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「メンバーシップ2.0型組織」で行こう!(前編)withコロナ時代の組織の新常態

こんにちは。スコラ・コンサルトの塩見康史です。
私は組織開発コンサルティングと並行して、クラシック音楽の作曲家としても活動しています。今回は、withコロナの時代の新しい組織モデルである「メンバーシップ2.0型組織」をご紹介します。

日本企業で「ジョブ型雇用」に対する注目が高まっています。
ジョブ型雇用については、これまでも各所で議論されてきましたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により、リモートワークが急速に普及したことをきっかけとして、実際にジョブ型雇用に舵を切る日本企業が増えてきました。雇用スタイルの変化は、単に採用・人材確保の問題にとどまらず、日本企業の「組織のあり方」を根底から変えていく可能性があります。
日本企業はこれからどこへ向かうのでしょうか。

■これまでの日本企業の組織の特徴
 〔メンバーシップ型組織〕

日本企業における雇用は、メンバーシップ型であると言われます。
つまり、先に人を仲間(メンバー)として雇い、それらの人々に必要に応じて様々な仕事を柔軟に振り分けていくというスタイルです。
逆に、欧米のスタンダードであるジョブ型雇用では、先に職務体系が設計され、そこにふさわしいスキルを持った人を当てはめ、雇い入れていくスタイルを取ります。

◇メンバーシップ型雇用
  先に人を仲間(メンバー)として雇い、その人に対して様々な仕事を
  柔軟に割り当てる雇用スタイル
◇ジョブ型雇用
  職務体系の設計が先にあり、各職務にふさわしいスキルを持った人を
  労働市場から採用する雇用スタイル

雇用スタイルの選択は、「組織のあり方」に大きな影響を及ぼします。
以下、メンバーシップ型雇用、ジョブ型雇用にもとづく組織のあり方を、それぞれ「メンバーシップ型組織」「ジョブ型組織」と呼ぶことにします。

メンバーシップ型組織では、人の絆やつながりが強く、組織にコミュニティ(共同体)としての性格が色濃くあらわれます。また、メンバーは様々な仕事を任せられるので、ジェネラリスト指向が強くなります。メンバーは組織の一員として大切にされますが、コミュニティの暗黙の規範に同化することを強く求められます。特に日本企業はメンバーの同質性が高く、強い同調圧力の中で会社に対する(必ずしも“仕事に対して”ではない)忠誠心が求められることが特徴です。

ジョブ型組織は、欧米の「契約社会」という社会の性質にフィットした組織モデルです。個人主義的な価値観を背景に、自立したプロ意識の高い個人が、自己責任でスキルを磨き、専門領域において成果を出すことにコミットします。自分のスキルや専門性に対するエンゲージメントが高い一方で、会社に対するエンゲージメントは必ずしも高くありません。コミュニティとしての性質は弱く、機能集団的です。また、労働市場の流動性の高さを背景に、自分のスキルを高く買ってくれる会社があれば、どんどん移っていくことも自然です。

■日本的メンバーシップ型組織の限界が見えてきた

なぜいま、ジョブ型組織が注目されているのでしょうか。
それは、リモートワークの普及など、日本人の働き方の大きな変化に直面して、これまでの日本的メンバーシップ型組織の限界が白日の下にさらされたからです。
日本の多くの組織は、きわめて同質性が高いコミュニティを企業組織の中に作りあげてきました。同質性が高い組織の中では、曖昧な企業文化が根をはっています。物事をはっきり表現せず、雰囲気や空気を読むことを大切にするハイコンテクスト文化、みんなの総意によって物事を進めていこうとする合意主義文化、序列を重視する階層主義文化などです。

しかし、リモートワークの環境下では、これまでの企業文化はむしろデメリットの方が大きくなっています。Webを通した会話では、空気が読みにくく、曖昧な表現は伝わりません。これまで大切にしてきた組織内の序列意識や階層主義は、Webのフラットな世界観とは相容れません。これまで、組織内のコミュニティ感覚や仲間意識を下支えしてきた、職場でのちょっとした雑談や相談の機会が激減しています。上司は部下の顔が見えないことで、部下がきちんと仕事をしているのかが不安になります。

実は、これらのメンバーシップ型組織が内包する様々な問題は、以前から潜在的に存在していたのですが、COVID-19に端を発するリモートワークへの急速な移行の中で、一気に明るみに出ました。このような状況の中で、これまでのメンバーシップ型組織に代わる組織のあり方として、ジョブ型組織への期待が高まっているのです。

■ジョブ型組織が日本でうまく機能しない3つの理由

それでは、ジョブ型組織は、これからの日本企業のスタンダードになっていくのでしょうか。
私は、そうはならないと考えています。なぜなら、ジョブ型組織は、過去の欧米社会にフィットしてきたモデルであり、これからの日本社会において、うまく機能しないと思われる、いくつかの理由があるからです。
次に主な理由を3つ紹介します。

〔ジョブ型組織が日本で機能しない3つの理由〕
 ① ジョブ型組織は新しい価値の創造(イノベーション)に向いていない
 ② 働く人が「大きな物語」や「仲間」を求める、21世紀的な働き方に
  フィットしない
 ③ 日本人の感性の豊かさ、つながりを大切にする日本文化にフィット
  しない

まず①について、現代のビジネスには、新価値の創造、すなわちイノベーションが欠かせません。そして、日本ではイノベーションは現場チーム発で生まれることが多いのです。イノベーションを生み出すようなチームには、世界を変えるのだという高い志と広い視野、前提を疑い問い直す思考、曖昧さや複雑性の尊重、領域を超えた知の相互作用などが必要であり、これらのダイナミックで柔軟なチーム活動は、個人主義と専門分化が前提のジョブ型組織では起こりにくいのです。

次に②ですが、最近のSDGsやCSV(Creating Shared Valueの略。企業が社会貢献を本業として取り組んでいくことが重要という考え方)への関心の高まりに見られるように、いま社会や働く人の意識が大きく変化しています。単に自社の業績をあげるだけではなく、事業を通していかに社会へ貢献するか、世界をより良く変える(Change the World)ことができるかを真剣に考える人が増えています。
このような流れの中で、企業はこれからますます、コミュニティを大切にし、メンバーみんなで理想や夢を語り合い、共有し、その実現のためにチームワークを高めて経営していくことになるでしょう。欧米でもGoogleなどの先進的な企業は、典型的なジョブ型組織のイメージを超えて、夢や理想を語り合えるコミュニティを重視する企業文化を作りあげています。

③について、まず日本人は日本文化に由来する独特の感性を持っています。日本人は他者に対する共感力が高く、社会の中での“つながり”を大切にします。そういう日本人が仕事の中では急に個人主義的に振る舞えるかというと難しいでしょう。無理に日本人の強みを捨てようとするよりも、むしろ日本人の特性を活かした組織をつくり進化させる方が、ビジネスの上でも、はるかにメリットが大きいのです。

このように、ジョブ型組織は、これからの日本企業にとって、ひとつの選択肢ではあるものの、そもそも欧米と社会の成り立ちや文化が違う日本での導入と定着には、かなりの困難が伴います。
また、欧米では先進企業は、コミュニティやチームワーク、仲間意識などのメンバーシップ的な価値観を重視する方向に進化していますので、日本企業がいまさら過去の典型的なジョブ型組織の“いろは”を習い始めようとするのは、いかにも時代錯誤という感が否めません。
私達にとっては日本人の特性を活かして、“メンバーシップ”のあり方を旧態依然としたものから、新しい時代にふさわしいものへと進化させていくという道の方がはるかにメリットが大きいのです。

今回は、これまでの日本のメンバーシップ型組織の限界、そしてジョブ型組織がこれからの日本でうまく機能しない理由を見てきました。
次回は、新しい進化した「メンバーシップ2.0型組織」とはどのようなものかについて解説します。

(後編はこちら)

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