野咲タラ

小説、zineなど ●n0sakitara@gメール.com

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最近の記事

2022年作品リスト

2022年お世話になりました。2022年に書いた作品リストです。 ・SFメディアのVG+にて「透明な鳥の歌い方」を掲載いただきました。 「透明な鳥の歌い方」は、枯木枕さんの「となりあう呼吸」という小説と世界観を共有する作品の公募が行われ、応募した小説が採用となり、改稿した作品です。 また「灰は灰へ、塵は塵へ」は、同時に掲載された暴力と破滅の運び手さんの作品です。 寄稿しました 。 ・島アンソロジー『貝楼諸島より』「象渡り」 象SFです。 ・超短編小説アンソロ

    • KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭『TANZ』批評:内臓を再発見させるための装置

       フロレンティナ・ホルツィンガーの演出する『TANZ』はロマンティック・バレエを題材にした舞台である。 1.学習  『TANZ』の冒頭、舞台中央で一人の女性がお腹の中から長い内臓をかき出していく場面の後、年長の女性が先生役として登場し、生徒役の若い女性ダンサー達にバーレッスンを行うところから始まる。この文章はそれに倣い、普段は分厚い身体に覆われて見ることが出来ない内臓のような、伝統に覆われたバレエの歴史を復習することになるだろう。『TANZ』は比喩としてのロマンティック・バ

      • 映画『共同性の地平を求めて』の感想

        岡山映画祭2022で『共同性の地平を求めて』(1968・1975 能勢伊勢雄)を観た。 『共同性の地平を求めて』は荻原勝という造反教員のモノローグの映画だ。荻原氏は1968年岡山大学の学園紛争で学生側に味方して、沈黙の講義をした人物。教員側からも学生側からも孤立した。そのような状況を生きていた中で荻原氏から語られ、掬い上げられた言葉には、本当の孤独と共同とはなにかについての考察が記録されている。 モノローグ。現代に溢れている言葉が、SNSやチャットが全くモノローグではない点を

        • 【掌編】死神の手

           神の手と呼ばれているその二つの手の一方は快楽をもたらし、もう一方は美を生み出す。しかし、その二つは死を誘う。二つの手は共犯者である。ゆえに死神の手とも囁かれている。けれど誰もそれを恨むどころか、喜び、讃えるばかりだ。快楽と美しさを引き換えに死へ向かうことを人々は厭わない。どうせ死ぬのなら。それは見捨てられた世代の、常に死へ向かう者のささやかな欲望と、そして抵抗だった。それが刺青だ。  刺青は崩れやすく柔らかい身体には容易に入れることが可能だ。身体の特徴が生かされ、いつも新し

        2022年作品リスト

          富士山は三つになった

           六月半ばの週末に東京方面の展覧会巡りをした。京都から夜行バスで朝の東京駅に着いて、そのまま朝からやっている御徒町の銭湯へ行き、新幹線の車窓から見るはずだった富士山を湯けむりの中で見た。  最初に向かった展覧会は、DIC川村記念美術館 「カラーフィールド 色の海を泳ぐ」だった。広い庭を通って建物に入り、企画展を第二会場から見たのは偶然だった。でも、それが良かった。空間に大きな絵が飾られているのは、ぼやっとした形と色の大きな抽象絵画が並んでいた。意味、形、ぼやっとした絵画は好き

          富士山は三つになった

          水になることについての考察

          1.ピキ、、ピシ、、、 前日、一昨晩冷凍庫に入れて、翌朝取り出した水を入れただけのペットボトルは、 蓋を開けてみると中の側面に雪の樹枝状結晶の一片のような、ギザギザの小さな羽の形をした、柔らかい柱が立っていた。美しい形をずっと眺めていようとしたつかの間、視線はすぐに霜を解かす。見ていたものが消えてなくなったあと、ペットボトルからすぐに、澄んだ高い鮮明な音が一つ鳴った。一つなるとそこからさらに氷が溶ける音が盛んに鳴り出す。小さな氷が溶ける聞き馴染みのない音は思いの外に大きな音で

          水になることについての考察

          【小説】白い猫と青い砂

           成人式を迎えるオーブンレンジを買った。二〇〇三年製。二十歳というと人間で言うとただの大人だけれど、猫の年齢に換算してみたら、もういい年寄りだ。春に地元の大学の文学部を卒業して、新卒で就職したはじめてひとり暮らしをした。引っ越した街のリサイクルショップにあった一番安い中古品のオーブンレンジだった。「千円」と赤いペンで値段が書かれた紙は少し日に焼けていたけれど、定期的に掃除をしているようで、埃も被らず小綺麗だった。店のおじさんは自分の店で売っておきながら、口ではレジで規定の接客

          【小説】白い猫と青い砂

          【小説】象渡りの島

          1. 毎年、秋の終わりにたくさんの象が一斉に海を泳いで大陸を目指す。冬がやって来る前に暖かい場所へ、象は海を泳いで渡っていく。もうすぐこの海岸の町には、大きな身体が押し寄せる。  象渡りは、キサロ島に生息する象の一亜種だけにみられる固有の習性だ。だから、ワタリゾウは他の象と少し違い、足はほんの少しだけ長い。泳ぐために進化した、体重を支えるギリギリの長さ。それから、泳いでる間の水の抵抗を小さくするために、耳が少し小さく、顔の側面にピタリと器用に引っ付けることができる。水に浮か

          【小説】象渡りの島

          友達と花背で焚き火をした日のこと

           4月に花背の畑に興味があると言ってくれていた友達と一緒に花背の畑に行った。野菜作りや土に興味があるらしいという話だった。4月に行きたいと言ってくれた時はその友達とは再会したてもあって、緊張してなんとなく一緒に花背に行くことに積極的ではなかったし、今年は私が畑をしていないから、ということで、行くタイミングをずっと逃していたのだけれど、それからその友達とは何度か遊んでいて、結構慣れていたし、やっと秋になって、焼き芋や焚き火を目的にして、一緒に行くことにした。   10年くらい畑

          友達と花背で焚き火をした日のこと

          象渡り 文舵練習問題②ジョゼ・サラマーゴのつもりで

          課題:一段落〜一ページ(300〜700字)で句読点のない語りを執筆すること(段落などのほかの区切りも使用禁止) テーマ案:革命や事故現場、一日限定セールの開始直後といった緊迫・熱狂・混沌とした動きのさなかに身を投じている人たちの群衆描写。 意識を向上させるためのもの。使用を禁止することで、どうか句読点の真価を考えるようになってほしい。 【句読点なし】 今年の象渡りはいよいよ明日だろうと水温観察係は高らかに宣言した毎年の事ではあるがいつまで経っても象渡りは慣れない事だった町の

          象渡り 文舵練習問題②ジョゼ・サラマーゴのつもりで

          アンソロジー・レッスン(第二回かぐやSFコンテスト最終候補全作品の感想)

           第二回かぐやSFコンテスト最終候補作品の全作品の感想です。  アンソロジーにはタイトルだけで作者名がないものがある。第二回かぐやSFコンテストの最終候補作の公開十作品は、今、タイトルと作品だけが公開されている。あ、一緒だと思った。さらにそれがランダムに表示されるようになっているのだけど(その本当の理由はまんべんなく作品を読んでもらうための工夫で大体端から読まれることが多いから)、そのランダム表示なのも手伝って、それなら自分で一番ベストな作品の並べ方を考えてみたくなった。短編

          アンソロジー・レッスン(第二回かぐやSFコンテスト最終候補全作品の感想)

          映画『DAHUFA -守護者と謎の豆人間-』についてのメモ(分析)

           この文章は映画のネタバレを含むので、一度映画を見てから読んでいただくことをお勧めします。映画を見て、気になった人向きの文章です。  『DAHUFA -守護者と謎の豆人間-』は中国のアニメだ。アニメだけどバイオレンス描写が激しいため、中国での上映時は十三歳以下は入場不可と自主規制をしていた。子どものものとされるアニメを、大人のアニメとした作品。約十五億円の興行成績を記録している(だけどこれが中国市場としてどれくらいの功績かはわからない)。  物語のあらすじは、守護者ダフフ

          映画『DAHUFA -守護者と謎の豆人間-』についてのメモ(分析)

          【小説】新しい鳥の素材

           気温が下がらない常夏のような環境だ。生え変わる必要もよくなりずっと飴色をした翼のアマサギが、乾燥した空を飛んでいる。見下ろした大地は見渡す限り白い砂ばかり続く。地球上に水がなくなった。だけど、その地面には稀に植物が生えている。サボテンだった。広い大地に点在するサボテンの一つ一つは遠く離れている。アマサギはその間をパトロールする。この殺風景な砂一面の世界に変化をもたらすサボテンを待ちながら。空間にしても時間にしてもずっと長い間行き来する。
  アマサギが休憩のため止まるのは牛

          【小説】新しい鳥の素材

          お肉屋さんの絵

           銭湯はとても広くて、開店したすぐの時間帯に到着したけれど、常連のお客さん達が多かった。前日のお休みと、大通りの向こう側の近所の銭湯が一件臨時休業しているせいかもしれない。  銭湯の設備は泡風呂と電気風呂と水風呂と深い浴槽があるだけのとても素朴な銭湯だったけれど、ちょうど良かった。サウナがお休みしている。大きな壁画もなくて、その代わりタイルがかわいい。オレンジのなでしこ風の花柄や上方からぶら下がって並べられてくるブドウなど。朝出かける前に読んでいた新潟でいましているフィンレイ

          お肉屋さんの絵

          【掌編小説】てのひらのうた「はないちもんめ」遅延作

          こおり鬼 触るとひやっとした。とても気持ちがいい。足元には、いつも近所をうろつく猫までいる。冷気に惹かれてやって来て、それももうずっと動かない。そのまま一緒に凍ってしまったらしい。眠ってるみたい。人も猫もみんな白くなった。暑い日の夕焼けは、血のように真っ赤でとても綺麗だ。だけど、そろそろみんな帰ろうよ、って言っても誰一人動かない。涼しくなるようにこおり鬼しようって、誰が言い出したんだっけ?じゃんけんで負けたのは私。鬼の私がみんなを氷に変えて、残った私は一人になった。みんな仲良

          【掌編小説】てのひらのうた「はないちもんめ」遅延作

          【小説】囚われの歩く岩を待つ

           常にその行列の先頭で、わたしはわたしのためだけにあしらわれた箱に収まり移動した。わたしは一方通行の手紙だったはずが、領主と暮らす城から、生みの親である統治者の街へ、いつも連れられ帰っていく。生まれは江戸、育ちは阿波。わたしの故郷は江戸であり、阿波である。  旅の理由はさまざまあれど、わたしの旅はいわゆる公務だ。行きたいか行きたくないかは関係ない。行かねばならない公務の旅は、旅は旅でも旅という日常だ。わたしは繰り返し旅をし続けた。  見た目通り、わたしは物質的に薄くて軽い。し

          【小説】囚われの歩く岩を待つ