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夜の占い師Tarosu1:お師匠と私

今年五月、Kindleで出版した「夜の占い師Tarosu1:お師匠と私」をnote向けに再編集しました。内容はKindle版と同じです。
一章の途中までは無料で読めますので、よろしければどうぞ。

(1)出会い

私の師匠は占いの技術を教えようとしない。他の弟子には教えるにも関わらず、私には教えないのだ。

大阪に近い兵庫の高級住宅街・芦屋。ここはかつて、震災で最も被害を受けた地域の一つだ。北側にある六甲の山々。南に広がる市街地、そして海。
風光明媚な街の中に、いかにも豪邸と言うのに相応しい邸宅が立ち並ぶ。
春の嵐が吹きつく午後、私はこの邸宅近くにある喫茶店で、私の大学時代の友人のタカシと久しぶりの交友を温めていた。

「彼女とすれ違ってるみたいけど、自分の立場をきちんと説明しなきゃね」
「そうだよね」
タカシは長く付き合っている彼女と結婚を考えているのだが、最近はお互いに忙しすぎてちゃんと会話が出来ていないことが見えて、タカシの彼女が疑心暗鬼になっていることが見えたのだ。
「しばらく会ってないのに、凄いね。なんでわかるの?」

私は占いを始めて二年。遊びでやっていた占いが当たると評判になり、社会人になってからも、口コミで占いの相談を受けることを事にしていた。
そんな中、タカシも久しぶりに話すがてら、占いをして欲しいとの相談で芦屋まで来たのだ。

「今日はありがとう。また会った時も今度占いしてくれへん?」
「うん。もちろん。また会おう!」
夕方前になってタカシを見送り、私も車を走らせる。
芦屋の邸宅の家と家の間の距離に驚きながら、時間もあったので少し回り道をしながら運転をすることにした。
車にはカーナビがなく、助手席に置いていた地図を開けようと車を止めて、辺りを見回すことにした。

すると、前方の一軒家に不思議と惹かれる看板があった。看板の背景が黒く、その上に白地の毒々しい個性的な筆記体の文字。
何かの宗教なのか?そう勘違いさせるぐらいの違和感を漂わせる、それはそれは不思議な看板だった。

「占いStellato」

看板をしっかり見たくて、私は少し車を動かしてみると、別の看板の右下に小さくこう書いてあった。

「タロット占い、教えます」

私は改めて驚いた。こんな所でタロット占いを教えるのか?しかもこんな山あいの場所に誰が占いの相談に来るのだ?
私はいくつかの疑問を持ちながらも、あの個性的でインパクトのある看板、そして占いを教えると言う言葉が忘れられず、後日この館に行こうと決めたのであった。

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