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【ストーリー制作TIPS】大晦日のセンス・オブ・ワンダー

 大晦日ですね。
 おそらく、世の7割5分くらいの人々は屋内にいらっしゃるんじゃないかなと思います。

 ちょっと書きたくなったので、創作のTIPSをひとつ。物語論なんて語れるような人間ではないのですが、備忘録として、少しまとめておきます。

大晦日のセンス・オブ・ワンダー

 先ほど申し上げたように、大晦日の夜は多くの人が家にいます。年末特番を見ている人もいれば、生配信を見ている人、家族との団らんを楽しんでいる人、いつもどおりの日常を過ごしている人……いろんな過ごし方があるでしょう。

 ぼくも基本的には家で過ごしていますが、夜だけは散歩に出かけます。なぜかと言えば、↓のような景色に出会えるから。

誰もいない街。
ここはどこ?
どうして歩道橋のうえに三角コーンが置かれているのか。
見慣れはずの異世界。
現実がブレていく。

 みんなが屋内にいるというのは、屋外から人が消えるということ。
 大都市は別だと思いますが、地方都市では「誰もいない街」という一夜かぎりの異世界が現れます。

 普段は見慣れているはずの街が、まるで違う世界に見える日。

 ぼくはこの景色がとても好きで、毎年のように写真を撮っています。ほんの20~30分ほどのウォーキングですが、そこで得られるものは小旅行と同じか、それ以上。(もちろん、個人差はあります)

 これらの景色を体感すると、創作意欲の湧く人は多いんじゃないかと個人的に予想しています。
 物語を書くとき、「テーマやお題から広げる」という人も多いでしょう。僕もよくやります。

 一方で、SFやファンタジー、幻想小説などを書くときは、「常識に疑問を持つ」ことから入る場合が多いです。

 上記の写真で言うと、↓のような疑問です。

【空間について】
・ここは、現実なのか?
・ここは、2023年なのか?
・今日は本当に、大晦日なのか?
・どうして、誰もいないのに街は煌々としているのか?
・もし今日が大晦日でないとしたら、この光景の正体はなにか?
・どうして、歩道橋に反射材つきの三角コーンが置かれているのか?
・もし異空間に迷い込んだのだとしたら、どうやって脱出できるのか? そもそも、脱出すべきなのか?
……etc.

【人について】
・消えてしまった人たちは、いったいどこにいて、なにをしているのか?
・今夜に出歩いている人は、どんな事情を抱えているのか?
・街が妙なのではなく、僕のほうが妙なのだとしたら?
……etc.

 これらは、それぞれが物語になりますし、あるいはすべてをひとつの物語に収めることもできます。すべては作者次第。自由自在です。

 アイデアの出し方、切り口の見つけ方などは、いろいろな手法(=制作ツール)を持っておくのがよいでしょう。「疑問を出す」という手法は、物語ライターにとってひとつの仕事道具と言えます。

 もうそろそろ、年も明けますので、この辺で。
 最後に、上記の疑問から作ってみた小説の書き出しを載せて、締めくくりたいと思います。

 皆様、良いお年を。
 来年もよろしくお願い致します。

【ある大晦日の断片】
 猫一匹いない街が、光であふれていた。
 もう2040年代も終わりだってのに、俺の故郷は変わらない。地方都市なんて、こんなものだ。サイバーパンクなんていうのは、大都市だけのおとぎ話である。
 俺は子どもの頃から、大晦日の夜が好きだ。いつも外出している人たちが、家にこもる。街は一夜だけ顔を変え、眠らないゴーストタウンを作り出す。
 今年は帰省もせず、大学の友人に誘われたオンライン忘年会も断った。わざわざ仮想空間で合コンするらしい。元気なこった。いつも数合わせに付き合っているのだから、一年に一度の夜くらい、一人にしてくれ。
 今夜かぎりの幻想をゆき、歩道橋から街を眺める。ここがいつの時代なのか。ここは現実なのか。常識がほのかに揺らいでいく愉悦を、独り占めしているような気がした。
 だが、俺はぎょっとした。明らかに、俺よりも大晦日を堪能している異様な者を見つけたのだ。
 幽霊か、暴走したアンドロイドか……とも思ったが、見間違いではない。人間だ。
 ──10代後半と見える少女が、一人。四車線のど真ん中で、携帯端末も見ずに立ち尽くしていた。

出典:筆者作成

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