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周りが笑ってくれたらそれでいいと思ってた
小さい頃から誰かの笑顔が見られるならって、理由をいちいち正当化して自分で自分に言い訳してた。
泣きたいときも怒りたいときも全部自分のなかに押し込めた。
感情はコントロールするもの、ご機嫌は自分でとるもの。
それは・・・・自分じゃない誰かのために。
カタカタカタ・・・無機質な音が鳴り響く、とある企業のオフィス。
アラサー、社歴5年目のある社員は静かに鼻でため息をついた。
手元のキーボードが西日に照らされ、思うように進まないパソコンの画面を見つめながら、冷めたコーヒーを一口すすり先に業務報告を書き進める。
カタカタと進捗を打ち込みながら、残業確定の文字が頭に浮かんだ。
メール返信、顧客のリストアップ、受注確認、、、。
(とりあえず、報告はこれでよし)
コーヒーを流しに捨てようとおもむろに立ち上がると、周りの上司や同僚達は退社準備を進めていた。
「じゃ、帰るね。お疲れさま」
鞄を片手に、口角を上げた作り笑顔の上司からさらっと一声かけられる。
「お疲れさまです」
顔をあげ軽く会釈をしながら視線を戻そうとすると、後ろから「お先に失礼します」と、後輩や同僚達の声が聞こえた。
その声に振り向き「おつかれさま。また明日ね!」と笑顔で返す。
コーヒーを流し終わったあと、自席に戻り一息ついたあと、やりかけの画面を保存しながら、作業を進めていく。
以前、更新を忘れてデータがすべて白紙に戻り、ぶつけどころのないやるせなさを体験したからである。
カチカチカチ・・・プツン。パソコンの電源を切り「お先に失礼します」と残っている社員に声をかける。
本日の残業は一時間か・・・と心の中で思いながら、最寄り駅に向かった。
翌日、保存した資料をデータ化し、業務用チャットで上司へ確認をとる。
そして当日、上司や上役が出社している場合、業務内容をメールやチャットで送信した後、一声かけると好感触を得られる。
正直、面倒ではあるがやるとやらないでは全然違う。上司には積極性(やる気ともいう)を感じてもらえ、良好な関係性を築きやすい。
小さいことだが、それらをコツコツと積み重ねていくことで仕事がしやすい環境ができあがり、周りから助けてもらえることが増えていく。
ピコンッ。
電子音が鳴り、画面を確認する。
「チャット確認したよ。修正点はあるけど、だいたい良いと思う」
「ありがとうございます」
とりあえずOKサインをもらえたことに安堵する。一時間後に控えた会議に間に合わせるため、取り急ぎ修正し、更新をクリックする。
「ふぅ・・・」
ひと段落できたことで、思わずため息が漏れた。
定刻になり会議が開始されると、皆一同を緊張感が包み込む。
それぞれの報告を受けた上長から、さまざまな疑問や指摘などが飛び交い、進行はごたつき、担当は狼狽えながら回答する。
「それじゃ、次の会議までに用意しといてくださいね。本日は以上です。」
「ありがとうございました!」と一同で閉めると、今日一番のビックウェーブを乗り切った達成感と疲労感が襲って脱力した。
「今日は、まだマシだったね」とメンバーの一人が漏らすと、
「そうだね。あぁ疲れた」と残りのメンバーが返事をする。
毎度この緊張感を味わう会社員は、よく身がもっているとつくづく思う。
もっと自分たちを労ってもいいくらいなのに、誰もそんな我儘を言わないのは社会人としての当たり前なんだろう。
(ちょっと、気分転換しよ)
財布を片手に、コンビニへ向かいながら瞬間的な余暇を楽しむ。
風や光を感じると不安や、もやもやした気持ちがリセットされる気がする。
これが私の心の平和を保つコツ。
肩ひじ張らずに仕事と向き合えるようになっていけば失敗は過程の一部だと思えるし、くよくよする時間も減っていく。そんな自分なりの処世術が出来上がっていく頃には、対処は格段に容易くなった。
休憩を終えて会社に戻り、首をグルッと左右に回し、凝りを解す。
(もうひと踏ん張り、頑張りますか)
小さい声で自分を鼓舞して、やりかけの返信メールの続きを始める。
「相変わらず忙しそうだね」と別の部署の同僚女性が書類を手渡しながら、声をかけてきた。
「まぁね。今日お弁当じゃなければお昼どう?」
「あーごめん。今日つくってきちゃった。できたら事前に教えてくれると助かる」
「そっか。じゃあまた誘うね」
時計が12時を示す頃、周りの社員がぞろぞろと席を立ち始める。その雰囲気で、もう昼時だと察した。取り掛かり中の仕事を紙に書き出していきながら、今日は何を食べようかと思考はご飯のことで埋め尽くされていた。
(こんなもんかな)
周りを見渡すと同部署の社員はほとんどいなくなり、別部署の社員二人が電話応対していた。時刻は12時18分を知らせている。鞄を肩にかけ忙しそうな雰囲気に少しだけ申し訳ない気持ちを感じながら、足早に社内を出ていく。
今日はいつものやつでいいや・・・ボソッと一言呟き、コンビニでいつものやつと飲み物を選んで、レジに向かう。
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