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友達と花背で焚き火をした日のこと

 4月に花背の畑に興味があると言ってくれていた友達と一緒に花背の畑に行った。野菜作りや土に興味があるらしいという話だった。4月に行きたいと言ってくれた時はその友達とは再会したてもあって、緊張してなんとなく一緒に花背に行くことに積極的ではなかったし、今年は私が畑をしていないから、ということで、行くタイミングをずっと逃していたのだけれど、それからその友達とは何度か遊んでいて、結構慣れていたし、やっと秋になって、焼き芋や焚き火を目的にして、一緒に行くことにした。 
 10年くらい畑をしていた、花背に行った。10年くらい畑をしていたけれど、今年はしていない。花背は京都の山奥にある集落で、自転車とバスで大体1時間半くらい掛かる遠さの場所だ。
 その日は、例によっていつもお世話になっている管理人のおじさんと一緒だった。おじさんは私たちにおじさんの畑で育った里芋とゴボウを掘らしてくれた。ゴボウは石が多い畑で真っ直ぐにはのびず、グネグネに曲がっていて掘りにくいから、本当はおじさんは掘らなくていいと言っていたけれど、私たちが勝手に掘っていった。本当に掘りにくかったので、ブツブツと何度も切れた。ゴボウと里芋を掘りながら、最近よく人から指摘される、私が人を信じすぎる件について、友達に相談したりした。人が言わんとしていることはわかったような気もしたけれど、それほど人を信じているつもりはないという、こちらの言い訳も聞いてもらった。
 おじさんの畑は、広くていろんなものが植わっているけれど、整理されていないところもあって、ずっと前に出来たゴボウの種もあった。おじさんはゴボウの種は形が気持ち悪いから嫌いだと言っていた。ゴボウの種は火星に咲く花みたいな形と色をしている。
 友達は今年仲間と一緒に作ったお米を持ってきてくれて、インド式の直火が可能な2段式のステンレス製のお弁当箱を使って、玄米を炊いた。それから、酸味のあるりんごをアルミホイルに包んだものを持ってきてくれていた。私はサツマイモを新聞紙とアルミホイルで包んだり、掘った里芋だったり、ジャガイモだったりを、同じようにして新聞紙とアルミホイルに包んで、火の中に入れた。
 今日は晴れていたので、農園の他の人もたくさん来ていた。だいたい家族で来たりしている。
その家族たちの1人がアライグマを発見したと言ったので、みんなで見に行く。ハクビシン用の罠の檻に、アライグマが引っかかっていた。管理人のおじさんはアライグマが引っかかるのは今年2回目だと言った。みんなでかわいいね、と言いながら、アライグマは檻を開けて逃すことになった。
 あとで上の畑を借りている若者に、害獣のアライグマを逃したことについて、おじさんはちょっと怒られていたけれど、おじさんは笑っていた。
 友達は海苔と塩と梅干しを用意してくれていて、時間をかけて炊けた玄米ご飯で三角おにぎりを作ってくれて、みんなで食べた。里芋はホクホクとしていたし、サツマイモはとろけていたし、りんごは酸味のある暖かいシャーベットみたいな味と食感をしていた。
 久しぶりに畑に来たので、集落の人が今何しているか聞いたら、友達だった大好きなおばあさんが亡くなった話や、前の会長が亡くなったという話を管理人のおじさんから聞いた。私は子供の頃、ミツバチハッチの冒険というアニメを観るのが好きだった。毎週楽しみにしていたのに、最終回だけ、うっかり昼寝をしてしまって見逃してしまった。そのことを思い出した。
 それから、いつもよくしゃべる老夫婦の家に挨拶しに行こうと、友達についてきてもらって一緒に尋ねて行った。道にはススキがたくさん生えていて、夕方前の斜めになりかけの太陽に、穂が白く光っていた。最初老夫婦の家のインターホンを押しても人がいなかったから、諦めて周辺の神社にでも散策に行こうとしたら、おじさんの方が友達と一緒に車で丁度帰ってきた。おじさんは、奥さんは去年死んだという。おじさんと私はだいたい口の悪い冗談を二人で言いまくっていたので、またそれも冗談だろうと思っていたら、本当に奥さんは亡くなっていた。壁に奥さんの写真があり、仏壇に白いお骨があった。奥さんに線香をあげる前に、持ってきたお菓子を仏壇に供えた。「気がきくもの持ってるね」とおじさんは言ったけれど、このお菓子は口の悪いそのおじさんと優しい奥さんに食べてもらうために、持ってきたのであって、これは仏壇に供えるために持ってきたのではなかった。そのことを仏前でもおじさんに言ったし、家に帰って1人で考えている時にも奥さんにお菓子を食べてもらえなかった事に、とても悲しい気持ちになってしまう。
 今は一人暮らしのおじさんは認知症らしく、よく物忘れをすると言っていた。それから、私と友達はおじさんにもてなされたコーヒーとお菓子をもらって食べながら、おじさんの昔の武勇伝や飼っていた犬の話なんかを聞いたりした。
 巻き込まれて一緒に行ってくれた友達は、私の親戚の家に遊びに言ったみたいな感覚だった、と言っていた。身辺整理をしているおじさんから、どさくさに紛れてあげると勧められた枕を、友達はもらってくれていた。
 自分の生活とこれからのことを一度考えたいと思って、今年は花背に行かなかった。花背の知っている人も自分もお互い10年歳をとった。花背の高齢化は気がかりだったけれど、久しぶりに畑に行っていないこの1年で、3人も知ってる人がいなくなっていた。
 多分来年は畑をまたすると思う。その理由は、今日友達にいろいろと言ってみたりして、ちょっと整理がついたところはある。その友達は来年6月お米の植え付けの時期までに、田んぼと畑のある場所に引っ越したいと言っていたから、また私からどこか遠くに行くかもしれない。
 友達は花背の道端に生えている草花を気に入って、色々と採取していた。里芋も土付きの塊のままを一株丸ごと重いのに持って帰っていた。里芋盆栽と呼んでいた。友達が花背にあるものをみたときの驚き方に、私はいちいち驚いていた。
山から降りて、市内の家に帰るためのバスを、上賀茂神社で待った。友達はまた花背に行きたいと言っていたので、じゃあ私もそれまた一緒に行きたい、と返すと、来週行くかも、紅葉狩りに、と言った。私はそんなに早くまた花背に行くつもりはなかったから、ちょっと驚いた。

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