企業で生成AIを導入するための施策と生成AI全社研修の全体設計を公開します
こんにちは、トヨタコネクティッドAI統括部です。
今回は、2024年7月25日に行われたイベント「Azure OpenAI Service Dev Day」の内容を紹介します!
700名以上が参加した本イベントには、AI統括部リスキリングチームリーダーの西山 泰仙さんとAI技術室の山本 玄人さんが登壇しました。
本記事を読むことで、トヨタコネクティッドが現在実施している生成AI研修の設計や企業で生成AIを導入するために必要なことを知ることができます。
企業の生成AI推進担当者やこれから生成AIを導入したい方は、ぜひ参考にしてみてください!
アウトライン
以下のアウトラインで講演を行いました。
※講演の内容は複数回に分けて公開します。
本記事では、リスキリングチームリーダーの西山 泰仙さんの講演内容である、Chapter01「生成AI導入の理想状態仮説と現状分析」とChapter02「生成AIネイティブになるための戦略と取り組み」を紹介します。
Azure OpenAI Service Dev Dayの詳細はこちら
Chapter01 生成AI導入の理想状態仮説と現状分析
巷ではよく「生成AIを使いこなそう!」と言われていますが、使いこなすとはどんな状態なのか、組織としてはどういう状態なのかをトヨタコネクティッドでは、「生成AIを使いこなす」=「生成AI活用を自走できる状態」と定義しています。
具体的には以下の組織文化と知識、能力が必要だと考えています。
⓪変化を後押しする組織文化
前提として生成AIや社内データの活用を促進する文化の醸成
①生成AIの理解
生成AIの性質や長所・短所・ユースケースの知識
②業務の言語化
自身の業務課題を理解・言語化・抽象化・汎用化する能力
③マッチング能力
生成AIの特徴やユースケースを知り、自身の業務と掛け合わせる力
④解決能力
業務課題を生成AIで解決し、自走できる能力
このように、全てが合わさって初めて生成AI活用を自走できる状態に持っていけると定義しています。
ただ、多くの企業は上記のように生成AIを気軽に業務で活用できる状態ではないと思います。
理由としては、保守的な組織文化や生成AIに対する知識の不足、業務の言語化ができていないなどがあるかと思います。
この状態では、①生成AIの理解、②業務の言語化 がマッチングしないため、生成AIによる業務改善・効率化の発想が生まれません。
ここに対する解決策として、2つのアプローチがあります。
1.リスキリングアプローチ
まず1つ目は、リスキリングアプローチです。
現在、トヨタコネクティッドでは、生成AI全社研修を実施しています。
Chapter02で研修の詳細を紹介しますが、リスキリングによって生成AIを学習し、業務の言語化能力を高めることにより、各従業員が自発的に生成AIと自身の業務をマッチングすることができます。
2.ディベロップドアプローチ
2つ目は、ディベロップドアプローチです。
これは、独自のツールを開発するということです。
例えば、独自ツールを開発すると、Teamsに議事録機能を搭載し、ボタン一つで社内で決まったフォーマットの議事録が自動で作成されるといったことも可能になります。
現在、トヨタコネクティッドでは、社内の情報を学習したAIアプリケーション「T-Copilot」をリリースしています!
このように、独自のツールを開発することで、汎用的なツールではできなかったことが可能になり、強制的に①生成AIの理解、②業務の言語化をマッチングさせることができます!
AI導入チームの組成
次に、AI導入チームの組成も重要になります。
AI統括部では、カスタマーインな社内実装体制を作っています。
具体的な流れとして、まずは、リスキリングチームが現場にリスキリング(主に生成AI研修)を行います。
すると、現場から実際の業務で使用しているユースケースや質問が上がってきます。
その現場からのニーズをAI技術室やプロセスアナリストに伝え、連携することによって、ニーズを汲んだツールを開発することができます。
このように、トヨタコネクティッドでは、PDCAを回しながら、現場に生成AIを導入しています!
リスキリングチームについてはこちらをご覧ください。
Chapter02 生成AIネイティブになるための戦略と取り組み
Chapter01では、組織の現状と理想を定義し、具体的なアプローチ法と社内実装体制について説明しました。
本章では、先ほど紹介した、生成AIネイティブへのステップ4つをフェーズに分け、より詳細に解説していきます。
第0フェーズ 組織文化の理解と順応
第0フェーズの目的は、生成AI導入の基礎となる組織文化を理解し、適切に順応させることです。
企業で生成AIを導入するために、まず、前提を理解する必要があります。
それは、ベンチャー企業とエンタープライズ企業では、主要ミッションが違うということです。
ベンチャー企業の主要ミッションとしては、新規顧客の開発や新たな価値、サービスを生み出すことが中心だと思います。
一方で、トヨタコネクティッドのようなエンタープライズ企業の主要ミッションは、既存サービスの安定的な供給になります。
そのため、保守運用業務は重要かつ大きな割合を占めます。
エンタープライズ企業には多くのステークホルダーが存在するため、新たな変化には一定のリスクが伴い、慎重な対応が必要になります。
しかし、保守的思考の裏には顧客満足度を追求するが故の矜持があります。
この前提を理解したうえで、どのように組織文化へ順応させるかについて解説します。
まず、企業への生成AI導入の課題として以下があげられます。
既存利用環境との整合性
セキュリティの課題
多様なステークホルダー
従業員の心理的障害 etc
上記課題に対しては、組織文化を理解し、歩み寄ったうえで、以下のような施策が必要になります。
ガイドラインの明示
導入協力者(アンバサダー)の育成
社員との定期的な交流
従業員に負担のかからない工数設計
導入効果の定量レポート化
上層部からの理解・協力
トヨタコネクティッドでは、ガイドラインを明示し、入力して良い情報レベルを明確にしています。
また、アンバサダーの育成や生成AI全社研修に加え、上層部向けの研修も実施しています。
ここで最も重要なマインドは、「新技術で便利だから導入させよう」は実装者のエゴになるということです。
本当に生成AIに価値を感じ、企業に導入したいのであれば、心理的障害を払い、ビジョンを共有し、現状の悩み事・課題をリサーチして発信する必要があります。
第1フェーズ 生成AIに関する学習
続いて第1フェーズでは生成AIに関する学習を行っていきます。
生成AIの学習と言っても、単に生成AIの研修を行い、知識を社員にインプットすれば良いというものではありません。
研修を行う前に、育成したい人材の定義を明確にし、組織として最適を目指す必要があります。
そこで、トヨタコネクティッドでは、育成したい人材を5つのレベルに分類しています。
レベル1、2
レベル1では、生成AIの仕組みやLLM(Large language Models)への正しいアプローチを学び、他者の生成AIユースケースにコンテキスト情報を代入できる状態を目指します。
レベル2では、他者の生成AIユースケースから自己業務にカスタマイズできるようになることを目指します。
そのために、自身のタスクフローの分析や活用事例から実際の業務に落とし込むコツなど詳しく説明していきます。
ここまでを全社員が達成できるように設計しています!
レベル3
レベル3は、自身の力でユースケースを作り、チームに貢献できる状態を目指します。
現在、トヨタコネクティッドでは、レベル3研修を実施中です。
すでに、一部のAI適用度が高い方に関しては、作成したユースケースを社内ポータルサイト「AI DX DRIVE」に発信していただいています。
このように、レベル3の人材がAI DX DRIVEにユースケースを投稿し、レベル2の人材がユースケースを自身の業務にカスタマイズして利活用するというサイクルを作ることで、トヨタコネクティッドの業務で活用できるナレッジをストックすることができます!
AI DX DRIVEについてはこちらをご覧ください。
もう少し深掘りすると、質の高いユースケースを作るうえでは、エンジニア、非エンジニアに分けて最適な知見を与える必要があります。
そのため、レベル3では、選択必修制度を導入して、それぞれの興味や属性・専門性にあった研修を提供しています。
また、研修は、インプットして終わりではなく、ハンズオンでアウトプットを行い、知識が定着しやすい設計にしています。
研修の日程については、大半の社員はレベル3を2025年3月まで受講していただきます。
レベル4とレベル5に関しては、一部の社員を対象としています。
第2フェーズ 業務の課題定義・言語化
続いて第2フェーズでは、自身の業務をどう言語化していくのかを説明していきます。
第1フェーズで生成AIの基本知識を学び、全従業員が他者のユースケースを自己業務にカスタマイズする力を身につけました。
しかし、自身の業務を言語化できなければ生成AIを使いこなすのは困難です。
そこで、まずは従来の業務言語化状況をヒアリングしていくと以下の状態になっていました。
タスクが言語化できない
マニュアル化されていない
ルールが明文化されていない
属人性が高い状態
この状態を脱却するための施策としては、「自身の業務を言語化する機会を多く作る」という結論にたどり着きました。
そこで、AI統括部では、以下を取り組んでいます。
業務棚卸ノウハウを研修化、ワークショップで業務分解+収集
アンバサダー協力のもと生成AI利用者に業務ヒアリングを行う
1on1ヒアリングや週に1回程度、業務時間後にAI勉強会やワークショップを開催し、オフラインで交流
※アンバサダーとは、各部署から選出されたAIに対する意欲が高い方に月5時間の工数をいただき、部全体の生成AI活用能力を向上させ、部内全従業員の業務プロセスの効率化を推進する役割を担っている方を指しています。
このように、第3者に自身の業務を言語化し、伝える機会を作ることでさらに能力を拡張しています!
その結果、現在、生成AI全社研修で900種のユースケース、アンバサダーによる業務分解163種、ユースケース168種が誕生しています!
他にも質問や1on1等でもユースケースを収集しています。
ただ、良いことばかりではなく、課題も大きく2つあります。
1つ目は、モデルやRAGの精度上、ドキュメント化に踏み切るほどのリターンがないことやドキュメント化したとしてもいまいち使えずにモチベーションが湧かないという課題です。
2つ目は、AIセントリックなナレッジベースを作成する際の最適なドキュメント形式や構造(マークダウン記法、箇条書き)などを確立できていないという課題です。
これらの課題も認識したうえで、生成AIの導入を進めていきましょう。
定期的に業務時間後に開催してる勉強会やワークショップの様子はこちらをご覧ください。
第3フェーズ マッチング能力とユースケース探索
生成AIを効果的に活用するためには、業務のニーズと生成AIの特性を正確にマッチングさせる能力が重要です。
第3フェーズでは、マッチング能力とユースケース探索を通じて、生成AIの導入効果を最大限に引き出す考え方と施策をご紹介します。
その前に、Chapter01でも説明しましたが、トヨタコネクティッドが定義している生成AI活用を自走できる状態を振り返ります。
まず前提として変化を後押しする組織文化が必要です。
そのうえで、生成AIを理解し、業務の言語化ができるようになって初めて生成AIと業務の課題がマッチングし、自走して解決する能力につながっていきます。
ただ、定義を決めたとはいえ、マッチングするには生成AIの特徴を理解する必要があります。
そもそも、生成AIはインプットに対して推論ベースで出力を行うため、揺らぎが生じます。
この特徴を理解したうえで大事な考え方は、「生成AIは魔法ではない!」ということです。
生成AIを使うことが目的化してしまうと、現状のLLM(Large language Models)では解決できない事象でも、「自分のプロンプト技術が足りないから結果が出ない」と誤解してしまい、貴重な工数を費やし、疲弊してしまうケースがあります。
そのため、「本当にChatGPTで解決すべき?」という視点は常に持っておく必要があります。
また、生成AIに対する期待値の調整も大切になります。
しかし、ChatGPTで解決できる、できないを個人で判断するのは難易度が高いです。
そのため、AI統括部リスキリングチームでは、生成AIの適用業務の指針を提示しています。
このように、生成AIで解決すべき業務か否かの目安を提示することで、効率的に生成AIを活用することができます!
以上がトヨタコネクティッドでの、生成AI導入の理想状態仮説と現状分析と生成AIネイティブになるための戦略と取り組みになります。
次回の記事では、中間結果として具体的にどんな効果が出たのかを定量的に示したいと思います!
まとめ
トヨタコネクティッドでは、生成AIの効果的な活用を目指し、全社規模でのリスキリング戦略を展開しています。
今後も実行と改善を繰り返しながら社員の生成AI利活用を全力でサポートしていきます!
また、積極的にAI統括部で活躍するメンバーがイベントに登壇し、成功事例や課題、失敗談など現場のリアルを公開できる範囲で共有していきます。
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