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【児童発達支援センターB園④】障害のある子どもたちから学んだ「人生の可能性」

このnoteでは、女の子として生まれ、「ちいちゃん」と呼ばれて育ってきたかつての自分。男性として生き、「たっくん」と呼ばれ、福祉の専門家として働いている今の自分。LGBTQ当事者として、福祉の現場に立つ者として、「生」「性」そして「私らしさ」について思いを綴ります。(自己紹介もぜひご覧ください)
前回に引き続き、A乳児院から異動を命じられ、勤めることになった児童発達支援センターB園のことを中心にお話しさせてください。

26歳の時に乳児院から異動した児童発達支援センターB園には、身体、知的または精神に何らかの障害のある子どもたちが、毎日それぞれの自宅から通ってきました。

私たち保育士は、保護者と2、3か月に一度面談(療育相談)を行い、子どもについて気がかりなことやこれからの療育の見通しについて話し合いました。

面談の相手は、お母さんが多かったです。

B園に異動してすぐ、私は、3人の子どもの主担当になりました。子どもの世話だけでなく、保護者との療育相談も私が中心になって行わなければいけません。一番最初の療育相談は先輩の保育士が同席してくれましたが、2回目以降は私だけで応対しました。

障害のある子どもたちと接するようになってまだ間もない私に、保護者対応ができるのだろうか。最初は不安しかありませんでした。「あなた、障害のある子どものこと、何も知らないじゃないの!」「障害のある子どもを持つ保護者の気持ち、わかっているの?」。そんなふうに叱られたらどうしよう……。

ところが、私が担当した子どものお母さんたちは、どなたも私を快く受け容れてくれました。今思うと、園長や主任、クラスの担任のリーダーの配慮で、コミュニケーションしやすいご家庭を担当するようにしてくれたのかもしれません。お母さんたちは、専門性がまだまだ十分ではない私に、子どもの家庭での様子をわかりやすく説明し、そして子どもの発達について私の考えを聞いてくれました。

田崎先生は若くて経験も知識も乏しいけど、この人が私の大切な子どもの担当なのだから、しっかり関係性をつくっていこう。そんな大きな心で私に向き合ってくれたように感じました。まだまだ頼りない保育士の私を、そのまま受け容れようとしてくれていたと思います。

療育相談では、子どもに関するすべてのことが話題になりました。「家ではトイレに行きたがらない」「なかなか言葉が出てこない」「食事の好みが偏っていて同じものしか食べない」などなど……です。「自宅では全裸で過ごしたがるのだけど、どうすればいいだろうか」といった相談もありました。

専門知識がまだ十分ではなかった私ですが、園の様子を交えながら「好きなキャラクターのイラストをトイレに貼って、お気に入りの歌を歌いながら連れて行ってあげると、トイレが嫌な場所ではなくなるかもしれません」「食べなくてもいいから、家族と同じメニューを本人の前に並べて、触ってみたり、ひとくち食べてみたりしたときにたくさん褒めてあげてみてはどうでしょう」など、家庭をその子の育ちにとってよりよい環境となるよう、助言をしていきました。

お母さんから教わることもたくさんありました。特に印象に残っているのは、応用行動分析(ABA)について熱心に勉強していたあるお母さんです。ABAを簡単に説明すると、自閉症や発達障害の子どもの問題行動を改善する方法の1つで、子どもにしてほしい行動、してほしくない行動それぞれのきっかけに注目し、してほしい行動が出やすくなり、してほしくない行動が出にくくなるような働きかけを行うものです。叱ったりせず、よい行動ができたら褒めたり、子どもの好きなものをあげたりして望ましい行動を強化していきます。

B園に来たばかりの私は最初、「できたら褒めるって、そんなことで子どもが変わるのかな?」と正直、信じられない気持ちもありました。ところが、お母さんがABAを実践し、数か月経つころには、子どもの様子が明らかに変わってきたのです。

障害のある子どもたちも、1人ひとり個性を持っていることはもちろんわかっていました。しかし、障害があっても、まだまだそれぞれできるようになることがあるということは、その時の私はわかっていなかったのでしょう。だから、その時に見た子どもの成長は私にとって本当に衝撃的でした。療育についてもっと知りたい、もっと勉強したいという気持ちが芽生えました。

障害のためにできないことがたくさんあるように見える子どもたちにも、できることはたくさんあること、それぞれに可能性を秘めていることを、私はお母さんたちから学びました。

障害を現実のものとして受容しながらも、それぞれの人生の可能性を広げていくということについて、次回、もう少しお話をしたいと思います。

※私が「障害」を「障がい」と記さない理由は、こちらをご覧ください。

【児童発達支援センターB園のこれまでのストーリーはこちら】

【前シリーズA乳児院の物語もあわせてどうぞ】


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