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『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』:1968、アメリカ

 日曜日の夜。サマータイムのため、8時を過ぎても外は明るい。兄ジョニーと妹バーバラは車で共同墓地へやって来た。ジョニーが周囲に視線をやると、墓地の向こうの方で歩いている男がいた。
 墓参りを終えた後、ジョニーは子供の頃のことを語り、「奴らが迎えに来るぞ」とバーバラをからかった。彼は「見ろ、一人来たぞ」と、墓地を歩いている男を示して笑った。

 ジョニーは車へ向かって歩き出し、バーバラは男の横を通り過ぎようとした。その時、男はいきなりバーバラに襲い掛かった。ジョニーは慌てて助けに戻り、男と揉み合いになった。ジョニーは倒れた際に墓石に頭をぶつけ、死んでしまった。
 バーバラが車に乗り込むと、男は窓を激しく叩いた。男は石で窓を割り、バーバラを引きずり出そうとする。バーバラは車を発進させるが、木に激突して停まってしまう。バーバラは車を捨て、必死で走った。

 一軒家を見つけたバーバラは、中に駆け込んだ。ドアを閉めて辺りを見回すと、人の気配は無い。彼女は台所で包丁を手に取り、別の部屋を調べた。窓の外に目をやると、墓地の男が見えた。
 バーバラは電話を掛けようとするが通じない。また外を見ると、先程の男以外にも数名が家に近付いて来た。怯えながら2階へ行こうとすると、階段の上には女性の無残な死体が転がっていた。

 バーバラが慌てて階段を下りて外に飛び出すと、黒人青年ベンが立ちはだかった。彼は外にいるゾンビを確認すると、バーバラを屋内に連れ込んでドアに鍵を掛けた。
 「ガソリンが必要だ。車の鍵は?」と彼は訊くが、バーバラは放心状態で何も答えない。ベンは階段の上の死体を見つけた。「他の人に知らせないと。食べ物を探すよ」と言うが、やはりバーバラは何も喋らない。

 天井から血が滴り落ちたので、バーバラは慌ててベンの近くへ移動した。「何が起きてるの」と彼女は言い、外を見ると怪しげな2人の男たちがいた。
 「あいつらは大丈夫だ。他にも見たか」とベンが聞くと、バーバラは狂ったように「分からないの」と喚く。ベンは外に出て、バールで男たちを何度も殴り付ける。室内にも1人が侵入したが、ベンが激しく殴打した。

 さらに新たな連中が次々に沸いてきたため、ベンは居間に逃げて鍵を掛けた。彼は死体を一つ玄関の外に引きずり出し、他の連中が近付く前で火を放った。すると連中は炎を怖がって後ずさりした。ベンは屋内に戻り、明かりを付けた。
 ベンは「木かボードを探せ。補強する」と言うが、バーバラは全く動かない。ベンは「怖いのは分かるが、窓や扉を補強する。助けてくれないと」と言い含めるように告げる。ベンは補強作業を開始し、「今は火を恐れてるが、すぐに戻ってくる」とバーバラに告げた。

 バーバラが「兄を助けないと」と喚くので、ベンは「君の兄は死んだ」と告げる。バーバラが「兄は死んでない」と怒鳴って外に出ようとするので、ベンは殴り付けて気絶させた。
 ベンはラジオを付け、ニュースを聴いた。キャスターは「謎の暗殺者の群れによる殺人が流行。殺人は各地で行われ、パターンや理由は無い。大量殺人が急増している。政府の唯一のアドバイスは、鍵を掛けた家に入り、状況が分かるまで外に出るなということ」と告げた。

 ベンはトーチに火を付け、玄関の外に出したソファーを燃やしてゾンビを遠ざけた。彼が補強作業を続けていると、バーバラが意識を取り戻した。
 ベンはクローゼットでライフルと銃弾を発見し、「ここにいれば安全だ。いずれ誰かが助けに来てくれる。俺は2階へ行く」と告げて居間を出て行った。ラジオでは、キャスターが「殺人者は被害者の肉を食べている」と報じていた。

 2人の男が居間に駆け込んで来たので、バーバラは悲鳴を上げた。ベンが急いで下りて来るが、その2人は町から来た人間だった。今まで地下室に隠れていたのだ。一人は中年男のハリー、もう一人はトムという若い男だ。
 ハリーの妻のヘレンと娘のカレン、トムの恋人のジュディーは地下室に残っている。カレンは怪我をしているという。ずっと隠れていたことを批判するベンに、ハリーは「安全な場所にいるのに、危険を冒す必要がどこにある?誰かのために命を危険にさらせと言うのか」と反論した。

 ハリーは「地下に戻れば安全だ。奴らは補強しても壁を壊して入って来る」と言い、上の階を補強すべきだと主張するベンと意見が対立した。ハリーは「地下室なら1つのドアを守るだけで済む」と言うが、トムは「地下室だと奴らが入れば出口が無くて終わりだ。上なら外を見ることが出来る」と述べ、ベンに同調した。外に目をやると、うろついている連中の数は増えていた。

 連中の一人が窓から入って来ようとしたため、ベンはライフルで撃つが、死ななかった。脳天を撃つと、ようやく倒れた。ハリーは「全ての窓やドアから来るぞ。地下室に行くんだ」と怒鳴るが、ベンは「勝手に行け。俺はラジオや食料のために戦う」と鋭く告げる。
 トムはジュディーを地下室から呼び寄せた。ハリーは地下室に戻るが、上にラジオがあることを知ったヘレンは「下では何も情報が分からない」と夫の選択を批判した。

 ベンがテレビを発見したと知ったヘレンは、地下室を出ることを決めた。彼女はジュディーに頼み、しばらくカレンの様子を見てもらうことにした。ヘレンと共に地下室から出て来たハリーだが、ブツブツと文句を言った。
 テレビのニュースキャスターは、新しい情報として「死んだ人間が蘇って殺人を行っている」と報じた。そして新たな対処方法として、救済所が設置されて食料や医療が支給されるため、そこへ避難するよう勧告した。

 最寄の救済所であるウィラードまでは、たった17マイルだ。家の外にトラックはあるが、しかしガソリンが無かった。ベンはジュディーを呼び、シーツを探して小さく裂くよう指示した。火炎瓶を作るつもりなのだ。
 ベンは2階から火炎瓶を投げ、その間に2人がガソリンを取りに行き、迎えに戻るという作戦を立てた。トムはフルーツの瓶と給油ポンプの鍵を見つけた。

 ベンはトラックの運転に慣れているトムと共に、外へ出る役目を請け負った。彼はハリーに火炎瓶を投げる役目を任せた。ベンは火炎瓶をハリーに渡し、女たちを地下室に避難させた。
 ベンの合図で、ハリーが外に火炎瓶を投げた。庭に火が燃え広がり、生ける屍たちは怯えて遠ざかる。ベンは火の付いたトーチとライフルを持って外に飛び出し、トムはトラックに乗り込んだ。

 トムを心配したジュディーが「一緒に行く」と家を飛び出したため、ベンは「来るなら早く来い」と叫んだ。ジュディーが助手席に入り、ベンはトーチで生ける屍たちを威嚇しながら荷台に飛び乗った。彼らはトラックでポンプまで走り、給油しようとする。だが、トムは誤ってガソリンを漏らし、車に火が付いた。
 トムはジュディーを乗せたまま、ポンプから離れようとトラックを走らせた。外へ飛び出そうとするが、ジュディーの服が引っ掛かった。彼女を助けようとしたトムも逃げ遅れ、2人は爆死した。

 取り残されたベンは、トーチで生ける屍たちを威嚇しながら家へと走る。ベンがドアを開けるよう叫ぶが、ハリーは怖がって動かない。ベンはドアを蹴破り、中から木を打ち付けて封鎖した。ベンはハリーを激しく殴り付けた。
 生ける屍たちはトラックに近付き、トムとジュディーの死体から肉を千切って貪り付いた。彼らは家に近付き、窓を破って中へと手を伸ばしてきた…。

 監督はジョージ・A・ロメロ、脚本はジョン・ルッソ&ジョージ・ロメロ、製作はラッセル・W・ストライナー&カール・ハードマン、特殊効果はレジス・サーヴィンスキー&トニー・パンタネロ。

 出演はデュアン・ジョーンズ、ジュディス・オディア、カール・ハードマン、マリリン・イーストマン、キース・ウェイン、ジュディス・リドリー、カイラ・ショーン、チャールズ・クレイグ、ビル・ハインツマン、ジョージ・コサナ、フランク・ドーク、ビル・“チリー・ビリー”・カーディル、A・C・マクドナルド、サミュエル・R・ソリート、マーク・リッチ、リー・ハートマン他。

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 それまで映像製作会社でCMを作っていたジョージ・A・ロメロ監督のデビュー作。撮影担当として個人ではなくラテント・イメージという会社が表記されるが、これはロメロ監督が友人と共にやっていた映像製作会社の名前。実際に撮影したのはロメロ監督だ。
 興行的には失敗したが、後にカルト映画として高く評価されるようになり、現在ではニューヨーク近代美術館にもフィルムが保管されている。後にカラー化されたヴァージョンも出たが、オリジナルは白黒映画。

 最初に日本でフジビデオから発売されたビデオ版の邦題は『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』で、次にCICビクターから発売された際に『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド/ゾンビの誕生』とサブタイトルが付けられた。パイオニアからレーザーディスクが発売された際は『生ける屍の夜』という邦題だった。
 後に本作品の30周年を記念して、15分の追加撮影分を加えて再編集した最終版も作られているが、それにはロメロ監督は全くタッチしていない。

 ホラー映画という枠に留まらず、映画史に残るエポックメイキングな存在である本作品を、ロメロ監督はリチャード・マシスンのSF小説『地球最後の男』から着想している。
 人種差別や戦争批判といった社会的・政治的メッセージが含まれているという見方をする評論家もいたようだが、最初からそういう企画だったわけではない。知人のツテでプロの俳優であるデュアン・ジョーンズを起用できることになり、彼が黒人だったことで、おのずと黒人差別という社会問題が盛り込まれることになったのだ。何しろ当時は、黒人が主演するというだけでも大きな問題になる時代だったわけだから。
 ロメロ監督が最初から「社会問題をテーマにしよう」と決めて製作に入るのは、1978年の第2作『ゾンビ(Dawn of the Dead)』からだ。

 ゾンビ映画の金字塔であり、その後のゾンビ映画に大きな影響を与えた作品だが、最初のゾンビ映画ではない。映画の世界で初めてゾンビが登場したのは、怪奇派俳優ベラ・ルゴシが主演した1932年の作品『恐怖城』であり、その後も本作品までに複数のゾンビ映画が作られている。ただし、それらは全てブードゥー教におけるゾンビの定義に基づいたものだった。

 この作品がゾンビ映画のパイオニアと呼べるのは、ゾンビという存在を完全にブードゥー教から切り離したからだ。ここに出て来るゾンビは「ゾンビ使いによって操られる」という呪術的な要素とは無縁で、単なる「生ける屍」である。
 本作品ではゾンビという言葉は一度も使われていない。「Living Dead」である(製作している間は仮に「グール」として呼ばれていた)。ロメロ映画における「生ける屍」がゾンビと呼ばれるようになったのは、『ゾンビ』からだ。

 今では当たり前となっている「人肉を食らう」「脳を破壊しない限り何度でも起き上がる」「噛まれた人間はゾンビ化する」というゾンビ三原則の他(これを三原則とするかについては異論もあるようだが)、「言葉を喋らず知性を持たない」「筋肉が硬直しているので動きは緩慢」といったゾンビ映画のルールは、この映画によって確立されたものだ。その後のゾンビ映画は、ロメロが構築したそれらのルールに基づいて作られるようになった。

 21世紀に入ってからのゾンビ映画は、ゾンビが機敏な動きを見せるケースが多い。だけどゾンビの持っている怖さって、そういう類のものじゃないように思うんだよね。「のっそりとした動きで集団が近付いてきて、これから逃げられるだろうと思っていたら、いつの間にか囲まれて捕まっている」という怖さなのよ。頭が固いのかもしれないが、速いゾンビには抵抗感がある。

 バーバラは最初に登場するけど、主役ではない。集団の中心にいるのはベンだ。ただし、じゃあ彼が主役かというと、それも微妙なところではある。まあ「主役は誰か」と問われたら、ゾンビってことになるわな。
 で、そのバーバラは、家に辿り着いてベンと会うまでは、少し悲鳴を上げる程度で、全く喋らない。余計なことを言わないのは、スリルを盛り上げるためには吉。ただ、その後も彼女はずっと放心状態になっちゃうんだよな。

 バーバラが何もせずにボーッとしてる時間があまりにも長いので(長いというレベルじゃなくて、それが死ぬまで続く)、次第にイライラしてくる。怖くて放心状態が続いているという表現なのは分かるんだけど。
 しかも、ただ放心しているだけじゃなくて、ベンに向かって「兄は死んでない」と喚いて外に出ようとしたりするので、ますますウザい存在になっていく。話が進む中でバーバラがどんどん脇へ追いやられていき、存在感が薄くなるので、そのイライラも薄れていく。

 閉鎖された環境の中で精神的に追い詰められて行くという密室劇である。ゾンビ化した少女が母親を殺す、終盤に登場した人間たちは狩りでも楽しむかのようにゾンビを殺して行く、最後まで生き残った男はゾンビと間違えられて射殺されるといった、当時はタブー視されていたであろう描写が幾つも盛り込まれている。
 その最たる要素は、やはりカニバリズムということになるだろう。

 何の説明も無く、いきなりゾンビが襲ってくるという導入が良い。何が何だか良く分からないからこそ、得体の知れない存在だからこそ怖いのだ。
 登場した段階では、「いきなり襲ってくるワケの分からん男」でしかない。それがキチガイ殺人鬼なのか、非人間なのかさえ分からない。まあタイトルにLiving Deadとあるから、バレバレっちゃあバレバレなんだけどさ。

 ともかくLiving Deadであろうとゾンビであろうと、どうせ荒唐無稽な存在なのであり、そこをいちいち説明すると陳腐になってしまう。
 だから、途中で「会議では宇宙の専門家やグライムズ博士たちが呼ばれている。ヴィーナス探査衛星が地球に戻らなかった。不思議な放射能が発見されたためNASAによって破壊された」などと、宇宙放射能の影響によってゾンビが誕生したことを示唆するような説明が入ってくるのだが(特定はしていない)、そういうのも要らないんだよね。そんなのは無粋だよ。

(観賞日:2010年5月4日)

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