員が入社しました。マネージャーも新入社員も、お互いほぼ知らない同士で完全リモートワークが始まりました。

新卒新入社員向けの研修はすべてオンラインで行われ、その録画を中途入社のメンバーに共有する、ということもありました。

とにかく接点を持ち、孤立させないことを各マネージャーは心掛けました。「朝会」「夕会」などと称して、毎日決まった時間にテレビ会議で顔を合わせる。話を聞く、他のメンバーを交えて情報共有する、会社やメンバーの紹介をする、といった内容です。

中には「コミュニケーションが得意ではない」という中途新入社員もいました。そうした人にもつながる機会を極力設け、話しかけやすい環境づくりを意識したようです。

完全リモートワークのオンボーディングであっても、多くの新入社員は徐々に職場になじみ、活躍の場を拡げています。

そもそもサイボウズのマネージャーは「役割」

サイボウズのマネージャーは、社内では「地位」ではなく「役割」だと認識されています。承認権限はありますが、トップダウン型のマネジメントはしません。

前提として、部門で働くメンバーは、会社や部門の理想を共有した人たちだということがあります。ですので、マネージャーは各メンバーが、“共有した理想に向かってやりたいと考えていること”を支援するスタンスが大きいです。

メンバーの得意不得意を熟知しており、全体を俯瞰で見る中で「そのテーマ、〇さんがアイディアあるかも」「△さんが前に資料集めていました」などの情報共有を頻繁に行っています。

マネージャー自身が進めたい案件がある時には、メンバーがするのと同じように周囲に意見を聞きながら、都度議論をして進めます。

いわゆる「中間管理職」とは少し異なるかもしれません。部門の方針を示しつつ、現場に権限を委譲しながらメンバーの働きを支えています。

まとめると、コロナ禍でサイボウズが行った、完全リモートワークでのマネジメントは、平時に比べ、

・マネージャーからの情報発信・コミュニケーション量を増やす
・メンバーが発言しやすいよう“社員同士がつながる場”を増やす
・メンバーの状態を注意深く観察する

というものでした。マネージャーはここから得た問いかけや気づきを起点に、各メンバーと部門チームの状態をサポートしていったのです。

取り立てて新たなことを始めたのではなく「平時にしていたことを強化しただけ」とも言えるかもしれません。しかし、普段していたことがベースであったことが、大きな混乱を招かなかった大きな要因だと感じます。

サイボウズのマネージャーは平時から、職場でのチームワークを推進してきました。そして今回のコロナ禍の完全リモートワークでも、チームが機能するよう再構築とメンテナンスを行なっていたのです。

組織でチームワークを取り入れるには、どうするべきなのでしょうか。次回以降で考察します。



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