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「ネットメディアの価値観を『ゆっくり・深掘り』へ」瀬尾傑さん(後編)

柿次郎:
Dooo!!編集長の徳谷柿次郎です。先週に引き続いて今回もスローニュース株式会社の瀬尾傑さんにお話を聞いていきまーす。



前回の振り返り

スマートフォンなどでいつでもどこでもニュースがみられるようになり、速さ、“速報性”が重視されやすい近年。

瀬尾:
記事の価値は速さじゃなくて深さなんですよ。真実性こそが記事の評価になる。

瀬尾さんが代表のスローニュースでは手間をかけて調査し隠れた事実を掘り起こすいわゆる「調査報道」を行うメディア、ジャーナリストを支援しています。

瀬尾:
実は日本の読者はジャーナリストが要するに権力の追求なんかしないで彼らは彼らで別の「マスコミ」と言われる商売をやっているんだという受け止めされ方をされてる。

日本のメディアが抱えている課題や現状など今回も瀬尾さんにどんどん語っていただきます。


「寄付の国・アメリカ」と日本の違い

柿次郎:
それこそアメリカの事例、海外の事例ですけど市民の人からお金を預かって、代わりにジャーナリズムとして市民の知りたい情報を取材するみたいなそういうモデルって日本ではまだあんまりないですよね。

瀬尾:
そうですね。おっしゃるようにアメリカでそういうモデルはあるんですよ。
アメリカは結構面白くて、ひとつは「寄付の国」なんですよね。

柿次郎:
文化的に?

瀬尾:
そう。政治に対してもそうだし、そういうジャーナリストに対してもすごいお金持ちが寄付するっていうのが結構ある。アメリカで有名なのはプロパブリカっていうNPOがあってそれは「ウォール・ストリート・ジャーナル」とかの有名なジャーナリストがやめてそこのNPOで働いてて、そこはあるお金持ちの寄付で最初スタートしたんですけど、そのお金で調査報道をやってそれで「色んな新聞がやらないようなことを調べ上げて書く」みたいなことをやってる。ところが日本って寄付文化がないじゃないですか。

柿次郎:
全然ない。NPO的な活動も偽善者みたいな言葉で叩かれたりする。

瀬尾:
そう。日常的に寄付するみたいな感覚がないですよね。NPOとかを応援したいと思っても。もう一つはジャーナリズムってものに対して日本は正直アメリカのように寄付をしたいと思うほど市民の人がジャーナリズムに対しての価値を認めてるかっていうと残念ながらそこにいたってないんじゃないかと思ってるんですよね。

この前ロイターの研究で面白いデータが出てたんですけど、ジャーナリズムの役割のひとつに「権力を監視する」っていう機能がありますよね。「ジャーナリズムが権力を監視してますか」という質問を世界中でロイターが調査してるんですよね。読者に対してと、もう一つはジャーナリストに対して調査しているんですよ。

ロイター・ジャーナリズム研究所の調査ではメディアは権力を監視しているかという質問に対し「はい」と答えた読者、視聴者はドイツ、アメリカでは40%前後なのに対し、日本は17%。またジャーナリストに同じ質問をした場合、日本で「はい」と答えたのは91%74ポイントも違う数字が出ています。


ジャーナリストと読者・視聴者とのギャップ

瀬尾:
だから実は日本の読者は、ジャーナリストが権力の追求なんかしないで、それとは別の「マスコミという商売」をしてるんだって思ってるんだなって思うわけです。

柿次郎:
すごいギャップですね。

瀬尾:

で、これがジャーナリストを日本の人が信用していない、あるいはジャーナリズムが信用されていない、ギャップだと思ってるんですよね。さっきの寄付がなぜないかってことの理由は一つは「寄付文化が日本にはなかなかない」っていうのと、もう一つは一般市民の方がジャーナリストに対してそういう思いを持ってる。「ジャーナリストは勝手に俺たちは正義だって、権力を追求する監視機関なんだって思いこんで偉そうにしてる」と。一般の人から見たら、「そんなことはない」と。「あんたのやってる仕事でそんなのは10%ぐらいなんだ」と思ってる。そういう状況があるわけで、当然寄付なんてしようとは思わないですよね。そういうのが日本のジャーナリズムの実情だと思うんですよね。


中央集権的ではなく地方へ

柿次郎:
スマートニュースさんとかに配信して欲しいって気持ちもあるんですけどある程度記事数がいるとかあるじゃないですか。ジモコロは月に12本くらいしか更新していないので個人で旗振って「こんな記事作ったよ」ってやらないと読まれない。いわゆるオウンドメディアみたいなものがどんどん閉鎖というか淘汰されていった先に、また大きなメディア、出版社とか大きな会社がお金とか人を使った方にライターとか編集者が流れて行っているのが現状。

瀬尾:
なるほど。

柿次郎:

僕は野良編集者なので(笑)一人の会社でなんとか仲間作って現場というか末端という言い方もあれですけど、今後どうなるんだろうって。

瀬尾:
通信社、新聞社、出版社が作るデジタルメディアに寄せられていくと、また中央集権的になっちゃうと思うんです。でも、本当に可能性があるのは地方からの情報発信なんですよね。それができるってことがすごい大事だと思っているんですよ。


*****Dooo*****


地方紙の廃刊が相次ぐアメリカ


瀬尾:
地方というとこういうことがあって・・・例えばアメリカの地方紙ってすごく経営が厳しくて潰れてるところがいっぱいあるんですよ。日本の地方紙って、宅配制度っていう配達の制度に支えられてすぐ辞める人もいないしすごい大きいエリアを支えているから今新聞経営難しいって言われているけど、それなりに、年々減ってきてはいるんだけれどすぐに潰れるような状況ではないっていうのがほとんどですね。アメリカでは配達してくれないんですよ、広いですから。みんな買いに行くんですよ。

柿次郎:
駅とか売店で毎日買うって文化なんですね。

瀬尾:
そういう意味で言うと部数が激減してしまう。なおかつ狭いエリアに3紙も4紙もあって競争してる。なのでアメリカで新聞ってたくさん潰れてるんですね。そんななか興味深い事例があって新聞社なんですけど、事件とか事故とかのニュースに関しては市民に任せる。要するに市民の投稿とか連携した市民記者の投稿に任せる。そうすると今までたくさん取材していた記者は余るんわけですよ。そういう人たちは減らしてるんですけど、なにやっているかというと「記事の正確性を調べるためのデスクみたいな仕事」と・・・

柿次郎:
ファクトチェック的な。

瀬尾:
もう一つは「州政府などに不正がないか問題がないのか取材をする」。この2つの役割に絞り込んでやっている。それと同時に市民からの投稿っていうのは例えば「自分たちの家庭教師を探してます」とか「時間ができたんで家政婦をやりたくなりました」とかコミュニティメディア的な。

柿次郎:
町ネタ的な。

瀬尾:
そういうのを投稿して、そういうので成り立っている完全なコミュニティメディア化しているところがけっこう出てきていてそれで成功している事例がある。ジモコロのようにローカルな情報を発信というのをチャレンジしているところがあるけど、一方で日本はまだまだネットすら中央集権的だったりするんで。そこに新しい動きが出てくると、地方発という動きが出てくると面白いと思うし、ジモコロの試みなんかはすごくイイと思います。マジで思います。

柿次郎:
やっぱり地方で表現とか活動していると、自信が持てないです。褒められる機会が少ないというか。あちこちの若者が山深いところに住んでいると、これが正しいのかどうかと。そういうのに光を差し伸べて「大丈夫だよ」って言う活動をしてはいる。地方で牛を育ててるおじさんのやり方がすごくいいと外のメディアに出ることによって「あのおじさんそんなすごかったんだ」って。「自信が持てた」と。そういう経験があるんですよね。

瀬尾:
めちゃくちゃいいですね。それメディアの大切な役割ですよ。メディアの役割ってさっき言った権力の監視みたいな話・・・ジャーナリズムだから注目されるけど、実はもうひとつの役割があって、問題の発掘や・才能の発掘だと思っているんですよ。普段の日常生活で何気ない彼らからすると自分たちの生活の一断片かもしれないし日々の仕事の一つかもしれないけどそれをジモコロというメディアでスポットライトを当ててあげることでそれが注目されて新しい価値を呼ぶ。これはメディアの大切な役割だと思います。


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ネットメディアの健全な発展を目指すJIMA

柿次郎:
もうひとつ瀬尾さんがやられてる代表理事の、JIMAの活動について。

瀬尾:
これはインターネットメディア協会という団体なんですけれども、今年の四月に旗揚げしたんです。今40を越えるメディアや会社に入ってもらってます。この団体が何を目指しているかっていうとインターネットメディアの新しい業界団体をつくりたいってわけじゃないんですよ。

特徴は、1つはニュースメディアだけじゃなくて例えば、スマートニュースのようなニュースアプリだとか、あと、カカクコムみたいなサービスだとかいわゆるニュースだけじゃなくていろんなメディアとかサービスなどが集まっている団体。僕らが何をするかというとちゃんと信頼するメディアを作っていこうとそのための行動を起こそうと。

信頼が一番大事とか差別を助長することがないようにとか当たり前のことを倫理として守っていくということを固めるということ。それと同時に信頼できるメディアを作っていくにはどうしたらいいのかとか細かいファクトチェックはどうしたらとかもあるかもしれないし、あとローカルな情報をちゃんと届けるにはどういう方法があるのかとかそういうことをフラットに議論する場にしたい。なかには成功例もあったりするのでそれを持ち寄って共有して、自分たちのやり方にフィードバックする。そのことによって健全にメディアを伸ばしていこうみたいなことをやろうとしているのがこのインターネットメディア協会です。

柿次郎:
個でやってると結構ガラパゴス化するじゃないですか。

瀬尾:
ほんとそう、そうなんですよ。そういう人の視点を入れてみんなにいいメディア社会をつくってくことを目指していこうと。もう一つやろうと思っているのは僕らのメディアの社会貢献の一つ、リテラシー教育みたいなものに取り組みたいと思っている。スマホ触るなとかネット使うな危ないから見たいな教育するじゃないですか。

柿次郎:
極端ですよね。

瀬尾:
そうじゃなくて使い方をちゃんと教えて失敗はしなくていいけど「失敗したらどうなるか」とか、「成功するためには何をしたらいいのか」ということをちゃんと学習していくってのが大事ですよね。それをたとえば学校とかそういうのを地域とかで教えるようにしたいなあと思っています。


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最近気になったニュース「トランプ氏が・・・」


柿次郎:
最近気になったニュースとかいつもお聞きしているんですけど。

瀬尾:
トランプが「日米安保やめる」と言ったとか言わないとかいう話が流れましたよね。

僕はあの情報を聞いた時に「いよいよか」って思ったんですよ。トランプだから嘘か本当かわからないし、僕はどちらかというと日本への脅しというよりも来年大統領選があるのでアメリカ国内向けに「俺はこんなこと言っているんだぜ」っていう選挙向けのアピールだと見てるんですけど。だけどずっとアメリカの中にはアメリカが世界の警察官みたいにどこにでも行って、アフガニスタンやらイランもそうですけど、日本を守っていく必要がなくて自分たちだけでいいじゃんって言っている勢力もずっといて、アメリカの国力が相対的に落ちている中でコストもかかるからやめようって話もあるのも事実なんです。そういう動きが今はトランプの戯言かもしれないけどもしかすると10年後なのか50年後なのか現実的に議論がされるかもしれない。僕はそういう状態がすぐ来るとは思っていないんですけど、でもそういう議論はしておくことが大事だと思っているんです。1番危ないのは日米安保がなくなるなんて思ってなくてある日突然なくなったら慌てるじゃないですか。パニックになると良い判断ができないんですよね。やっぱり常日頃から決めつけないで色々なシチュエーションを考えることは大事だと思うんですね。だから僕は日米安保についてなくなるかどうかなんて現実的ではないと思ってはいますけど「そんなことアメリカに言われても困んないよ」ってぐらいの議論はした方がいいなと思ってます。

柿次郎:
それこそスローニュース的に情報とか議論とかっていうのをみんながゆっくり咀嚼できるようなインターネットの社会にできれば、むしろそれが大事ってことですよね。

瀬尾:
まさにニュースとしてトランプがそういう事を言ったってとこに飛びつくんじゃなくて、まさにそれはスローニュースで「これはどういう意味を持っているのかあるいはそういうためにはどうするか」ゆっくり時間を持って考えましょうってことなんですよ。それがまさにスローニュースって事だと思います。

柿次郎:
正しい情報っていうのは自分で考える力と自分で選ぶというか余裕がみんなにできればいいんですけど今不安な気持ちが高まってますもんね。

瀬尾:
まずは不安になるのが心配なのでパニックにならないようにまず落ち着きましょうってことと、例えばソーシャルでもなんでもちょっと一拍置く

柿次郎:
ためる。のみ込む。

瀬尾:
よく酔っ払ったらTwitterするなとか。それと同じですから日常的にちょっと半日考えてみよう、意外と違う情報だったり自分が怒ったことも大したことなかったからもしれない。ちょっと時間を置きましょうってことですね。

*****Dooo*****


収録を終えて

柿次郎:
瀬尾さん、本日収録ありがとうございました。

瀬尾:
ありがとうございました。めっちゃ楽しかったです!

柿次郎:
本当ですか、良かったです。

瀬尾:
ひとりでしゃべり続けてすいません(笑)

柿次郎:
僕もジモコロってものがスローニュースに繋がっているって世の中にすごい大事だって気づけたんで僕もJIMAの協会に入れたら。

瀬尾:
是非入って下さい!

柿次郎:
僕もローカルにいると自然の風景ばっか見ちゃっているんでそういった議論の場に混ぜて下さいよ。

瀬尾:
是非お待ちしております!

柿次郎:
では、引き続くDooo!!していくぞ!Dooo~!!

瀬尾:
あっ・・・眼鏡飛んだ。

柿次郎:
眼鏡飛んだバージョンで!


【前編はこちら】