「メタバース」の起源、スノウ・クラッシュを読んだ感想

 こんにちは、ほぼ半年ぶりの記事です。今回はSF小説 「スノウ・クラッシュ」について読んだ感想と自身の所見を書いていこうと思う。主は別に文学に精通している学者でも、研究者というわけでもなく(ガチガチの理系です)ただSFが好きなだけなので、専門的な解釈が違う場合があります。ぜひこの本を手に取って自身の解釈をしてみてください。

背景

 近未来のアメリカ、大統領の力はとっくに失墜していた。人々はやりたいことは何でもする、銃を所持し、体を改造し、マフィアやギャングといった組織が技術と資本を独占し独自の「フランチャイズ国家」を形成し秩序を保つ、そんなアメリカは正真正銘の「自由の国」となっていた。その結果、アメリカの経済力は世界でも最低クラスとなった。あらゆる技術が海外に流出し、世界の技術が均衡した。アメリカが世界に誇れるものは音楽、映画、ソフトウェア、高速ピザ配達となっていた…
というようにサイバーパンクでディストピアな世界。そんな中、主人公であるハッカーであるヒロ・プロタゴニストはマフィアに借金を返すために高速ピザ配達をやっていた。ひょんなことで出会った15の少女、Y・Tに出会う。彼らは身分を互いに明かし、別れていった…

メタバース

 メタバースでも現実世界のように、マフィアやギャングによって独自の国家が形成されていた。メタバースに入るためには専用のゴーグルをかぶり(ゴーグル・インと呼ばれる)、光ファイバーケーブルに自身のPCを接続しアバターとなる。ヒロはメタバースの住人でもあった。メタバース内で力を持つものはマフィアやギャング以外にもいる。ハッカーだ。メタバースに早期参入し、システムやセキュリティ、「世界」を構築し、それらを維持してきたアーリーアダプターだ。ヒロは友人のDa5idが経営する会員制のバー「ブラック・サン」に入っていく途中でモノクロ・アバターに呼び止められた。

       「スノウ・クラッシュを試してみないか?」

プログラム

 私たちの住む世界の秩序は何でントロールされているのだろうか。それは法であると考えられる。しかしこのメタバース世界では違う。プログラムによってコントロールされているのだ。アーリーアダプターや腕利きのハッカーによってプログラムされた世界はこれらのプログラムによって動かされ、プラグラムに反することはできないようになっている。このようなプラグラムによってセキュリティが維持され、欠陥のあるプログラムは直ちにハックされてしまう。これは実際に現在の私たちにも多少は当てはまるのかもしれない。例えばカーナビというのは最短経路探索のプログラムを頼りにしている。マッチングアプリもプログラムでマッチングが成立している。私たちの中にカーナビやアプリに対して懐疑的な思いを持つ人は少ないと思う。プログラムを商売とし、プログラムを信仰することで秩序が保たれている。しかしそのプログラムを創作する人間はほんの一握りであり、それらの人々が規制を定めていく。つまり法のプログラムによって支えられているのかもしれない。

言語観

私たちの使用する言語も一種のプログラムであるといえると書いてある。その中でも作者のチョムスキー的言語観が色濃く反映されていた。言語の習得には一般的に相対主義と普遍主義があるとした。相対主義というのは言語の習得は共通する部分を持たないという主義である。

相対主義者は言語は思考を伝達するものではなく、意思を決定する媒体だと信じています。それは認識の枠組みであり、あらゆることに対する私たちの知覚はこれ(枠組み)を通過する感覚の流れによって組織されているというわけです。したがって言語の進化を研究することは人間の精神自体の進化を研究することになります。

スノウ・クラッシュ(下)

 それに対して普遍主義というのは、人間には言語の基礎のが存在し(バイナリ言語のようなもの)、それらが進化(?)し、多様な言語を生み出した。チョムスキーは普遍文法を唱え、人間が話す言語は文法などの構造を元にして成り立っていて、その言語の基本ルールは脳に由来すると考えた。コンピュータの記述言語も普遍主義のようにある文法の上に成り立っていることから、これを意識しているのだろう(多分)。

スノウ・クラッシュ

 ブラック・サンに入る前に呼び止められたモノクロ・アバターから受け取ったハイーパーカードをDa5idの前で引き裂く。その瞬間ホワイトノイズが走り、Da5idのコンピュータは"ウイルス"に感染した。またゴーグルを通してそのノイズを直視してしまったDa5idはメタバースから排除され、現実世界のDa5idも錯乱状態に陥てしまった。これこそ光ファイバーの独占企業のオーナー、L・ボブ・ライフの望むことであった。どうしてDa5idが錯乱してしまったのだろう。ヒロはこの原因を探すために、古代シュメールの謎を探ることになる。

バベルの塔

 旧約聖書の創世記第11章に登場するこの塔は人類の言語や文明が分裂する原因となった。人々はバビロンに天までとどく巨塔を建築しようとした。しかしそれが神の怒りを買い、それまで一つであった人間の言語をばらばらにすることで分断した。この話がもととなっている。

ノアの洪水の後、人間はみな、同じ言葉を話していた。

人間は石の代わりにレンガをつくり、漆喰の代わりにアスファルトを手に入れた。こうした技術の進歩は人間を傲慢にしていった。天まで届く塔のある町を建てて、有名になろうとしたのである。
神は、人間の高慢な企てを知り、心配し、怒った。そして人間の言葉を混乱(バラル)させた。
今日、世界中に多様な言葉が存在するのは、バベル(混乱)の塔を建てようとした人間の傲慢を、神が裁いた結果なのである。

創世記 11章

神とプログラム

 さて、ではここからは先はネタバレパートなので嫌な方はこの辺でぜひ一度読んでみてください。

エンキ

 ヒロはDa5idが錯乱した理由調べた。古代社会の人間は神、エンキが生み出した「メ」(シュメール語=「メ」?)によってコントロールされていた。これはコンピュータがバイナリ言語によって動かされているということの対比である。「メ」はコンピュータにおけるOS(Operating System)であり、回路の集まりであるコンピュータに対してどのような動作をするかなどのルールを決めている。つまり「メ」は人間社会でのOSとなっていて、何もできない人間の集まりがシステムとして機能するために必要だった。その中には畑の耕し方、土器の作り方、パンの作り方、戦争、交渉のようなプログラムがあった。これらの「メ」はシュメール語で粘土板に書かれて保存されていた。エンキはこのただプログラムの通りにしか動かない人々に失望し、ウイルス「ナム・シュブ」を蔓延させた。これによって人々は「メ」を理解できなくなり、互いに言語がわから南無なり、文化が多様化し、自意識が芽生えた。

アシェラ―

 光ファイバーの独占企業のオーナー、L・ボブ・ライフはこの「メ」を使って、部下を操作し、王となろうとしていた。そのためにはハッカーの存在が厄介であった。そこでライフはシュメールの粘土板を研究し、人間が「メ」を理解できるようにする、つまり「ナム・シュブ」をアンインストールするウイルスを蔓延させようとした。このウイルス(アシェラ―)は2つの機能を持つ。
 1つは直接人間のDNAに作用するものであり、ウイルス的思考を受けやすくなる(感染しやすくなる)。人というのは、ふいに聞いた音楽を長い間口ずさんだり、ネットのジョーク、カルト信仰など強く影響される。そうならないようにしたのがエンキであり言語の分散はそのうちの一つである。このウイルス(アシェラ―)ほ人々の持つウイルス的思考力を弱め、感染者は祖語を表面化させスピーク・イン・タンとなり錯乱してしまう。
 もう1つは白いノイズ「スノウ・クラッシュ」を発することでバイナリウイルスとして機能し、コンピュータ自身が新しいウイルスに感染しやすい状態になっていしまう。この白いノイズはバイナリ言語であり、理解できるハッカーの脳を壊してしまう。
つまりライフは2種類の人間をコントロールできる。

  • DNAに作用したアシェラ―によって祖語で書かれた「メ」を理解できるようになってしまった人々

  • バイナリウイルスによって脳が破壊されたハッカー

である。これを止めるためにヒロ、Y・Tはライフの所有する艦隊、エンタープライズに潜入する。

考察

 このSF小説はメタバースの起源として知られていて、実際いま私たちが生きているこの時代にメタバースは存在し、アバターでログインし、大量の情報がやり取りされている。またコンピュータをクラッシュさせてしまうウイルスが存在するのも事実である。しかし、私たちの言語を忘れさせるアシェラ―のようなウイルスは存在していない。この物語は人間の言語をプログラムのようなものとして解釈した。チョムスキーが唱えた普遍言語論を使用し、言語にはOS(祖語)が存在するとし、古代シュメール語を解読し、アシェラ―によって「ナム・シュブ」をアンインストールすることで人を廃人することが将来可能になるかもしれない、「心のハッキング」が可能ではないかということを問題提起しているのだろうと考えた。

終わりに

 正直、主もまだ完全に理解ができていません。そして理解してもこれを言葉で伝えるのがとても難しいと思います。この本をぜひ一度手に取って、ディストピアでサイバーパンクな世界を”japanese 刀”とともに旅してみると面白いですよ!! 
(teftef)

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