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【防災】台風直撃中に母を屋外に締め出したあの日のわたし

タイトルだけ見るとただの犯罪者である。とはいえ、1才の私が実母に行った実話(らしい)。
台風9号と10号が立て続けに九州に接近している今、台風が来るたびに母が私にキツく言って聞かせる話を書き留めておこうと思う。


私は1才、父の転勤で私たち家族が大分県に住んでいたときのことである。凄まじい台風が九州に上陸した。東北で生まれ育った母にとって、台風とはテレビを通して見聞きする災害であり、土地勘がなかった九州における台風の威力については想像もしていなかったと察する。近隣の住人に倣って、ベランダのプランターを屋内に入れたり食料を買い込んだりと、母なりに最大限の準備をして家にこもった。

ここまでは良かった、ここまでは。
普段は外に置いていたゴミペールを屋内に入れたことで、生ごみの臭いが気になった母。マンション共有のゴミステーションは目と鼻の先。「今ならまだ間に合う」と暴風域突入のわずか1時間前にエプロン1枚羽織っただけの軽装で可燃ゴミの袋を持ってサンダルで走った。

ゴミを捨てて家へ戻ろうとしたとき、玄関の扉の向こうから1才の私が後追いして呼んでいる声が聞こえたという。「ごめんごめん」と家に入ろうとした瞬間、カシャンと錠の落ちる音がしたのだそうだ。オートロックでもない扉。まさか1才が誤って施錠してしまうなど、どうして予想できようか。母の後を追いかけようと扉に手を伸ばした私の手はドアノブにつかまることなく鍵へ、そして施錠してしまったということらしい。

「開けて!鍵しまっちゃったみたい、開けて!」と扉の外から私に声をかけるも、1才の私は母の細かい指示など分からないし、なによりすぐそこにいるはずの母がどうして入ってこないのか分からず泣きわめいた。そうこうしているうちにあっという間に暴風域に突入。記録的な威力で九州に上陸した台風は駐輪場のトタン屋根や家屋のシャッターを巻き上げていく。剥がれた瓦がザザザザッと大きな音を立ててアスファルトに火花を立てながら道路を転がりまわっている様子が、映画やドラマではなく現実で起きているということに目を見開いたそうだ。「開けて!開けて!」と言う声さえも風にかき消され、扉にしがみついていたという母。暴風に飛ばされて宙を舞う木の枝や割れたガラスが自分めがけて飛んでくるように見えたというし、なにより油断すると自分自身が飛ばされそうだったと話す。私は私で、自分が締め出してしまったことに気が付かない1才。母に会えない理由が分からずただただ「ママァ!」と泣いていたらしい。

母によると、再び鍵に手を伸ばした私によって戸は開いた。母がゴミ出しに出てから2時間が経っていたと聞いている。扉が開いた瞬間てっきり私を抱きしめてくれたかと思いきや、「叩かない育児」を誓っていたという母が初めて私の頭を殴ったのはこの瞬間だったそうだ。かわいそうな私。それ以上にかわいそうな母。それからはどんなに近場でもどんなに短時間でも必ず私を連れ歩くようになったというが、むしろ正しい対応かもしれない。

ちなみに父は、終電で帰宅できればいいというほど連日連夜働きづめで、携帯電話もなかった時代の話である。


強い台風が来るたびに母は私にこのエピソードを話してくる。聞くたびにいつも「お隣さん宅にピンポンして入れてもらったらよかったのに」と内心思っていたが、昨年 娘ができて初めて分かった……家には、1才の娘がひとりでいる、ということに。後追い真っ盛りの娘を置いてその場を離れることなど、私だとしてもできないと身にしみて感じる。


このnoteを書いている今も、窓の外では風がヒュルルルと大きな音を立てて雨粒を巻き上げている。朝一番に母から電話があり、今年もひとしきり母なりの防災術について説教があった。毎年同じ話だが、娘がいると例年とは違って聞こえる。守らなくてはならない存在がいる中で聞く防災の話はとてもタメになった。

せっかくなので、明日は後編としてそんなわが家で用意している防災について少し現状をご紹介できたらと思う。

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台風による被害が最小限で済みますように。荒くなっていく風の音を聞きながら、私はこれから窓にテープを張ろうと思う。

2020/09/02 こさい たろ

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**わが家の防災対策(後編)


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