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【365日のわたしたち。】 2022年3月28日(月)

「明後日には出発だねぇ」

彼の手をブンブンと振り回しながら私は話しかけた。

「そうだね、受験終わってから、あっという間だったな」

そう返す彼の手は、私にされるがままに振り回されていた。


このまま彼の手を持って帰りたい。

なんて、恐ろしい願望が頭を掠める。



昨日から春らしい陽気となり、近所の公園の桜も一気に花を咲かせていた。

今日はそれを彼と二人で見にきたのだ。
これを最後に数ヶ月は会えないかもしれない。


「またこの桜を二人で見れるかなぁ」

「そうねぇ。まぁ、ここの桜じゃないかもしれないけど、来年は大阪の桜を二人で見てるかもよ?」

彼は希望に満ち溢れた表情で私に笑顔を向けた。

私も彼を見上げながら、何も言わずに微笑み返す。


それじゃ、意味がないんだよ。

そう心の中で呟きながら。


彼が大阪の4年生大学を目指しているのは、大学3年になった5月に知った。

私は地元の専門学校を目指していたので、自ずと離れ離れになる未来が見えていた。

大阪に彼が行くなら...と私も大阪の専門学校を探したけれど、学費も高い上に、地元にそれなりに有名な専門学校があったため、

「なんでわざわざ倍率も高くて、お金もかかる大阪の方に行きたいのよ?」

という母の問いに納得のできる回答を提示できず、撃沈した。


「休み全部帰ってくるのは難しいかもだけどさ、バイトも始めるし、できるだけ帰る機会作るようにするから。大阪遊びに来てくれたらうちに泊まってくれていいし。俺たちなら大丈夫だよ」

そういって彼は私の手をぎゅっと強く握った。

「うん。そうだね」

どうしてだろう。

私を置いていく彼もきっと寂しいはずだろうに、なぜこんなにも彼から悲しさを感じられないのだろう。

置いていくのと、置いていかれるのは、どっちが寂しいだろう。

昔読んだ漫画で誰かが問うていた。

私たち二人の場合は、置いていかれる私の方が寂しいのかもしれない。



大阪での生活が、楽しくなければいいのに。

そう心の中で呪いをかける私に、

「桜、きれいだね。」

と、彼は無邪気に笑いかけてきた。






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