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女性として生まれ、男性として生きる彼と、私が結婚した理由①

このnoteでは、女の子として生まれ、「ちいちゃん」と呼ばれて育ってきたかつての自分。男性として生き、「たっくん」と呼ばれ、福祉の専門家として働いている今の自分。LGBTQ当事者として、福祉の現場に立つ者として、「生」「性」そして「私らしさ」について思いを綴ります。
今回は、トランスジェンダー男性である私の「妻」が、私との出会い、そして結婚に至るまでを語ります。異性愛者であった彼女が、身体は女性だけれども心は男性の私をどのように受け容れていったのか、彼女の正直な言葉を聞いていただければと思います。
彼女との出会い、プロポーズについては私もこちらでお話ししています。

■トランスジェンダー? 私には関係ない。

彼(田崎智咲斗)が、身体は女性だけど、心は男性であるトランスジェンダー男性であることは、彼と出会う前日に知りました。共通の友人がメールで「明日デイキャンプで会う田崎は、男に見えるし、実際、心は男だけど、身体は女だ」「お金が貯まったら性別適合手術を受けて、身体も心も男になろうとしている」と、聞いてもいないのに私に教えてくれました。

これは、絶対にやってはいけないアウティング、他人の秘密の暴露です(ちなみに、その友人は後日、アウティングがやってはいけないことを理解しましたし、今でも私たちのよい友人です)。

しかし、彼がトランスジェンダー男性であることに、私は全く関心を持ちませんでした。友人のアウティングを聞いても、そんな他人のことはどうでもよい、私には関係ないことだと思いました。というのも、デイキャンプのほんの数日前、私は4年以上付き合っていた男性と別れたばかりだったのです。

その頃の私にとって、その男性は私の人生のすべてでした。少なくとも当時はそう思っていました。その男性と別れた直後の私は、人生が終わったような、先のことも今のことも全く考えられない状態でした。だから、会ったこともない彼(田崎)がトランスジェンダー男性であるとか、そんなことはどうでもいいことでした。

たぶん断る気力すらなかったから、私は、デイキャンプに参加しました。抜け殻のような状態で、彼と出会ったのです。

初めて会った日、すでに私が、彼が女性として生きてきたこと、今も身体は女性であることを知っているとは、彼には夢にも思わなかったでしょう。彼は、男性として振る舞っていました。

そんな彼を見ても、「わあ、トランスジェンダーだ!」とか「ホントに男の人みたい!」といった興味、感動は私には一切ありませんでした。私には関係ない、どうでもいい。そんな気持ちだったと思います。大切な男性と別れたばかりでそれどころではない。そもそもトランスジェンダーに対して、性の多様性について、全く知識も、そして関心もなかったのです。

■理解もしなかった。理解しようともしなかった。

彼とはデイキャンプ後、よく一緒に食事に行くようになりました。誘ってくるのはいつも彼でした。「どこに行きたい?」と聞かれるので、私は「……じゃあ、ここはどう?」と答えるくらい。彼との時間は嫌ではありませんでしたが、私になくてはならない時間というわけでもありませんでした。

初めてのお出かけはUSJ

一緒にいる時間はどんどん増えていきました。彼との時間はただただ楽しかったのです。しかし、それでも、彼のことを「彼氏」というふうに思ってはいませんでした。一緒にいる時間の長い仲の良い友人。そんな感じでした。


そもそも、私は、それまで付き合っていた男性のことを忘れることができていませんでした。彼(田崎)と一緒にいるとき、ふと昔のことを思い出し、悲しみのスイッチが入ってしまい、自分の感情をコントロールできなくなることが何度もありました。はっきり言って、一緒にいる相手としては最悪だったと思います。それでもなぜか、彼は私から離れようとせず、いつもそばにいようとしました。

友人に「男性としか付き合ったことがないあなたが、トランスジェンダー男性をどのように理解し、受け容れていったのか?」と聞かれたことがあります。私は、そもそも彼のことを理解していなかったと思います。理解しようとも思いませんでした。

私は彼と出会う前に、友人のアウティングによって彼がトランスジェンダー男性であることを知っていました。しかし、そのことを知らない彼は、ある時、私に自分がトランスジェンダー男性であることをカミングアウトしようとしました。

私は、彼のただならぬ雰囲気からカミングアウトしようとしていることを察知し、「聞きたくない!」と言いました。私には関係のないことなのに、知ってしまったら、彼の人生を一緒に背負わなければいけなくなるのでは……そんな恐れから「聞きたくない!」と私は言いました。押し問答が続きましたが、彼の「背負わなくてもいいから!」という言葉に根負けして、すでに知っていた彼の秘密を聞くことを渋々承知したのです。

彼が、私とずっと一緒にいたいという思いから、カミングアウトを選択したのだということは私にもわかりました。でも、私は、「この人と結婚なんてありえない」と思いました。言葉を選ばず率直に言えば、「こんな特別な人、ややこしい人と一緒になれない」「世間体だってある」。そう考えました。

だから、私は彼のことを「理解した」などと言える状況ではありませんでした。「理解しよう」という気持ちもありませんでした。本当に、聞いただけでした。

ただ、彼のカミングアウトを聞いた後も、私たちはそれまでと変わらず、一緒の時間を過ごしました。私にとってはややこしい彼の告白を聞いた後も、彼とのかかわり方、彼に対する感情は何も変わりませんでした。一緒にいて楽しい、心地よいことだけは確かでした。

2人でイルミネーションを見に

特別近くなるわけでもないけど、遠ざかっていくわけでもない、そんな関係が続いていきました。そして、なぜ彼と一緒にいると心地よいのか、私はその理由が少しずつわかってきたのです。

〈彼女の言葉は次回も続きます。9月29日に投稿する予定です。(田崎)〉

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