新幹線で田舎へ帰るおじいちゃんと会えない寂しさを隠す少年の別れる数分前の車内の話_

新幹線で田舎へ帰るおじいちゃんと、会えない寂しさを隠すお孫さんの、別れる数分前の車内の話。(未完)

寂しいとき、男の子は強がってしまいがちだ。
そうしていないと、心の、涙の、堤防が決壊してしまうのかもしれない。

この間お乗せしたのは、
ゴールデンウィークで田舎から出てきたおじいちゃんと、
お孫さんの兄妹2人の3人。
家族で神宮球場に野球を見に行き、おじいちゃんはこの後新幹線で田舎へ帰る日程らしい。
少しの間、離れることになるため、別れる前に
兄妹の父親がおじいちゃんと二人を同じタクシーに乗せた。
あと少しでおじいちゃんと少しの間サヨナラをする。

そんなセンチメンタルなひと時のはなし。

[おじいちゃん(以下お) 裕太((仮)以下裕) みさき((仮)以下み)]

父「じゃあ裕太!みさき!こっち乗って、で父さん、東京駅八重洲口だから、またあとで、運転手さん、お願いします!」

時間がないのか、慌ただしい様子で二組に分かれて乗って来た。
おじいちゃんは「東京駅の八重洲口」と行き先を告げた後、話始める。
乗るときとは一変、車内の空気はゆったりとしてきた。

お「裕太~、試合勝ったな」

裕「うん、ホームラン見れたのは良かったね!」

お「凄かったもんな~、、ホームラン打ったのは誰だっけ?」

裕「ん、あれはムラカミ、背番号55だよ」

お「村上選手か、55ってことはゴジラだな」

裕「ヤクルトのゴジラになるかもね」

み「なんでゴジラなの~?」

裕「松井っていうホームランバッターがゴジラって言われてたから、55番の背番号で。まあどのチームにも55番いるから、みんなゴジラになるけどね」

お「ゴジラは凄い選手だったんだよ」

み「ふーん」

お「裕太は野球の調子はどうだ?」

裕「ふつう」

お「そうか笑、普通か、試合には出てるの?」

裕「出てるよ、でも普通って感じかな」

お「もう5年生だもんな、裕太は」

裕「うん」

お「みさきは2年生?」

み「そう、二年生」

お「二人とも大きくなるの早いな~、
前まではこんなに小っちゃかったのに~。
みさきはまだ赤ちゃんでこんなに小さかったぞ」

み「え~笑、そんなに小っちゃくないよ~」

会話だけを聞いてもとくに面白味はないと言える、
家族の会話なのだから当たり前だ。
しかし、私はその会話のどこかに寂しさを感じている。
あと数時間でおじいちゃんとお別れをするという
この後の展開が見えているからかもしれない。

お「裕太は大きくなったら何になるんだ?プロ野球選手か?」

裕「うん、そう。。。」

裕太の返事は素っ気ない。

お「みさきは大きくなったら何になるんだ?」

み「お花屋さんと、ケーキ屋さんと~、
あとね~まだいっぱいあるけど、忘れた」

みさきは明るい、この後離れることが分かっているけど、
寂しさをみせない、という明るさが運転手の私の心を少し震わす。

お「そっか~、みさきは大忙しだな。おじいちゃんも沢山見に行かないと」

み「おじいちゃんのケーキもつくるよ~、何ケーキが好き?」

お「おじいちゃんはね~、みさきが作ったものだったらなんでも好きだよ」

み「それじゃ分からないよ~笑」

お「みさきの作ったケーキは全部おじいちゃんが食べるからな~」

み「えー笑、そしたら、他のお客さんが食べれないじゃーん笑」

もし、この会話が
みさきちゃんとおじいちゃんの最後の会話だったら。。。
そう考えると、涙が出そうになる。
おじいちゃんはまだ60代ほどで若く元気に見えるが、
何が起きるかは分からない。

お「裕太の試合も見に行くぞ。裕太はどこのチーム入りたいんだ?」

裕「ん、ヤクルト、でもプロ野球選手になれるならどこでもいい」

お「そうか、じゃあどこに行っても応援行けるように
おじいちゃんは元気でいとかないとな」

裕「そうだね」

裕太は相変わらず素っ気ない、先ほどに増して素っ気ない。
この後別れる寂しさを押し殺しているのが窺える。

おじいちゃんとお孫さん二人のやり取りに、
もしも、事故など起こしたら、、、と考えると、
命を預かっている私のハンドルを握る手は少し力が入り、背筋が伸びる。

次第に東京駅が近づいていくる。

お「このゴールデンウィークは楽しかったか?」

み「楽しかった~」

裕「まあ、楽しかった」

お「そっかそっか~、良かった」

み「みさきは~ジブリの森美術館がたのしかった~」

お「みさきはジブリ好きなのか?」

み「うん」

ジブリ、、、
この車内で、私もたった今ジブリさながらの人間模様を鑑賞している。

三鷹の森ジブリ美術館を、ジブリの森美術館と言うあたりもそれっぽい。

寂しさを見せないように明るく振舞う妹のみさきちゃん。
何か話すと寂しさの波が押し寄せてくるせいで
冷たく、素っ気なく振舞う裕太君。
会えなくなることを一番理解し、この時間を精一杯楽しもうとしている
おじいちゃん。

みさきちゃんも裕太くんもそれぞれ寂しさを感じるが、
一番寂しいのはおじいちゃんかもしれない。

そして、東京駅がすぐそこに迫って来た。


続く



当noteで運営しているマガジン(無料)

では
あなたが体験した誰かに話したい
「感動したタクシー体験談」
「ムカつくタクシー体験談」
「驚きのタクシー体験談」

を募集しています。
ぜひ、あなたのタクシー体験を教えてください。

あなたの体験談が日本を面白くするエンタメに変わるかもしれません。

次のエンタメはタクシーから生まれる。






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?