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各部署の生成AI活用能力を向上させる!「生成AIアンバサダー」の中間成果を公開

こんにちは、トヨタコネクティッドAI統括部です。

今回は、2024年7月25日に行われたイベント「Azure OpenAI Service Dev Day」の内容を紹介します!

700名以上が参加した本イベントには、AI統括部リスキリングチームリーダーの西山 泰仙さんとAI技術室の山本 玄人さんが登壇しました。

本記事を読むことで、各部内での生成AI活用の促進を担っている「生成AIアンバサダー」中間成果を知ることができます。


アウトライン

以下のアウトラインで講演を行いました。

前回の記事では、リスキリングチームリーダーの西山 泰仙さんの講演内容である、Chapter01「生成AI導入の理想状態仮説と現状分析」とChapter02「生成AIネイティブになるための戦略と取り組み」を紹介しました。

前回の記事はこちらをご覧ください。

西山 泰仙さん

本記事では、Chapter03「トヨタコネクティッドの生成AI効果分析」とChapter04「インサイトと技術者への期待」を紹介します。


Chapter03 トヨタコネクティッドの生成AI効果分析

さっそく、トヨタコネクティッドにおける4~6月の生成AI利用状況と効果分析をおみせします。
今回の分析は、各部内で生成AI活用の推進を担当している「生成AIアンバサダー90名を対象に行ったアンケート調査の結果に基づいています。

ユースケース概要
トヨタコネクティッドでは、生成AI技術の社内推進活動の一環として「生成AIアンバサダー」プログラムを立ち上げています。

このプログラムでは、各部門から選出された社員が「生成AIアンバサダー」として活動し、生成AIの高度な理解を深めるとともに、業務への積極的な応用を進めています。
彼らは、事例発掘や社内発信を通じて、各部内での生成AI活用を促進しています。

その結果、4月から6月までの3ヶ月間で、168件に及ぶ活用事例を発掘することができました。
これらの事例は、単なるアイデアに留まらず、実際の業務プロセスにAIを統合することで、具体的な成果を上げています。

そのうち153件が生成AIを活用することで、従来からどれだけ時間が削減されたのかを計測できた事例になります。

また、時間未計測事例は9件あり、今までできなかったことが生成AIを活用することで、できるようになった事例は6件という結果になりました。
(ちなみにこの6件の事例の中では、Excelデータを分析し高度なレポートを作成するものが印象的でした。)


削減時間と削減率の分析
まず、削減時間についての結果を見てみましょう。
生成AIを活用することで、報告された事例の積み上げだけで合計115時間の時間削減に成功し、1タスクあたりの平均削減時間は45.1分となりました。さらに、中央値は25分という結果が得られています。

これらの削減時間データを基に従来の作業時間からの削減率を計算したところ、中央値は67%に達しました。

つまり、生成AIを導入することで、従来の作業時間の約3分の2を削減できていることがわかります。


実用度の分析
次に、生成AIを活用した際の成果物の完成度を示す「実用度」について分析しました。
この実用度の計測は、ユーザーによる主観的な評価に基づいています。

生成AIを活用する際、最終的な成果物のクオリティに対する責任は人間が負うため、ユーザー自身の満足度や完成度の認識が重要です。そのため、主観評価による実用度の測定を容認しています。

実用度(成果物完成度)の中央値は80%と高い水準を示しており、生成AIが実際の業務プロセスにおいて高い完成度の成果物を生み出していることが確認されました。


高インパクトタスクと高実用度タスク
さらに、生成AIの効果が特に顕著であった「高インパクトタスク」を業務カテゴリごとに分類し、特定しました。

削減率の高い「高インパクトタスク」に該当するのは、以下の3つのタスクです:

  1. スライド資料作成:プレゼンテーション資料の作成で多くの時間を削減。

  2. Excel処理:データの整理・分析で大幅な時間短縮を実現。

  3. ナレッジFAQ:社内のFAQ作成において、効率的に情報を提供。

トヨタコネクティッドの業務特性として、Excel上の分析結果をスライドに転記し報告書とするプロセスが多いため、1位と2位のタスクは一連の業務として関連していることが示唆されています。

また、ナレッジFAQに関しては、従来は膨大な社内ドキュメントから情報を検索するか、二者間でのコミュニケーションが必須であったため、情報共有の効率化によって大幅な時間削減が実現されたと推測されます。


高実用度タスク
また、実用度が高かったタスクとしては、以下の2つが挙げられます:

  1. テキスト処理:文書の生成や編集などのタスク。

  2. コーディング:プログラムコードの生成や修正。

これらのタスクは、LLMが提供するコア機能(text to text)の範囲内で完結するものであり、RAGやCode Interpreter等の機能に依存しない分、安定性が担保され、特に高い実用度を示す傾向があることがわかりました。


業務カテゴリ別の活用事例

次に、業務カテゴリごとに、業務利用の完成度が高い活用事例と、時間削減効果が大きい活用事例を分析しました。

この分析を行うことによって、業務効率化の注力領域を特定することが可能となり、今後、さらにユースケースを作成する際にも有益な指針となります。

データの見方
データをわかりやすく可視化するために、今回の分析では散布図と棒グラフを活用しました。以下のようにご覧ください。

棒グラフ:グレーの部分が各軸の目盛りごとの総事例数を示し、有色部分がその中で分析対象となる業務カテゴリに該当する事例数(割合)を表しています。

散布図:縦軸は業務適用度(アウトプットの完成度)、横軸は業務削減率(時間の圧縮率)を表しています。そのため、点がグラフの上部に位置していると成果物の完成度が高く、右に位置していると時間削減率が高いということになります。

この見方にのっとり、それぞれの業務カテゴリ別に具体的な活用事例とその効果を見ていきましょう。


テキスト処理の活用効果

まずは、高実用度タスクであった、テキスト処理の活用効果からみていきます。

テキスト処理の事例は55件ありました。

具体的には、メール作成やチャット送信文作成、テキスト情報要約、議事録作成などが挙げられます。

散布図の結果を見ると、業務適用度(縦軸)は100%に近く、成果物の完成度の水準が高いことが確認できます。

しかし、業務削減率(横軸)には法則性が見られず、事例によって削減率にばらつきがあることがわかりました。

この結果から、テキスト処理はChatGPTのチャット内で完結するため、完成度が高くなりやすい一方で、現代の複雑なタスクフローの中で部分的な効率化が図られたものの、業務全体を自動化するケースではないことが、削減率を低迷させた要因ではないかと分析しています。


Excel処理の活用効果

次にExcel処理の活用効果をみていきます。

Excel処理の事例は30件ありました。

具体的には、Excelデータ統計処理やグラフ作成、顧客対応の文字起こし評価などが挙げられます。

分析結果では、右方向(業務削減率)に点が密集しており、業務削減率のインパクトが非常に高いことがわかります。ただし、業務適用度はばらつきが見られ、完成度には差があるようです。

これにより、Excel処理ではデータ分析の時間短縮が圧倒的であったり、従来できなかった分析が容易に実現可能になったことが確認されました。
(冒頭で紹介した新規可能業務の6件もExcelの事例が多数でした。)

しかし、日本語テキストが含まれるExcelファイルの読み込みに難があったり、完成度が十分でないケースも見られることが現状の課題です。

この点を理解した上で業務に活用することが重要です。


ナレッジチャットの活用効果

次に、ナレッジチャットの活用効果をみていきます。

ナレッジチャットの事例は23件あり、上司のナレッジや評価基準を参照させたGPTs、特定のマニュアルや書類を参照させたものなどが含まれます。

こちらもExcel処理と同様に、右方向(業務削減率)に点が密集しており、業務削減率のインパクトが高いことが確認されます。ただし、業務適用度にはばらつきがあり、成果物の完成度には差が見られます。

実際の声として、ナレッジファイルの整理や作成にベストプラクティスが確立されていないので着手が困難、または削減の期待値が不透明だからデータ整理の工数を割けないという意見もありました。

しかし、一度完成度の高いGPTsを作成すると、業務削減率が大幅に向上することも報告されています。

ただし、複雑な検索や処理を必要とするタスクが多く、それにはモデル制度はもちろん、RAG(Retrieval-Augmented Generation)の精度にも依存するため、完成度に限界があることも理解しておく必要があります。

※GPTsとは、OpenAIが2023年11月に発表した機能で、ChatGPTをカスタマイズしたオリジナルChatBotを作って自身で公開することができます。


部署別の活用効果比較

最後に、別の切り口として、部署別の生成AI活用効果の比較について見ていきます。

具体的な部署名は伏せていますが、AI統括部では各部署の生成AI活用状況を、時間削減率を軸とした確率密度部署間の削減期待値を分析しています。

この分析は、部署ごとの生成AI活用効果の期待値を推測する際に活用でき、ChatGPT Enterpriseアカウントの配布に限らず、どの部署に積極的に働きかけるべきかといった、会社全体のレバレッジポイントの仮説を立てる上でも役立ちます。

今回、公開したE部とC部の比較データでは、全体的に両部ばらつきはあるものの、E部の削減率の代表値(今回は中央値や最頻値をベンチマークにした)が75%付近につけていることから、C部に比べ、E部での業務が生成AI導入と相性が良いのではないかと、仮説を立てることができます。

この仮説から、E部に対してChatGPT Enterpriseアカウントを優先的に配布し、業務削減効果の最大化を画策する意思決定ができます。

ただし、データは事象の一部を抽出し表したものであり、あくまでも意思決定の一材料に過ぎないことを理解する必要があります。

現場との対話や、実際の成果物評価と向き合う必要性は一層高まるでしょう。

このように、AI統括部では、具体的なデータを収集分析分析結果をもとに改善新たな施策を実行のようにPDCAを回しながら、社員の効果的な生成AI利活用を促進しています。


Chapter04 インサイトと技術者への期待

最後のセクションでは、ここまでのインサイトと技術者への期待をまとめたいと思います。
(今回、登壇したイベントのテーマが「Developer Day」であることから、技術者への期待をもって講演を締めました。)

現状のトヨタコネクティッドでの傾向として、その業務特性から、成果物の完成度と時間削減率の間に一定のトレードオフが存在することがデータから明らかになりました。

汎用型のチャットAI(ChatGPTやMicrosoft Copilot)では、各自業務への最適化を各社員に依存してしまうことで、能力やアイディアなど変数が多く、同じ業務でも揺らぎが生じ、完成度と削減率の両立が困難になっていると推測できます。

この課題を克服するためには、汎用型チャットAIを超えたユーザー体験の提供が鍵となります。

つまり開発者の皆さんには、現場の業務課題や需要を絶えずインプットし、部署や業務に最適化したLLMシステムを開発することで、圧倒的な業務改善ユーザー体験向上の実現を期待しております!

そこで、現在トヨタコネクティッドでは、社内の情報を学習し、社内業務に特化したAIアプリケーション「T-Copilot」をリリースしています!

3つの社内専用生成AIアプリケーションをリリースしています。

T-Copilotは今後もアップデート繰り返しながら、より業務で活用できるLLMシステムの開発を進めていきます!


まとめ

いかがだったでしょうか?

今回の記事では、生成AIの業務活用における効果や課題、そして今後の展望について詳しく紹介しました。

前回の記事でも紹介した、生成AIネイティブ状態(画像参照)を実現するには、人材リスキリングはもちろんのこと、ツール開発によるマッチングの重要性を再確認でき、それを支えるディベロッパーの役割がますます重要になることがわかります。

ぜひ、前回の「企業で生成AIを導入するための施策と生成AI全社研修の全体設計」を公開した記事も参考にしてみてください!

トヨタコネクティッドは、生成AIの効果的な活用を目指し、全社規模でのリスキリング戦略を展開しています。

今後も実行と改善を繰り返しながら社員の生成AI利活用を全力でサポートしていきます!

また、AI統括部のメンバーがイベントに登壇し、成功事例課題失敗談など、現場でのリアルな体験を積極的に発信していきます。
できる限りオープンに情報を共有することで、同様の課題を抱える企業の皆様に少しでもお役に立てればと考えています。

業務効率化や改善に興味がある方はぜひフォローいいねよろしくお願いします!


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