見出し画像

女性として生まれ、男性として生きる彼と、私が結婚した理由②

このnoteでは、女の子として生まれ、「ちいちゃん」と呼ばれて育ってきたかつての自分。男性として生き、「たっくん」と呼ばれ、福祉の専門家として働いている今の自分。LGBTQ当事者として、福祉の現場に立つ者として、「生」「性」そして「私らしさ」について思いを綴ります。(自己紹介はこちら)
今回は、トランスジェンダー男性である私の「妻」が、私との出会い、そして結婚に至るまでを語ります。(前回noteはこちらから)異性愛者であった彼女が、身体は女性だけれども心は男性の私をどのように受け容れていったのか、彼女の正直な言葉を聞いていただければと思います。
彼女との出会い、プロポーズについては私もこちらでお話ししています。

■初めて彼とセックスしたときの気持ち

彼(田崎智咲斗)から「自分は女性として生まれたが、心は男性だ」「近い将来、性別適合手術を受けるつもりだ」と聞いたとき、「女から男になるなんて、そんなことできるの?」と少し驚きました。

彼が「身体は女性で、心は男性」であることは既に知ってはいましたが、トランスジェンダーについて私は何も知りませんでした。トランスジェンダーが周囲にいなかった、いえ、周りにいたとしても気がつかなかったからです。

ただ、私は、彼のカミングアウトを聞いても、特に彼のことをかわいそうだとか、大変な人生を送ってきたのだとか、ましてやすごい人だとか、そんなふうに思うことはありませんでした。彼の言葉を聞き、ああ、そうなのかと思っただけでした。

性別適合手術についても、「そんなことできるの?」とは思いましたが、それ自体は彼の問題であり、私は賛成でも反対でもありませんでした。彼が考えて決めたのだろうから、手術をしたいのであればすればいいと思いました。

そもそも彼と結婚することになるなんて、想像もしていませんでした。だから、手術をしようが、性別を変えようが、私には関係のないことでした。正直に言えば、「トランスジェンダーなんて、そんなややこしい人と結婚するなんてありえない」と思っていました。

それでも、私たちは友人として、それまでと変わらず、一緒の時間を過ごしました。前の彼氏と別れた悲しみで、感情がコントロールできなくなることもある、はっきり言えばめんどくさい状態だった私に、彼は根気強く向き合ってくれました。

私にとって彼は、女友達でもないし男友達でもない。もちろん彼氏でもない。不思議な存在でした。

初めて彼とセックスしたときも、特に大きな感動はありませんでした。一緒に寝ていて、彼が私に触れてきて、その時私がたまたま「セックスしてもいいかな」と思い、彼の行動を受け容れただけです。

それまで私は、「男性」としかセックスしたことはありませんでした。でもあのときは、相手が男性であるか女性であるかとか、ましてトランスジェンダーであるかとか、そんなことはどうでもよかったのです。あれこれ考える以前に、今、私は、この人とセックスしてもいいという気持ち、性欲があったから受け容れたのだと思います。

セックスってそういうものではないでしょうか。自分がしたいときに、したい人とする。自分がしたくない相手とはしないし、自分がしたくないときにもしない。

だから、初めてセックスしたあと、私は彼に、「今回は『してもいい』と思ったから受け容れたけど、これからいつもあなたの気持ちを受け容れるというわけではないからね」とはっきりといいました。その考えは、結婚した今も同じです。

■依存しない。ただそのままを受け止めてもらっている

「トランスジェンダーなんて、そんなややこしい人と結婚できない」と思っていた私が、なぜ彼(田崎)のプロポーズを受け容れたのか、自分でもはっきりした理由はわかりません。

私は、今までの彼氏に対しては、「好きで好きで、どうしようもない」というくらいのめり込んでいました。しかし、彼(田崎)に対しては「好き」という感情を意識することがありませんでした。

彼に対して感じていたのは「好き」という感覚よりも、「この人は、この先、自分に何があっても受け止めてくれるだろうな」という安心感でした。彼氏ではなく、家族という感覚でした。

だから、彼からプロポーズされたときも「この人と家族になったらいいだろうな」と思いました。

婚約記念の指輪

私は、今までの彼氏に対しては「この人さえいれば、ほかは何もいらない」という感情を抱いていました。彼氏の存在がすべて。言い方を変えれば、彼氏に依存していました。

しかし、私は、彼(田崎)に対して依存することはありません。トランスジェンダーという、私にはよくわからない相手、決して理解することはできない他人である彼は、ずっと私とは別の人格を持つ一個人でした。彼のしたいこと、例えば性別適合手術も、彼がしたいのならすればいい。私には関係がない。そんな間柄だからか、私は彼に依存することがありませんでした。

私は私で、彼は彼。でも、何があっても必ず近くにいて、私の話を聞いてくれる。それが彼なのだと思います。

私は彼に依存していません。しかし、私のそのままをまるごと受け止めてもらっていると思います。いままでの彼氏も、私のことを受け止めてくれていたのかもしれませんが、でもそれは多分表面的なことであって、私がそういうふうに思い込んでいただけなのだと思います。彼(田崎)は、この先、私に何があっても、私は私でだいじょうぶだと思わせてくれるのです。

でも、そんなことは今だから言葉にできるのであって、プロポーズをされた時は、そんなに深く考えていませんでした。「まあいいか」「何かあれば離婚すればいいし」。そんな感じでした。

プロポーズを承諾してからも、私は時折、「普通じゃない人と結婚することになったな」とふと思うことがありました。でも、一緒に生活する中で、確かに彼は性に関しては普通ではないけど、そのほかのこと、例えばものの考え方などは全く普通、真っ当だと強く思うようになりました。「普通じゃない」のはむしろ私の方なんじゃないかなとすら思います。

プロポーズから2週間ほど後、私は彼とともに、実家を訪ねました。彼と結婚することを決めたことを両親に伝えるためです。彼がトランスジェンダーであることも、その時に初めて伝えました。

〈彼女の両親が私たちをどう受け容れたのか、10月12日の投稿で彼女がお話しする予定です。(田崎)〉


【田崎の視点で描かれた妻とのエピソードはこちらから】

【これまでのマガジンはこちらから】


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?